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 カオリの頭の中をいくつもの思考が駆け巡った。猫がネズミを散らかしたのかもしれない。カラスが猫を突き回したのかもしれない。それから、それから。それは正解を見つけるためではなく、正解を覆い隠すための思考だった。ほぼ確信している真実から、確証がないことを理由にカオリは目を逸らした。しかしすぐ、確証はカオリの目に入った。
 散らばった赤い肉片の中に、特徴的な形のものがあった。自分自身の思考を止める間もなく、カオリの頭には人の耳が連想された。そしてその肉片の端に、小さく光るものをカオリは見つけてしまった。
 どっと汗が吹出した。サユリのピアスだとすぐにわかった。アクセサリーの類は校則で禁止されている。しかし彼氏から貰ったピアスをサユリはひどく気に入っており、髪で隠した耳にいつもくっ付けていた。何度も自慢されたピアスをカオリが見間違うわけもなかった。
 肉片が誰の物か、はっきりした。
 カオリは胃が縮み上がるのを感じ、咄嗟に口を押えて走り出した。ここで吐くのはまずい、殺人現場に自分の痕跡を残すべきではない、そういう無意識の思考がカオリを玄関の傍に並んだ水道まで促した。ただ本人は自分の狡猾さに無自覚なまま、嘔吐に適当な場所を選んだだけのつもりだった。
 吐瀉物はばしゃばしゃと音を立てて落ち、蛇口から出る水がそれを排水溝まで押し流していった。カオリは何度か口をゆすいでから蛇口を閉じた。
 呼吸は乱れ、確かに恐怖していたが、一度吐いたせいか思考を巡らせる程度の落ち着きをカオリは保っていた。
 サユリが死んだ。キミコが殺したと考えるのが妥当だろう。昔の親友が大罪を犯したことを思うと胸が苦しくなった。何て愚かなことを。そしてノゾミは、それに関わったのだろうか?
 池のすぐ傍にいたのだ。関わっていないと考える方が不自然だった。キミコがただ一人きりでサユリに反撃し殺害するというのも、無理な話に思えた。確かに恨みは深かっただろうが、キミコの臆病な性質をカオリはよく知っている。
 しかしノゾミがそそのかしたなら、あり得るかもしれない。
 自分がサユリに命じて虐げていたキミコに、今度は逆に協力して、サユリに復讐させる。無茶苦茶だったが、その無茶苦茶さがノゾミの狂気にひどく似つかわしく思えた。
 もしそうだとしたら、次二人が標的にするのは誰か、考えるまでもなかった。
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