トップに戻る

<< 前

3見えざる者

単ページ   最大化   

 俺は東雲和也。
割と普通のはずの中学生だ。
今日もいつものようにソファに座り、朝のテレビを見ている。
 昨日初めて魔物を封印したわけだが、どうも実感が無い。
魔王から借りた力のおかげで難なく封印できてしまったため、なんだか物足りない。
魔物との戦いっていうのは、もうちょい白熱してるものじゃないのかね。
『楽に行くに越したことは無いだろう。』
 それはそうなんだが・・・。
せっかく魔物と戦えるんだから、少しくらい苦労したいと言うかなんというか・・・。
『心配しなくても、そのうち嫌でも苦労するようになる。』
それならいいんだがなあ。
『まあ今は束の間の平和を噛み締めておくことだ。』
『今みたいに苦労したいなんて、思えなくなるぞ。』
そう言われると少し怖いが、燃えてくるな。
漫画の主人公みたいに白熱した戦いが出来ると思うと、わくわくしてくる。
『不思議な奴だな・・・。』
それはよく言われるな。
『そうだろうな。』
まあ不思議な奴っていわれるのは好きだからいいんだけどな。
『やはり変わっている。』
 しかし、朝というのは暇だ。
今日はまだ時間に余裕がある。
俺は部屋に戻って先に時間割をそろえることにした。
 部屋は相変わらず散らかっている。
自分では片付けないし、親も仕事があるから片付けてくれない。
リュックに教科書を詰めた俺は、再びリビングのソファに戻ることにした。
 ソファに戻った俺は、テレビの時計を見る。
まだ7時30分だ。
ところで魔王。
『なんだ。』
封印した魔物と会話したりすることは出来ないのか?
『俺は出来るが、お前には出来ない。』
なんで俺にはできないのに魔王にはできるんだ?
『俺はお前の体の中にいるから魔物に干渉できる。』
『だがお前は体の中の魔物に干渉することは出来ない。』
『なぜならお前には魔力が無いからだ。』
『魔力が無ければ魔物に干渉することも、会話することも出来ん。』
魔力を得ることはできないのか?
『俺の魔力を使い続ければ、そのうち自分で魔力を作り出せるようになるはずだ。』
魔王の魔力ってのは便利なんだな。
『万能というわけではないがな。』
割と万能って感じするけどなあ。
『ところで、時間は大丈夫なのか?』
 テレビを見てみると、いつもの如く7時50分になっていた。
またか。
もはや遅く行くのが日常になりつつある。
今日も部屋に戻り制服に着替え、リュックを背負い、家を出る。
今日は妙に風が強い。
向かい風に襲われながらも、急いで学校に走る。
学校が見えてきた。
 学校の正門をくぐり、ふと校庭のほうに目を向けてみると、小さな竜巻が砂や葉を巻き上げていた。
風が強いというだけだが、いつもと違う光景が見れるのはうれしい。
人の服や木の枝などが、風で揺らめいているのを見るだけで、非日常を感じられる。
少しだけの非日常をかみ締めながら、下駄箱へと歩く。
校舎の中に入ってしまうと、いつもとなんら変わらない日常が現れる。
俺の中の非日常は終わりを告げた。
相変わらずいつもと変わらない下駄箱で、靴を脱ぎ、上履きに履き替える。
自分の教室に向かうために階段を上がる。
 廊下に砂や葉がたくさん落ちている。
開いている窓から砂や葉が入り込んでいるのだろう。
廊下を掃除する人たちを哀れに思いながら、教室の扉を開ける。
そして自分の席まで歩いていくが、机の上にも砂がたくさん付いている。
席が窓際だから仕方が無いのだろうが、机の上がじゃりじゃりしていると気分が悪い。
俺の席は窓際の席の一番後ろだ。
机の上に付いた砂を制服の袖で拭き、リュックを机の上に降ろす。
教科書をリュックから出し、机の中に入れる。
自分の席のちょうど真後ろにあるロッカーにリュックを入れ、席に座る。
また、いつもと変わらない一日が始まる。


