金曜夜八時。オカマバーの前。
「このオカマバーは本日、野生のゴミの貸切になってるわ。人間は残念だけど、お帰りしてね。野生のゴミは入ってね」
オカマの食パンが入口の前でそう言っていた。
「あの食パン、こないだ見たときよりも苺ジャムが塗られている。相当おしゃれしたんだろうな」
その様子を見ていた猫パンツが独り言をした。
野生のゴミたちはぞろぞろとオカマバーに入場していた。
「私は野生の回転寿司の納豆巻きよ。厚かましいおばさんじゃないよ」と、納豆巻きが言った。人間が隠れてそうなくらい大きな納豆巻きである。納豆巻きは回転寿司の皿の上に乗って、ぐるぐる回っていた。
「わたくしは野生の回転寿司の大トロです」と、大トロが言った。
人間がシャリの中に隠れてそうなくらい大きな大トロである。大トロは回転寿司の皿の上に乗って、ぐるぐる回っていた。
「俺は野生の回転寿司の猫パンツだ」と、猫パンツが言った。
猫パンツは回転寿司の皿の上に乗って、ぐるぐる回っていた。
納豆巻きの中に龍宮紅子は隠れていた。
大トロのシャリの中に清木スズは隠れていた。
そう、龍宮紅子と清木スズは回転寿司の寿司に変装したのだ。
回転寿司の寿司に変装した猫パンツたちはオカマの食パンに怪しまれることもなく、オカマバーに入っていった。
「上手く成功したよ。以前捕まえた夏休みの宿題をフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップの『龍宮城』から買い取って、夏休みの宿題としてお寿司の着ぐるみを作らせるなんて名案だったね。さすがユイ」と、龍宮紅子。
「あの夏休みの宿題、以前、自由工作で売店の厚かましいおばさんの着ぐるみを作っていたから、回転寿司の寿司の着ぐるみを作ることができるんじゃないかと思ったんだ」と、猫パンツが言った。
「でも、大変でした。家畜の夏休みの宿題さんが金曜日までに作るのは難しいって言うもんですから、わたくしたちも家畜の夏休みの宿題さんのiPS細胞入りの注射をした菓子パンを食べて、明日が夏休みの宿題の締切だと思い込み、大急ぎで寿司の着ぐるみを作ったのです。本当に大変でした」と、清木スズ。
また、回転寿司の皿は清木スズの公務員のゴミによる能力を使った。
「ところで、どうしてユイも変装してるのかしら」と、龍宮紅子。
「面白そうだから」と、猫パンツ。
オカマバーの中は野生のゴミで賑わっていた。
冷蔵庫や電子レンジのような粗大ゴミから、調味料やカツ丼のような生ゴミまでいた。
テーブルの上には色とりどりのご馳走が並んであった。
「テーブルの上に美味しそうな寿司があります。一旦ご馳走になりましょう」
大トロのコスプレをした清木スズはそう言って、箸で大トロをつかんで食べた。
「この大トロ、回ってないけど、口がとろけちゃいそうです」と、大トロのコスプレをした清木スズが言った。
「この納豆巻き美味しそう」
納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子はそう言って、箸で納豆巻きをつかんで食べた。
「俺も納豆巻き食べる」
回転寿司の猫パンツのコスプレをした猫パンツはそう言って、納豆巻きに覆いかぶさる。
「きゃ。どこ触ってるのよ」
龍宮紅子は猫パンツを投げ飛ばした。
「ぎゃあ」と、猫パンツは飛んだ。
「あ、回転寿司の寿司たちが共食いしてるわ」
遠くから見ていたオカマのヨーグルトがそう言った。
モデル体型の女性がステージの上に登ってきた。その女性は頭にパンツを被っていた。猫のイラストがついたパンツを頭に被っていた。
「あの人、可愛いくてアイドルみたいだな。オカマバーにいるということは、男なんだろうな。キミの彼氏か?」
猫パンツはそう大トロのコスプレをした清木スズに尋ねた。
また、猫パンツは龍宮紅子たちの元に戻っていた。
