「まあ、しかし俺の実力が認められたようでよかった。帰れ帰れ言われると本当に帰りたくなってくるなるからな」
『ふぉふぉふぉ、あの騎士殿も少しは評価を改めたことじゃろうて。お前さんがちゃんと修行しとるのは他でもないワシが保証してやるぞい』
「お前そんなキャラだったっけ?」
ごとごとと常に揺れる竜車上では、囁き声はほとんど聞こえない。
長期間放置したり会話を聞き流したりするとフテて切れ味の劣化や重量の変化が起こるという果てしなくめんどくさい剣、エアルド。
ディリシアはどうにか誤魔化せるとして、ミレイにでも会話を聞かれたら冷たい目で見られかねない。
エアルドに構えなくなる→戦闘力が落ちて足手まといになる→「貴方いらないです」→強制送還のコンボは最悪だ。
そういうわけで、竜車の存在は非常にありがたかった。
「途中で逃げ帰るわけにはいかない。あいつを脅かすものは魔物だろうが聖獣だろうが、全部斬り裂いてやる……」
『魔物はともかく、聖獣はそう簡単にはいかないでしょうぜ』
決意を秘めた眼差しのジャスバルにエアルドが口を挟む。
「そこはエアルド、お前にかかっている。『魔剣』エアルド……切れ味も強度も他の剣とは比べるべくもない。おまけに記憶喪失によりこれでも真価を発揮していないときたもんだ」 「……」
『ああ。確かに今の我は全盛にはほど遠いだろう。魔力のキレが悪い事くらいは理解している』
「だろ? 素直な話、世界に影響を及ぼすような神霊の類を、俺達だけでどうにかできるとは思っていない。はっきり言って、100%不可能だ……お前が真の力を取り戻せなければ、な」
そこでジャスバルは昔、祭の露天で立ち読みした一冊の本を思い出した。
なんでも、太古には神々を屠るべくおぞましい製法で作り出された魔剣が存在していたらしい。
所有者の生命力を魔力へと変換し、人智を越えた力で目の前にある全てを破壊する、神殺しの魔剣。
その剣の名前は……かすれて読む事ができなかった。
「俺はディリシアを守るためなら手段は選ばない。例えお前の正体がどんなものであったとしても、俺は手放さない。
だから。俺に力を貸してくれ……相棒」
柄を、ぎゅっと握りしめる。
「……!」
『あらぁん、そんな事言われると照れちゃうわねぇん』
「俺割と真面目に話してるんだから口調戻してくれない?」
『す、すまん……決してふざけているわけではないのだ。ただ……』
「ただ?」
「……」
『誰かの意志、いや、これは記憶か……? それが流れてくるのだ。何人もの、な』
「ディリシア……」
ジャスバルがトイレに言っている間に、顔色の悪いミレイがのそのそと竜車内に入ってきた。
「? どうしたの、ミレイさん」
「ジャスバルが何か口をパクパクさせてると思ったらいきなり剣を握りしめたりして怖かったんですけど……何ですか、あれ?」
幽霊でも見ていたかのような口調のミレイに、ディリシアはふふっと面白そうに笑う。
「あ、それなら大丈夫。たまにあるの、剣に話しかけてる事が。本人はバレてないと思ってるみたいだから、そっとしておいてあげてね」
「ああ……そ、そうなんですか。まあ人には色々ありますよね。わかりました」
それ以来、ミレイのジャスバルに対する視線はやや生暖かいものとなり、言動も少し優しくなった。
がんばれジャスバル。
マジがんばれ。