【起】
甚太郎は怠け者で、協調性が無く、おまけに性格も悪かった。狭い村社会でこれは致命的と言っていい。だんだんと「村の変わり者」扱いされた甚太郎は、高校を卒業後、地元の農協に勤めたはいいが、些細なことから同僚と喧嘩をした挙句、「一身上の都合により」退職した。今は、日がなブラブラして、両親が残してくれた遺産でなんとか食いつないでいる。もっとも、月に2~3回も風俗店に行くものだから、そんなに多くもない遺産はどんどん減っていく。が、甚太郎はそんなことは気にもかけない。楽天的なのではない。「今さえ良ければ」という、刹那的な考えの持ち主なのだ。
――さて。話はここからである。
平日の昼間、甚太郎がテレビを眺めていると、呼び鈴を押すものがある。この男は集落の人間とはほとんど交わりがない。田舎の生活において重要な、自治会活動や青年団などといったものも、全く放棄している。村八分といって差し支えない。だから、「訪問客とは珍しいな」と甚太郎は思った。NHKか、宗教か、はたまたお節介な自治会長が働けと発破をかけにきたのか。
別に出る必要はなかったが、暇だったので、甚太郎はとりあえず玄関に出た。すると、そこには西洋の魔女のような恰好をした娘が立っていた。
「お忙しいところ、大変失礼いたします。はじめまして。私、魔法使い見習いのララと申します。偉大な魔法使いであるラクシャ様に弟子入りするため、ミル国から参りました」
澱みのない挨拶。しかし、その内容たるや狂気染みている。宗教勧誘の類であろう、と甚太郎は判断した。
「たいがいにしとけよ」
吐き捨てるように言って、引き返そうとしたとき、娘は甚太郎の前に回り込んだかと思うと、両膝を地面につけ、跪いた。
「どうか、魔法をご伝授下さい」
甚太郎は娘の気迫に押されて、とりあえず部屋で話を聞くことにした。