「あの人は私の彼氏じゃないのです」と、大トロのコスプレをした清木スズは言った。
「あの人は私の妹のてるりんよ」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
「てるりんって、まるで男が女装したと思えるくらい綺麗な人なのか」と、猫パンツが言った。
てるりんはすらっと背が高く、胸が出ていた。隣りにいる納豆巻きの中の人であるお姉さんと対照的だった。実際、根子ユイと比べても隣りに並ぶと、てるりんの方が年上に見えるくらいだ。猫パンツが、パンツより人間の姿をしている方が恥ずかしいと思えるほどのモデル体型だった。
「てるりん、私よりおばさんと言われる体型で、いつ見ても羨ましい。てるりんは幼稚園児におばさんって言われて石を投げつけられるのに、私は幼稚園児にクソガキって言われて石を投げつけられてるのよ。私もおばさんって言われて幼稚園児に石を投げつけられたい」
納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
「幼稚園児は高校生くらいだと、おばさんって言うからな」と、猫パンツ。
「私は高校二年生よ」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子。
「恥ずかしい話ですが、わたくしも昨日近所の幼稚園児におばさんって言われて石を投げつけられました」と、大トロのコスプレをした清木スズ。
「恥ずかしい話って自慢じゃない」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子。
「名門龍宮家の落ちこぼれの紅子さんは幼稚園児におばさんって言われて石を投げつけられない人生なんて可哀想なのです。同情して笑ってあげます。ははは」と、大トロのコスプレをした清木スズは言った。
「私が悪いんじゃないもん。私のことをクソガキって言う幼稚園児が悪いもん」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
納豆巻きの着ぐるみの中で、龍宮紅子は頬を膨らませているのだろう。
「こらこら。わけがわからない喧嘩をしない。そろそろ、てるりんがマイクを握ったぞ。何か話始めるようだぞ」
猫パンツは納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子と大トロのコスプレをした清木スズをなだめた。
てるりんは頭に被っていた猫パンツにマイクを向けた。
「にゃにゃにゃ。夢と希望がたっぷりつまった皆のアイドルネコパンツだにゃん」
てるりんの頭に被っていた猫パンツはそう言った。
「猫パンツたーん。俺の中に住んでくれ。お風呂もついてるぞー」
ステージ近くの椅子の上にいるドールハウスがそう言った。
「あれはお宅芸」と、てるりんが頭に被っていない方の猫パンツが言った。
「そして、てるりんの被っているパンツが……」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が口を開く。
「猫パンツたーん。俺の触手でお昼寝してくれー」
ステージ近くの椅子の上にいるたこ焼きがそう言った。たこ焼きは球体の中からタコの触手を生やしていた。
「あれはオタコ芸」と、てるりんが頭に被っていない方の猫パンツが言った。
「そして、てるりんの被っているパンツが……」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が口を開く。
「猫パンツたんを見て、僕のあんこが出ちゃう。ほら、見てよ。穴という穴からあんこが出ちゃってるよ。ぴくんぴくん」
ステージ近くの椅子の上にいるたい焼きはそう言った。たい焼きはしっぽや背中からあんこを噴水のように出し、びくんびくんと小刻みに震えていた。