 今日もぼんやりとしていたら一日が終わっていた。
俺はロッカーからリュックを取り出し、教科書をリュックの中に詰める。
リュックを背負い、教室の扉を開ける。
さて、家に帰るとしよう。
廊下を歩いていると、窓ががたがたと音を立てている。
あれ、ちょっと風が強すぎないか?
そう思った瞬間、窓が割れ、ガラスの欠片が雨のように俺の体に降り注ぐ。
俺はとっさに走って逃げようとするが、間に合わなかったようだ。
左腕にガラスが突き刺さる。
血が大量に流れ出す。
思っていたよりずっと痛い。
周りの生徒達がどよめいている。
俺に何かを言っているようだが、よく聞こえない。
魔王、この傷を治すことは出来ないのか?
『この程度の傷なら、俺の魔力で直すことが出来るだろう。』
『腕に魔力を集中させるんだ。』
俺は腕に刺さったガラスを全て引き抜き、腕に魔力を集中させる。
腕の傷がふさがっていく。
徐々に痛みも引いていった。
制服が半袖で助かったな。
長袖だったら制服に穴が開いてしまっていたところだ。
早く帰りたいところだが、今のでわかったことがある。
この風は魔物の仕業だ。
窓を割るほどの風を発生させられるほどの力があるということは、近くにいるはずだ。
探そう。
魔王、近くにいる魔物の魔力を探ることは出来るか?
『頭に魔力を集中させろ。』
魔王の言う通りに頭に魔力を集中させる。
・・・屋上か。
 俺は全速力で階段まで走る。
ガラスの破片が足に刺さるが、気にしない。
リュックに入った教科書が重いが、気にしない。
階段を全力で駆け上がる。
階段を一段一段上るたびに、ガラスの破片が足に深く刺さっていく。
ああ、非日常、わくわくするぜ。
屋上の扉の前まで来た。
屋上は立ち入り禁止だが、そんなことは気にしない。
扉には案の定鍵がかかっている。
蹴破ろう。
 俺はリュックを扉の前に置き、足に魔力を集中させ、力任せに扉を蹴る。
扉はまるで固定されていないかのように、軽やかに吹っ飛ぶ。
足に鈍い痛みが走る。
屋上を見渡すと、一人の人型の魔物がいた。
こいつが風を操っていたのか。
緑色の長い髪、少し力を入れただけで折れてしまいそうな華奢な手足。
申し訳程度にボロ布を纏っているが、ほぼ全裸。
魔力が無ければ本当にただの女の子だな。
 しかし目に毒だ。
早く封印してしまおう。
もう一度足に魔力を集中させ、地面を蹴る。
それと同時に、魔物の風が俺の体に切り傷をつける。
魔物の目の前まで行き、殴りかかる。
 が、風が強すぎて拳が切れていく。
風の勢いで殴りの勢いが打ち消され、簡単によけられてしまう。
俺は爪を生やし、もう一度魔物に襲い掛かる。
爪を振りかざし、魔物に向かって振り下ろそうとするが、先に魔物の風が俺の腕を貫いた。
それは刃物のように、俺の両腕に突き刺さり、深く腕を抉っていく。
爪で腕に刺さる風を切り裂き、俺は一度魔物との距離を離す。
 だめだ。
このままでは勝てない。
両腕に魔力を集中させるが、全く傷が治る気配が無い。
深く抉られすぎたのか・・・。
しかし不幸中の幸いだ。
骨は折られていない。
骨が折られない限り、まだ腕は動く。
両手に魔力を集中させ、サッカーボール大の気を作り出し、魔物に向かって投げる。
しかし、風で軌道をずらされ、あたらない。
 気はあまり役に立たないな。
どうしたもんか・・・。
思考をめぐらせていると、魔物が俺の腹に風の刃を突き刺してくる。
早い・・・。
翼を生やし、飛ぼうとするが、うまく翼を動かすことが出来ない。
 体の感覚が徐々に薄れてくる。
俺はもう一度爪を生やし、腹に刺さる風を切り裂く。
足に魔力を集中させ、魔物との距離を詰める。
両手に気をつくり、魔物にぶつけようとするが、風に打ち消される。
また風の刃が両腕をえぐる。
 どうやら両腕をえぐっているときは、体の他の箇所は狙われないらしい。
俺は頭に角を生やし、足に魔力を集中させ、地面を蹴り、魔物の体に頭の角を突き刺す。
角が魔物の腹に刺さった。
両腕に突き刺さる風が弱まる。
角を腹から引き抜き、両手に気を作り、魔物の腹にぶつける。
魔物がひるんでいる隙に、魔物の頭を蹴り飛ばす。
そのまま魔物は吹っ飛んでいき、フェンスにぶつかる。
 動かなくなった・・・。
俺は魔物との距離を急いで詰め、魔物の頭に手をかける。
そして、吸い込む。
これで、封印完了か・・・。
 俺は血みどろの体を動かし、屋上から去ろうとするが、足が動かない。
体の感覚が無くなる。
意識が・・・・・・途絶える・・・・・・。



3

三葉虫 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前

トップに戻る