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 普段の生活がどれだけ恵まれていたか。オレもそうであったようにそれ
に気づくのは何かを失ったときである。




**



 朝起きれば食卓に用意された朝食。母親にせかされながら学校へ向かう
道中、友達を見つけて悪ふざけ。学校ではいい子を演じ、放課後に思いを
はせる。チャイムが鳴れば校庭に飛び出し夕暮れまであそぶ。下校、家へ
と続く道へ入るため十字路の角を曲がると無機質な電子画面に囲まれた電
脳空間へ……

「って、えぇーーーーーーーーーー!!」
 突如起きた環境の変化に辺りを見回すオレ。いやいや、まだ導入始まっ
たばっかだよ!? 何もフラグ立ててねえよ!? オレの自己紹介もまだだし、
展開早すぎるだろ!!
 混乱する頭をフルに働かしながらオレ、新見都司(にいみ さとし)18歳、
都内某所に通う高校生、は自身の置かれた状況を理解しようと周りを取り
囲む電子画面に目を向ける。ドーム状に配された電子画面。映っているの
は2014年現在アナログ放送を選択するともれなくみられるあの砂嵐一色。
時折青い筋が上から下へと流れるがそれ以外変わったところはない。画面は
床にも伸びており、まるでオレの体が電脳世界に浮かんでいるような構図
である。

「……」
 いったい、どうなっている? オレは確かに下校途中、屋外にいたはず。
それなのに気づいたらここにいた。いつも通り、普段通りの生活を送って
いたはずだ。けれどここはなんだ? 意味が分からねえ。見回す限り出口
もなさそうなこの空間。まずどうやって入ってきたんだろうか。くそ、
これから友達との約束があるってのにこんな日に限って……

―ブーーン
 何かほかに注目すべき点がないか探していると突然聞こえる何かの起動
音。それと同時にオレの目の前、つまりは電子画面にぼんやりと何かの映
像が現れたのだった。その映像、徐々に徐々に形がはっきりとしていく。
その映像の中はどこか薄暗い部屋の中なのであろう。その部屋の全貌は暗
くてよく見えないが現れた映像の中心には鬼の面をつけた筋骨隆々な男の
姿が。





「……」
 映像が現れて数十秒。その中に映る男はその間一言も声を発せず動きす
らも見せない。そんな男の姿に気押されオレも何も話すことができないで
いた。けれどもさすがに何もしないことには進まない。意を決してオレが
話しだそうとしたその時、

「ようこそ、体感型RPG『ディスアビリティ』の世界へ☆ミ☆ミ 」
 口元が見えないため断定はできないがおそらくこの男が話しているのだ
ろう。……返答を聞くのが怖いので、あえて口調にはツッコマない。

「僕はこのゲームで進行役を務めさせていただく『ノーサイド』さんだよ
☆ミ☆ミ」
「……」
 ……うん、ツッコマない。あまりの微妙な雰囲気にいたたまれなくなる
もののそこはぐっとこらえてオレは『ノーサイド』の方を見る。

「なんかノリ悪いねェ☆ミ☆ミ そんなことじゃこれからの人生やっていけ
ないよ(笑)」
「そりゃどうも」
「やっと声が聞けた☆ミ☆ミ よーし、じゃあ早速説明しちゃうよーー☆ミ☆ミ」
 どんどんウザさが加速するノーサイド。オレは思った以上に厄介なこと
に巻き込まれてしまったのかもしれない。

***


「おい、ノーサイド、とか言ったか? どうしてオレはここに連れてこら
れたんだ」
「おお、おお。質問だね☆ミ☆ミ ようやくやる気になってきたようだ……
けど残念。それは教えられないよ☆ミ☆ミ ここから出たければゲームをク
リアすればいい」
「はぁ? ゲーム?」
 ノーサイドの目元がゆるむ。いちいちうっとおしいやつだ。


「今からサトシ君にやってもらうのはRPG。それも五感が現実の体とリ
ンクしたもの。視覚、聴覚はもちろん嗅覚、味覚、触覚。どれも現実と遜
色なく感じ取ることができるよ☆ミ☆ミ」
 感覚がリンク……つまりこの異様な空間にいる現状はすでにオレがRP
G世界の中に入り込んでいるということか? だとしてもいつの間にとい
う疑問は残るが……。考えを巡らせるオレをよそにノーサイドの説明は続
く。

「ゲームの特徴は三つ。一つはもちろん感覚が現実の肉体とリンクすると
いうこと。二つ目、このゲームにはサトシ君のほかにもプレーヤーがいて
それぞれに騎士や盗賊といった役職が振り分けられるんだけど、役職には
それぞれクリア目標っていうのが設定されているんだ。つまり役職が違え
ばゲームの進め方も違ってくるということだね☆ミ☆ミ そして3つめ。これ
はプレイヤーにとっては悪い知らせ何だけど1プレーヤーにひとつ『欠能
力(ディスアビリティ)』が課せられる」
「ディスアビリティ? なんだそれ」
 当然オレに聞き覚えはない。だから質問したのだが、質問した手前、回
答を聞くのが筋であろう。けれども正直この得体のしれない男と画面越し
とはいえ向かい合っているのは心理的にきついものがあり、現にオレの目
はこの空間から出るための出口を捜し動き回っているのだった。

「『欠能力(ディスアビリティ)』、簡単に言うならば『何かができなく
なる』ことね。例を挙げるなら『武器を装備できない』とか『HPを回復
できない』とか。まあ、やってく内にわかると思うから安心していいわよ
☆ミ☆ミ それよりも君の様子を見るとどうも落ち着かないようだからもう
ゲーム、はじめちゃいましょうか」
「えっ、ああ」
 ノーサイドの問いに反射的に返事をするオレ。その声に反応したのかど
うかは知れないがノーサイドの映っている画面を除いた場所に映る砂嵐は
姿をけし、代わりに徐々に淡い青が画面いっぱいに広がっていく。

「ちょっと待った」
 何これ始まっちゃう感じ? 展開早いのにも大概にしろよ。オレはただ
帰りたいだけだってのに……



「じゃあ、ゲーム開始したらステータス画面を確認して頂戴☆ミ☆ミ ラン
ダムで割り振られたステータス、役職、欠能力が確認できるわよ☆ミ☆ミ
あと、私からの気持ちでいくつかアイテムが送られているからメールボッ
クスも確認して頂戴ね☆ミ☆ミ」
「無視かよ!!」
 画面が切り替わっていく間も話し続けるノーサイド。けれども彼が移る
その画面も青色へと染まっていく。その青は段々と濃さをましやがてオレ
の周りはその色一色に染まってしまう。

「では形式なんで言わせてもらうわね☆ミ☆ミ 自由度無限大!!パラレルエ
ンディングRPG『ディスアビリティ』、はっじまっりま~~~~~す☆ミ
☆ミ」
 この声を最後にノーサイドの姿は画面から完全に消える。あとに残るの
は文字通り一面の青だけであった。

「ちょっ、うわっ」
 始まるとか言われても意味わかんねえ。文句を言おうと口を開いたオレ
だったが頭に描いた言葉を言い終わる前にその言葉を発そうとしていたオ
レの口は強制的に閉じられる。オレの口をふさいだ力、それはまるでスカ
イダイビングで飛行機から飛び降りたときのような空気から受ける抵抗の
それに近い感じがする。まあ、そうはいってもスカイダイビングなんてや
ったことあるはずもな……って、

「ぎゃあああああああああああああああ」

―ダーーーーーーーーーーーーーーーーーン





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