「あれはオタイ芸」と、てるりんが頭に被ってない方の猫パンツが言った。
「そして、てるりんの被っているパンツが……」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が口を開く。
「あれは……」と、てるりんが頭に被ってない方の猫パンツは何かを言おうとする。
「現実を認めて」
納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が納豆の糸を出して、猫パンツを縛り上げた。
「苦しい」と、てるりんが頭に被ってない方の猫パンツは言った。
「みんな大好きだにゃん。でもね、みんなのアイドルネコパンツは一丁しか無いんだにゃん。でも、みーんなみんな、みんなのアイドルネコパンツはみんなのお嫁さんだにゃん」
てるりんが頭に被っている猫パンツはそう言った。
「うおおおおおお」と、野生のゴミ達は歓声を上げた。
「そう。あのパンツがあなたのお父さんです。てるりんが頭に被っているパンツがあなたのお父さんです。ゴミ材派遣会社の社長の猫パンツです」
大トロのコスプレをした清木スズがそう言った。
「俺の人生が、ぶりっ子アイドルみたいな親父のいる人生だったなんて」と、てるりんが頭に被ってない猫パンツが言った。
「もう。猫パンツさんったら。てるりんが一番の愛人なんだよ」
ステージの上にいるてるりんは言った。
「あ、そうだったにゃん。みんなにお知らせがあるにゃん。今、私を被っているてるりんは私の愛人だにゃん」
てるりんが頭に被っているパンツはそう言った。
「猫パンツたーん。結婚しないでくれー」と、オカマバーに集まった野生のゴミ達は言った。
「えっと……ネコパンツはみんなのお嫁さんなんだけど、てるりんは愛人だにゃん」
てるりんが頭に被っているパンツはそう言った。
「えへへ……てるりん、照れちゃうよ」
てるりんは顔を赤らめ恥ずかしがる。
「うおおおおおおおおおおおお」と、オカマバーのゴミ達は叫んだ。
「あのパンツがあなたのお父さんです」
その様子を見ていた大トロのコスプレをしていた清木スズはそう言った。
「お婿さんは野生のゴミ、愛人はてるりん。したら、てるりんが頭に被っているパンツにとって、俺の母親はいったい何者なんだ。そんな母親から生まれた俺もいったい何者なんだ」
てるりんが頭に被っていない猫パンツがそう言った。
「まぁ、このように、私は掃除屋さんを愛人にして、野生のゴミの味方にしたんだにゃん。にゃにゃにゃ。そうだったにゃん。今日はみんなにお願いがあるんだにゃん。みんにゃは聞いてくれるかにゃ?」
てるりんが頭に被っている猫パンツはそう言った。
「聞く聞く聞く」と、野生のゴミ達は騒いだ。
「まず、これを見て欲しいんだにゃん」
てるりんが頭に被っている猫パンツはそう言った。
「うんせ、うんせ」
ステージの上で沢庵の漬物が紐を引っ張っていた。
紐の先には檻が繋がれている。
「助けてくださいなのでございます」「私も助けてほしいのでございます」「悲しみは4949円。悲しみは4949円」
檻の中には美女達がいた。
「皆のアイドルネコパンツは掃除屋さんのゴミたちをオカマにして手に入れたにゃん」
てるりんが頭に被っていた猫パンツは言った。
「どうしてオカマにする必要があったんだ?」
てるりんが頭に被っていない方の猫パンツはその様子を見ながらそう言った。
「オカマバーにおびき寄せるためじゃない?」
納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
「私の彼氏たちがオカマになって檻の中に入っているのです。羨ましいです。私がイケメンの動物園を作るときに彼氏たちをぶちこみたかったのに、先をやられてしまったのです」
大トロのコスプレをした清木スズはそう言った。
「イケメンの動物園?」と、てるりんが頭に被ってない方の猫パンツは想像した。
