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きっと長生きなどできん 長命寺下流~ファミリーマート近江八幡白王町店

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  なんだか田舎だな。家屋はまばら、電灯すらなく、自動販売機の光がぼうっと路肩を照らす光景にそう思わずにはいられなかった。ひとまず自転車を降りて自販機に金を投入し、アクエリアスを購入する。今まさに出てきたアクエリアスのキャップをひねり、まずは一口……うまい!と同時に、飲み物はおろか、移動間の軽食すら用意していなかった自分に思わず苦笑いしてしまう。それほどまだ余裕はあった。
  どうせどこかでコンビニに出会える。日本とはそういうものだ。日本のことはおろか自分の住んでいる地域、今走っている琵琶湖周辺の事情のことを知らない男がこんなことを言うのもおかしな話だが。
  アクエリアスをリュックにしまい、自転車を漕ぎ始める。右にみえた「長命寺はこちら 」という立て札に心を動かされたが、辺りが暗かったので仕方なく過ぎ去る。もし昼間であったなら、もう少しだけ明るければ長命寺に寄っていただろう。長命寺がどこにあるかも知らないまま、立て札だけを頼りに……
  昔ながらの住まいを通り抜け、県道25号を疾走する。左手は湖、右手は山、上空には幾多の星、三日月が煌めき、オリオン座が俺の後ろからついてくる。そして正面数メートル先からは闇が続く。三日月ではこの峠を照らすことはできないのだろう。いや、満月でも厳しいかも知れない。
  運よく車の通りが少なかった。そのお陰で思う存分自転車を走らせることができる。頬を切る冷たい風、波音、車輪がコンクリートを滑る音、ひとつひとつが新鮮で高揚してしまう。カーブを曲がるとペダルが重くなる。坂道なのだろう。普段は憂鬱になってしまう坂も今回は自分の気持ちを昂らせるためのシチュエーションだ。ぐいぐいペダルを漕ぎそれが軽くなれば……
  最高速度近くで坂道を疾走する。カーブが見えてくる。ブレーキを少しずつかけてちょうど良いスピードに持っていく。再び坂道を登る。それを何度か繰り返しているうちに、いつのまにか左右を樹木に囲まれ、視界を邪魔をされるようにしながら琵琶湖が、空が木葉の隙間から覗くようなかたちになった。都会では体験することのできない状況にさらに心が燃え上がる。しかしすぐにその熱は冷めてしまう。
 
「この先落石注意!」「山火事注意!」「猪に注意!」「路面凍結注意!」
  電光掲示板には崖崩れの恐れなしと点滅。なんだここは……少ない脳みそで想像してみる。こんなところで崖崩れなんて……
  いつのまにか暗闇が濃くなる。路肩に停めてある車、もしかしたらお化けが入ってるかも……
  あらぬ想像をしてにやけた瞬間だった。茂みから音がする。無視をする。まさかまさかだそんなこと。しかし脳裏にこびりつく想像。茂みから大声をだして現れる四足歩行の化け物。腰を抜かして動けなくなる自分。いつの間にかペダルを漕ぐ早さが増していく。橋をわたり、港を抜け、視界が広くなる。開放的な暗闇に光る建物。ファミリーマート近江八幡白王町店だ。とりあえず休もう。自転車を停めて店に入る。人工的な暖かさが出迎えてくれた。
 
解説
・県道25号
正式名称は「滋賀県道25号彦根近江八幡線」 滋賀県彦根市外町交点を起点に近江八幡市長命寺町交点に至る42.5kmの主要地方道である。なお、走者はちょうど終点からスタートしている。 休暇村-長命寺町の区間では2車線未満の部分があったり、カーブが多かったりする。ここで走り屋したら確実に死ねる。リゾート地になっているらしく、休暇村周辺は別荘地やホテルのみ。人通りも少ない。あとお化けとか出そう。

・長命寺
琵琶湖畔にそびえる長命寺山の山腹に位置し、麓から本堂に至る800段余の長い階段で知られる。東京にも同じ名前の寺があるが、たぶん別物。ふらっと参拝しに行ってたら琵琶湖完走どころか、ここで力尽きてたかも。次回参拝しに行きたいものだ。

・休暇村近江八幡キャンプ場
琵琶湖の東岸、豊かな自然と歴史の街近江八幡。
湖の浜辺でのアウトドアレジャーや、城下町の風情漂う街並み散策が楽しめるのが売り(HPから)
プランの種類が豊富で、お値段もお手頃。友達や彼女、家族といってみては?
……いればだけど
9, 8

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