俺は東雲和也。
割と普通のはずの中学生だ。
今日もいつものようにソファに座り、朝のテレビを見ている。
昨日初めて魔物を封印したわけだが、どうも実感が無い。
魔王から借りた力のおかげで難なく封印できてしまったため、なんだか物足りない。
魔物との戦いっていうのは、もうちょい白熱してるものじゃないのかね。
『楽に行くに越したことは無いだろう。』
それはそうなんだが・・・。
せっかく魔物と戦えるんだから、少しくらい苦労したいと言うかなんというか・・・。
『心配しなくても、そのうち嫌でも苦労するようになる。』
それならいいんだがなあ。
『まあ今は束の間の平和を噛み締めておくことだ。』
『今みたいに苦労したいなんて、思えなくなるぞ。』
そう言われると少し怖いが、燃えてくるな。
漫画の主人公みたいに白熱した戦いが出来ると思うと、わくわくしてくる。
『不思議な奴だな・・・。』
それはよく言われるな。
『そうだろうな。』
まあ不思議な奴っていわれるのは好きだからいいんだけどな。
『やはり変わっている。』
しかし、朝というのは暇だ。
今日はまだ時間に余裕がある。
俺は部屋に戻って先に時間割をそろえることにした。
部屋は相変わらず散らかっている。
自分では片付けないし、親も仕事があるから片付けてくれない。
リュックに教科書を詰めた俺は、再びリビングのソファに戻ることにした。
ソファに戻った俺は、テレビの時計を見る。
まだ7時30分だ。
ところで魔王。
『なんだ。』
封印した魔物と会話したりすることは出来ないのか?
『俺は出来るが、お前には出来ない。』
なんで俺にはできないのに魔王にはできるんだ?
『俺はお前の体の中にいるから魔物に干渉できる。』
『だがお前は体の中の魔物に干渉することは出来ない。』
『なぜならお前には魔力が無いからだ。』
『魔力が無ければ魔物に干渉することも、会話することも出来ん。』
魔力を得ることはできないのか?
『俺の魔力を使い続ければ、そのうち自分で魔力を作り出せるようになるはずだ。』
魔王の魔力ってのは便利なんだな。
『万能というわけではないがな。』
割と万能って感じするけどなあ。
『ところで、時間は大丈夫なのか?』
テレビを見てみると、いつもの如く7時50分になっていた。
またか。
もはや遅く行くのが日常になりつつある。
今日も部屋に戻り制服に着替え、リュックを背負い、家を出る。
今日は妙に風が強い。
向かい風に襲われながらも、急いで学校に走る。
学校が見えてきた。
学校の正門をくぐり、ふと校庭のほうに目を向けてみると、小さな竜巻が砂や葉を巻き上げていた。
風が強いというだけだが、いつもと違う光景が見れるのはうれしい。
人の服や木の枝などが、風で揺らめいているのを見るだけで、非日常を感じられる。
少しだけの非日常をかみ締めながら、下駄箱へと歩く。
校舎の中に入ってしまうと、いつもとなんら変わらない日常が現れる。
俺の中の非日常は終わりを告げた。
相変わらずいつもと変わらない下駄箱で、靴を脱ぎ、上履きに履き替える。
自分の教室に向かうために階段を上がる。
廊下に砂や葉がたくさん落ちている。
開いている窓から砂や葉が入り込んでいるのだろう。
廊下を掃除する人たちを哀れに思いながら、教室の扉を開ける。
そして自分の席まで歩いていくが、机の上にも砂がたくさん付いている。
席が窓際だから仕方が無いのだろうが、机の上がじゃりじゃりしていると気分が悪い。
俺の席は窓際の席の一番後ろだ。
机の上に付いた砂を制服の袖で拭き、リュックを机の上に降ろす。
教科書をリュックから出し、机の中に入れる。
自分の席のちょうど真後ろにあるロッカーにリュックを入れ、席に座る。
また、いつもと変わらない一日が始まる。
今日もぼんやりとしていたら一日が終わっていた。
俺はロッカーからリュックを取り出し、教科書をリュックの中に詰める。
リュックを背負い、教室の扉を開ける。
さて、家に帰るとしよう。
廊下を歩いていると、窓ががたがたと音を立てている。
あれ、ちょっと風が強すぎないか?