てるりんが頭に被ってない方の猫パンツが想像した。
「あれがイケメンのオタクよ」と、幼稚園の先生が言った。
動物園の檻の中にイケメンのオタクがいた。
「今日も美少女フィギュアで萌え萌えしようか」
檻の中にいたイケメンのオタクはそう言った。
「キャー。私で萌え萌えしてー」と、幼稚園児たちは黄色い声を上げた。
幼稚園たちは遠足でイケメンの動物園に来ていた。
「女の子は二次元に限る」
檻の中にいたイケメンのオタクはそう言った。
「女の子は二次元に限るだなんて、渋くてかっこよくて素敵」と、幼稚園児達たちはさらに黄色い声を上げた。
「あれがイケメンのバス停よ」と、幼稚園の先生が言った。
動物園の猿山に沢山のバス停がいた。
「俺のバスに乗っていくかい?乗車賃は100円だぜ?」と、イケメンのバス停は言った。
「キャー。バスに乗りたーい」と、幼稚園児たちは騒いだ。
そして、幼稚園児たちは100円玉をイケメンのバス停達に向けて投げ始めた。
「イケメンのバス停に100円玉を投げないでください。イケメンのバス停に100円玉を投げないでください」と、動物園の従業員は注意した。
猿山の檻には、『イケメンのバス停に100円玉を投げないでください』という注意書きが貼られてあった。
「あれがイケメンの執事さんよ」と、幼稚園の先生がそう言った。
「ふれあいコーナーで執事と触れ合いましょう」と、幼稚園の先生が言った。
ふれあいコーナーは広場で、イケメンの動物園のイケメンと実際に遊べる空間であった。
「お嬢様、コーヒーをお入れしますか?」と、執事が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。
「わたしがコーヒーを注ぐ」と、幼稚園児たちが執事に群がろうとした。
「私の彼氏にふれないでくださいです。その執事は私のものです。私がコーヒーをもらうです。離れろ汚らわしい死んでしまえ幼稚園児デスデス」
大トロのコスプレをした清木スズが言った。
「俺の想像に勝手に入って、何を騒いでいるんだキミは」
てるりんが頭に被ってない方の猫パンツはそう言った。
「その想像をひとりごとでぶつぶつつぶやいていたパンツはどこのだれですか?」
大トロのコスプレをした清木スズが言った。
「そうか。ひとりごとでつぶやいていたのか。まぁ、どうでもいいや」
てるりんが頭に被ってない方の猫パンツはそう言った。
「にゃにゃにゃ。重大発表だにゃん。皆聞いてよろしくするにゃん」
てるりんの頭に被っているパンツは話した。
「よろしくする」と、オカマバーに来ていたゴミたちは野太い声を上げた。
「重大発表するにゃん。野生のゴミによる野生のゴミのための人間リサイクルショップを開業するにゃんにゃん」
てるりんが頭に被っていた猫パンツはそう言った。
「うおおおおおおおおお」と、オカマバーにいたゴミたちは唸り声を上げた。
「野生のゴミによる」「野生のゴミのための」「人間リサイクルショップですって?」
てるりんが頭に被っていない猫パンツと、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子と、大トロのコスプレをした清木スズは驚いた。
「手始めにこの捕まえた人間たちでオークションするにゃん」
てるりんが頭に被っていた猫パンツは言った。
「私のオカマになってしまった彼氏たちでオークションですって」
大トロのコスプレをした清木スズは言った。
「人身売買じゃない」
納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
「人間リサイクルショップで買った人間で等身大おままごとができるぞ」と、ドールハウス。
「人間リサイクルショップで買った人間をキムチ漬けにして、乳酸菌を量産できるわ」と、オカマのヨーグルト。
オカマバーに来ていたゴミたちは次々と人間を欲しがった。
