ちがうよ、彼は悪者なんかじゃない。
白の部屋 第四話
「グレーゾーン」
「扉だ・・・」
「ね!」
二人の目の前に、白い扉と金の装飾の扉。
リコは吸い込まれるように触ります。
じんわりと暖かくて、惹きこまれるようです。
「二人にも、教えてあげなきゃ。」
「うん、そうだね・・・いや」
遠くから、こちらに走ってくる音と、羽音が聞こえます。
リコは驚いて音のほうを向きます。
エンサーの顔ものぞいてみましたが、
長い前髪でその表情を見ることはできませんでした。
「リーコー!あ、あれ?エンサー?」
ロゼは、急ブレーキをかけてとまりますが、
蜂のほうはと言うとスピードをそのままにエンサーにつかみかかります。
勢いで、細身のエンサーは後ろによろけます。
「おまえ!エンサー何やってやがる!」
ばっちーはものすごく怒っていました。
羽がぶんぶんと大きな音を立てています。
エンサーはおびえた表情でつかみかかっているばっちーの手を押さえて
首を横に振ります。
「な、なにって、皆を追っている途中に、この扉を見つけたから・・・」
「え、エンサーは案内してくれてたんだよ、ばっちー!」
リコはかばおうとして、ばっちーをエンサーから引き離そうとします。
それでも、彼は手を放そうとしませんでした。
「案内って・・・あれは闇への入り口じゃないか!」
その一言が周囲に響いたときに、
真っ白だった扉が、ゆっくりと歪み始めました。
そして、だんだんと赤黒くなり、ざわざわとした鳥肌が皆を襲いました。
リコもエンサーも、驚いて飛びのきます。
やがて、その入り口は誰も通らないと判断したのか、
すーっと消えてゆくのでした。
しばし沈黙が流れます。
ロゼが、その沈黙を破りました。
「エンサー、きみ、カンセルになにかされたンじゃない~?」
ちょっといたずらっぽい表情をして、
瞳には少し疑いを含ませて、彼の顔を覗き込みます。
彼はさっと青ざめて、首がちぎれそうなくらい首を左右に振ります。
「そんなはずは・・・」
「ホントに、大丈夫~?」
ロゼの瞳から疑いの色が消えて、ふふ、っと短く笑います。
場が、ふんわりとなごやかになりましたが、
一人だけ、どうしても納得が出来ないという風に
羽音をぶんぶんと大きく鳴らす少年が一人。
「おまえ、もう一緒に来るな。」
厳しい一言が、なごやかな空気を裂きました。
ロゼはここで、出逢ってから初めて困った顔をします。
他の二人は、言葉を無くしてしまいます。
「まあまあ、ばっちー落ち着いてえ。」
「おかしいだろ、闇の入り口と扉を間違えるなんて!何かされたにきまってる!」
「うう・・・」
「まあまあばっちー、そういうこというなよお。
エンサーはリコと二人で歩かないようにしてもらってさ!
もうちょっと、一緒に居よう?ほら!仲直りの握手握手!」
ものすごい剣幕の少年に、気弱な青年はまたおびえて今にも泣いてしまいそうです。
それでも、赤い妖精はあくまでもなごやかに事を進めます。
静かな空間に、ぶんぶんと羽音が響きます。
全く動こうとしない3人にしびれを切らして、
「さ!次行ってみよう~」
と、ロゼはリコの手をひいて、壁のあったほうい歩いてゆくのでした。
バッチーはカンセルを一瞥してから少し考えて、
無理矢理に握手をして二人を追います。
それが、「仲直りの握手」だと判断したエンサーは、
嬉しそうにその背中を追うのでした。
・・・やがて一行は、立ちはだかっていた壁に戻ってきました。
壁伝いに歩いてゆくと、不思議とすぐに扉を見つける事が出来ました。
それは、まっ白で、金装飾の入った二枚扉。
「ああ、なんて素敵な扉・・・」
リコは、息をのみました。
キラキラ輝いているようにも見えるそれは、
さっき見つけた偽物の扉なんかより、ずっと素敵で魅力的です。
「さあて!さっそくオープンゴマッてしてみましょか!」
「それを言うならオープンセサミか開けゴマだろ・・・」
ロゼは舌なめずりをして、扉に手を掛けます。
ばっちーもそれを手伝おうと一緒に手を掛けます。
「・・・ね、私開けてみたい・・・」
手を掛けてさあ開こう!とする妖精二人に、
リコはぽつりとつぶやきます。
ロゼもばっちーも驚いた表情をしましたが、
すぐに笑顔になって
「ドーゾドーゾ!扉は自ら開くもの!」
と明け渡すのでした。
リコは扉に手を掛けたところで、少し後ろに居るエンサーに声を掛けます。
「ね、エンサーはそっちを開けて。」
「・・・うん!」
エンサーは嬉しそうに左側に手を掛けます。
すると、あれ?と小さく声をあげてかたかたと扉を揺らします。
「・・・りこ、こちら側、あかないみたい・・・」
「ありゃ。おっかしーなあ。」
「じゃあ、こちら側開けるね・・・」
ぎい、と重たい音をたてた扉は、
途中からするりと開きます。
光がいっぱい入ります。
リコは眩しい中でゆっくりと目を開きました。
「さあリコ!ここが、灰色の世界だよ。」
ばっちーのやさしい声が聞こえます。
良いかおりとさわやかな音がします。
「・・・ここが、灰色の世界・・・」
扉を開けた先は、夕日の沈む、
広くてきれいな砂浜でした。