そう思った瞬間、窓が割れ、ガラスの欠片が雨のように俺の体に降り注ぐ。
俺はとっさに走って逃げようとするが、間に合わなかったようだ。
左腕にガラスが突き刺さる。
血が大量に流れ出す。
思っていたよりずっと痛い。
周りの生徒達がどよめいている。
俺に何かを言っているようだが、よく聞こえない。
魔王、この傷を治すことは出来ないのか?
『この程度の傷なら、俺の魔力で直すことが出来るだろう。』
『腕に魔力を集中させるんだ。』
俺は腕に刺さったガラスを全て引き抜き、腕に魔力を集中させる。
腕の傷がふさがっていく。
徐々に痛みも引いていった。
制服が半袖で助かったな。
長袖だったら制服に穴が開いてしまっていたところだ。
早く帰りたいところだが、今のでわかったことがある。
この風は魔物の仕業だ。
窓を割るほどの風を発生させられるほどの力があるということは、近くにいるはずだ。
探そう。
魔王、近くにいる魔物の魔力を探ることは出来るか?
『頭に魔力を集中させろ。』
魔王の言う通りに頭に魔力を集中させる。
・・・屋上か。
俺は全速力で階段まで走る。
ガラスの破片が足に刺さるが、気にしない。
リュックに入った教科書が重いが、気にしない。
階段を全力で駆け上がる。
階段を一段一段上るたびに、ガラスの破片が足に深く刺さっていく。
ああ、非日常、わくわくするぜ。
屋上の扉の前まで来た。
屋上は立ち入り禁止だが、そんなことは気にしない。
扉には案の定鍵がかかっている。
蹴破ろう。
俺はリュックを扉の前に置き、足に魔力を集中させ、力任せに扉を蹴る。
扉はまるで固定されていないかのように、軽やかに吹っ飛ぶ。
足に鈍い痛みが走る。
屋上を見渡すと、一人の人型の魔物がいた。
こいつが風を操っていたのか。
緑色の長い髪、少し力を入れただけで折れてしまいそうな華奢な手足。
申し訳程度にボロ布を纏っているが、ほぼ全裸。
魔力が無ければ本当にただの女の子だな。
しかし目に毒だ。
早く封印してしまおう。
もう一度足に魔力を集中させ、地面を蹴る。
それと同時に、魔物の風が俺の体に切り傷をつける。
魔物の目の前まで行き、殴りかかる。
が、風が強すぎて拳が切れていく。
風の勢いで殴りの勢いが打ち消され、簡単によけられてしまう。
俺は爪を生やし、もう一度魔物に襲い掛かる。
爪を振りかざし、魔物に向かって振り下ろそうとするが、先に魔物の風が俺の腕を貫いた。
それは刃物のように、俺の両腕に突き刺さり、深く腕を抉っていく。
爪で腕に刺さる風を切り裂き、俺は一度魔物との距離を離す。
だめだ。
このままでは勝てない。
両腕に魔力を集中させるが、全く傷が治る気配が無い。
深く抉られすぎたのか・・・。
しかし不幸中の幸いだ。
骨は折られていない。
骨が折られない限り、まだ腕は動く。
両手に魔力を集中させ、サッカーボール大の気を作り出し、魔物に向かって投げる。
しかし、風で軌道をずらされ、あたらない。
気はあまり役に立たないな。
どうしたもんか・・・。
思考をめぐらせていると、魔物が俺の腹に風の刃を突き刺してくる。
早い・・・。
翼を生やし、飛ぼうとするが、うまく翼を動かすことが出来ない。
体の感覚が徐々に薄れてくる。
俺はもう一度爪を生やし、腹に刺さる風を切り裂く。
足に魔力を集中させ、魔物との距離を詰める。
両手に気をつくり、魔物にぶつけようとするが、風に打ち消される。
また風の刃が両腕をえぐる。
どうやら両腕をえぐっているときは、体の他の箇所は狙われないらしい。
俺は頭に角を生やし、足に魔力を集中させ、地面を蹴り、魔物の体に頭の角を突き刺す。
角が魔物の腹に刺さった。
両腕に突き刺さる風が弱まる。
角を腹から引き抜き、両手に気を作り、魔物の腹にぶつける。
魔物がひるんでいる隙に、魔物の頭を蹴り飛ばす。
そのまま魔物は吹っ飛んでいき、フェンスにぶつかる。
動かなくなった・・・。
俺は魔物との距離を急いで詰め、魔物の頭に手をかける。
そして、吸い込む。
これで、封印完了か・・・。
俺は血みどろの体を動かし、屋上から去ろうとするが、足が動かない。
体の感覚が無くなる。
意識が・・・・・・途絶える・・・・・・。