「うえええええええええん。家に帰してマルガリータ」
清木スズの彼氏で最もピザ好きな男だった美人が檻をつかみながら泣いていた。
「うえええええええええん。私も家に帰してミルフィーユ」
清木スズの彼氏で最もスイーツ好きな男だった美人が檻をつかみながら泣いていた。
「4949円。494949円。シクシク36円」
清木スズの彼氏で最もタクシーな男だった美人も檻をつかみながら泣いていた。
「語尾がマルガリータやミルフィーユみたいな面白語尾に戻るほどの恐怖を受けたのね」
納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
ステージの上の檻を見ていた納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子は言った。
「みんな、人間リサイクルショップで中古販売されるんだって。いいゴミに出会えるとえいいね」
てるりんが檻の中の清木スズの彼氏たちを見つめながら言った。
「私たちはまだ新品マルガリータ」
清木スズの彼氏で最もピザ好きな男だった美人はうつむきながらそう言った。
「泣いちゃダメにゃん」と、てるりんが頭に被っていた猫パンツは言った。
「泣いちゃだめなら笑うマルガリータ。アハハハハハハ」「笑うミルフィーユ。アハハハハハハ」「八円。八八円。八八八円。八八八八円」
清木スズの彼氏たちは笑った。
「キミが彼氏料を払って彼氏にした人、泣いちゃダメって言われたら笑うようなベタな人間だったんだね。変わってるね」と、てるりんの頭に被ってない猫パンツが言った。
「私の彼氏たち、変人すぎです。もう好きにしてくださいなのです。はははははは」
大トロのコスプレをしている清木スズは笑い出した。
「キミまで笑うことないじゃないか」と、てるりんが被っていない猫パンツが言った。
「そうですね」
大トロのコスプレをしている清木スズは笑うのをやめた。
「そろそろ事態の収集つけるため、親父殴ってくる」と、てるりんが被っていない猫パンツが言った。
「『おい親父』と格好良く叫んでみたらいいんじゃない?」
納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
「わかった」
てるりんが頭に被ってないパンツはそう言った。
「おい親父」
てるりんが頭に被ってないパンツはそう叫び、浮かんでいった。
「何よあのパンツ」「ゴミ材派遣会社の社長みたいなパンツね」「パンツの考えることはわからない」
オカマバーにいたゴミたちがざわついた。
「にゃにゃにゃ。私に似てるパンツだにゃ。どうしたにゃ」
てるりんが頭に被っている猫パンツはそう言った。
「女一人で俺を育ててくれた母さんを捨てた猫パンツ。おまえが俺の親父だ」
てるりんが頭に被ってないパンツ、息子パンツはそう言った。
「俺の猫パンツたんが女を捨てるか」「あいつ、息子だと偽ってるんだ。羨ましい」「あのとき納豆を連れ去ったパンツよ。パンツ」
またしてもオカマバーにいたゴミたちがざわついた。
「何のことにゃん?」と、てるりんが頭に被ってないパンツ。
「えっと、理解に困るけど……私を愛してくれるのは愛人のてるりんだけだよ」と、てるりん。
「てるりんは愛人の意味をわかっているのですか?」と、大トロのコスプレをした清木スズが龍宮紅子に聞いた。
「わかってないと思う」と、納豆巻きのコスプレをした龍宮紅子が言った。
息子パンツはてるりんが頭に被っている親父パンツに飛びかかった。
ぺし。と息子パンツは親父パンツを叩いた。
「あ。俺、今腕がないから殴れない」息子パンツはそう言った。
てるりんはきょとんとした様子で痛くなさそうである。
「てるりん。帰ろう」
龍宮紅子は納豆巻きの着ぐるみを脱ぎ飛ばした。
「私の彼氏たちも取り返しに来ました」
清木スズは大トロの着ぐるみを脱ぎ飛ばした。
