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第二章 遠い過去よりつぶやかれる音色

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俺はベッドの上で横になっていた。

自分がいつ眠ってしまっていたのかわからなかった。


周囲は研究室の照明で明るく、そばに置かれたコンピューターの無機質な音が聞こえてくる。

右腕の内側に針が刺さっており、繋がったチューブから液体が流し込まれていた。

身体を横にすると腕の側面にシーツの感触が当たり、それがなぜか懐かしいものに感じられた。


ピノに演奏を指導すると言ってから、その後の記憶がなかった。

2億年も眠っていたせいか倦怠感が激しく、いつでも意識を失ってしまう身体になってしまったのではないかと考えた。


最初にこの部屋で目覚めたときは、自分の置かれている状況がわからず、混乱と恐怖に襲われたのを思い出す。

しかし、死ぬまでの一ヶ月でこなさなければならない目標ができて、“あの時代”で生きていたよりも生きがいというものを実感できるようになっていた。




「ん?」

それとなく目をやった部屋の出入り口に、何かの存在をはっきりととらえた。

顔を半分だけ覗かせて、こちらをじっとみている何かと目が合う。


「……じーっ」


いかにも怪しいものを見るような目つきで。


「……じーーーっ」


声のトーンを徐々に高くしながら。


「……じぃーーーーーっ」


こちらをうかがっている。




「ああ、うっとうしい! いちいち擬音を声に出すなっ!」

俺は無視しきれず、つい声を荒げてしまう。


びくっと身体が浮き上がったのと同時に、自動ドアのセンサーが反応して“それ”は二枚の板に勢いよく挟まれた。

ふぎゃ、という悲鳴をあげて、部屋の中に転がり入ってくる。


「痛たたた……壊れるかと思っちゃった。まあ、わたし機械だからべつに痛くないんだけど」


アンドロイドか? ピノと同じように、耳元にはとがった機械がくっついていた。


「なあ、それって猫耳なのか?」

彼女は床に突っ伏していた顔を上げ

「どっちかっていうと、エルフ耳?」

と言いながら立ち上がって、スカートを3回ほどはたいた。




ピノと同じタイプのアンドロイドにしては身長がやたらと低く、耳だけを除けば小柄な少女にしか見えない。

全体的に黄色のデザインで、子どものように今にも転びそうなステップで近寄ってくる。

「ほーほーほー、これが噂に聞くワタルってやつですかー」

顔を見上げて、まじまじと見つめてくる。


「おい子ども、名乗りたまえ」

「はっ」

彼女は敬礼のポーズをとる。

なんだか勢いにのまれて、こっちもつい悪乗りをしてしまう。





「わたくしは第36万8521世代アンドロイド、最新機種ミルル・アンドロイドでありますっ!」


 
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