「人間がオカマバーにいるぞ」「今月の全国掃除屋さん組合貢献度ランキング二大トップよ」「龍宮紅子ってあの名門龍宮家の落ちこぼれの?」
オカマバーに来ていた野生のゴミたちがざわついた。
「おねーちゃん久しぶりー。おねえちゃん連絡してくれないんだもん。心配しちゃったんだよ?元気してる?」
てるりんが龍宮紅子に駆け寄って抱きつく。
「よかったー。おねえちゃん、まだ小さい。抱きしめたらキューって言っちゃいそう。キューって」
「うわ、苦しい。抱きつかないでよ。それに心配するのは逆よ。パンツの愛人になったと聞いて、お姉ちゃん心配しちゃったじゃない」と、龍宮紅子。
龍宮紅子の小さな体がてるりんの胸に埋まった。
「おねえちゃん、オカマバーに何しに来たの?ここは子供が来るところじゃないんだよ。めっだよ?めっ」
てるりんはそう言った。
「あなたは大事な名門龍宮家の後継者。奇跡の天才。龍宮家に帰って、後を継いで」
龍宮紅子はてるりんを見上げながら言った。
「私はこの猫パンツの愛人さんだから、名門龍宮家より、野生のゴミ材派遣会社の後継になりたいな」てるりんはそう言った。
「そもそも何で猫パンツの愛人さんになったの?」龍宮紅子は言った。
「だって、この猫パンツさんカッコイイもん」と、てるりん。
「カッコイイもん、だなんて、テキトーな理由ね」龍宮紅子は言った。
「理由は適当でも、やってることは本気だもん」と、てるりん。
てるりんとの問答の最中。清木スズはステージに飛び乗った。
そして、清木スズは自分の彼氏たちが捕まっている檻に駆け寄った。
「スズ。俺が悪かったから出してあげるマルガリータ」「スズ。出してミルフィーユ」「スズ、出してくれたら嬉しくてハッピープライスタクシー」
清木スズの彼氏だった美人たちは次々と清木スズに助けを求めた。
「またわたくしの彼氏に戻ってくださるのなら、この檻から出してあげます」
「彼氏になるマルガリータ」「彼氏になるミルフィーユ」「彼氏になるタクシー」
清木スズの彼氏だった美人たちは清木スズにそう言った。
清木スズは回転寿司の皿を出した。そして、回転寿司の皿を高速回転させ、飛ばして檻にぶつけた。檻から火花が散り、檻は切断された。
「てるりん、この猫パンツをペロペロ舐めて」
龍宮紅子とてるりんは向き合っていた。
龍宮紅子は息子パンツをつかみ、てるりんに見せつけていた。
「おねえちゃん。唐突すぎて理解に困っちゃうよ。その汚そうなパンツを舐めるなんてばっちぃよ」と、てるりん。
「あなたが頭に被っているパンツを脱ぐと、激しい生理痛で死んじゃうから、このパンツをペロペロ舐めなさい」
龍宮紅子はそう言った。
「俺をペロペロ舐めないと、キミが危ないんだ」
息子の猫パンツも説得した。
「おねえちゃん。頭おかしいよ。落ち着いてよ」と、てるりん。
「頭おかしいのはパンツを頭に被ったてるりんよ。早くこのパンツをペロペロ舐めて目を覚ましなさい」と、龍宮紅子。
「私は今頭に被っている野生のゴミ材派遣会社の社長さん以外のパンツは舐めたくないよ」と、てるりん。
「てるりんが言うことを聞かないなら、無理やりペロペロ舐めさせて、この野生のゴミ材派遣会社を壊滅させてあげる」と、龍宮紅子。
「にゃにゃにゃ。野生のゴミ材派遣会社を壊滅だってにゃ。この人たち、野生のゴミの敵、掃除屋さんだにゃん。みんにゃで戦うにゃん」と、てるりんが頭に被っていた猫パンツ。
龍宮紅子に野生のゴミが襲いかかった。
清木スズにも野生のゴミが襲いかかる。野生のたこ焼き、野生のたい焼き、野生の沢庵の漬物、野生のヨーグルト……。なぜか野生の食べ物が中心だ。
清木スズは迫り来る野生の食べ物たちを次々と回転寿司の皿で切断した。
「一人じゃ処理できそうにありません。多すぎます」
「俺に任せるマルガリータ」「俺にも任せるミルフィーユ」と、清木スズの彼氏で最もピザが好きな男だった美女と、清木スズの彼氏で最もスイーツが好きな男だった美女はそう言った。
清木スズの彼氏で最もピザが好きな男は野生のたい焼きを手でつかんで食べ始めた。
「本当はピザしか食べたくないけど、スズのためならたこ焼きを食べるマルガリータ」
清木スズの彼氏で最もスイーツが好きな男も野生のたこ焼きを手でつかんで食べ始めた。
「本当はスイーツしか食べたくないけど、スズのためならたい焼きだってスイーツだと思って食べるミルフィーユ」
清木スズの二人の元彼は、次から次へと野生の食べ物を手でつかみ、野生の食べ物を食べ出した。
「沢庵の漬物だって、ヨーグルだって、俺の腹の中じゃスイーツになるミルフィーユ」
清木スズの彼氏で最もスイーツが好きな男はそう言いながら沢庵の漬物とヨーグルトを食べた。
「俺もスズのためにがんばってやる」
清木スズの彼氏で最もタクシーな男だった美女はそう言いながらドレスを脱ぎ飛ばした。
「スズ、俺に乗れよ」
清木スズの目の前には、四つん這いの男がいた。
そう、清木スズの彼氏で最もタクシーな男だった美女は清木スズの彼氏で最もタクシーな男に戻っていた。
龍宮紅子は納豆の紐で野生のクローゼットを縛っていた。しかし、納豆の紐はすぐにほどけた。
「あなたの着ているジャージを収納してあげるわ」と野生のクローゼットは襲いかかった。
「きゃあ」と、龍宮紅子は身を守った。
「回転寿司の皿」と、清木スズ。
回転寿司の皿が風を切りながら飛んでいた。
「ぎゃあ」
野生のクローゼットは切断された。中に入っているお洋服も切断されたのだった。
「私のお洋服たちが……ボンドで修正しなきゃ」と、ドールハウスは戻るために、二つの体を合わせようとしたが、中々合わなかった。
清木スズは清木スズの彼氏で最もタクシーな男に乗って、龍宮紅子の目の前に飛び込んできた。
「あなた、まだまだ弱いのに一人で戦うなんて大変危険です。トンカツのカツになって全治三ヶ月の入院をしたいのですか?お人形さんになってドールハウスに住んだら、どういう生活が味わえたと思うのですか?フィギュア気分です。たとえ貢献度ランキングが一位になっても弱いことに変わりはないのです」と、清木スズ。
「……私は親に認められたいのよ」と、龍宮紅子は黙っていた。
「もっとそこのハンドル触って」と、パチンコが言った。
「触ってやるよ」と、息子の猫パンツは布でパチンコのハンドルに貼り付く。
「きゃあ。気持ちいい。大当たりよ」
パチンコはパチンコ玉を勢いよく吹き出しながら倒れた。
「なんで俺がフルーティな香りで野生のゴミたちを誘惑して昇天させなければならないんだ。しかも、オカマバーで」と、息子の猫パンツが言った。
「猫パンツたんの息子さーん。私のウィンナーを触ってよ」と、ホットドッグが息子の猫パンツに襲いかかった。
「キャー。イケメンのパンツー。私の針を触ってー」と、注射器が息子の猫パンツに襲いかかった。
「わけがわからないけど、全員昇天させてやるからかかってこい」と、息子の猫パンツが言った。
龍宮紅子が野生のゴミを一時的に納豆の糸で動きを止め、清木スズが一時的に動きの止まった野生のゴミを切断していた。
「数が多すぎるね……」と、龍宮紅子。
龍宮紅子と清木スズは野生のゴミたちに囲まれていた。
「ユイがいくら野生のゴミを自分のテクニックで昇天させてるからとは言え、さばききれないようね」と、龍宮紅子。
「本筋とは関係ないですが、ユイさんは昇天させている相手がオカマバーのオカマだということに気がついているのですか?」と、清木スズ。
「わからないんじゃかしら?ユイは最近パンツになったばっかりだから、野生のゴミの性別なんて区別つかないよ」と、龍宮紅子。
「そんな本筋と関係ない話より、あなたはてるりんを説得してきてください。掃除屋さんが二人だけだと大変です。野生のゴミたちはわたくしが引きつけておきます。弱いあなたでもてるりんの元に行けるはずです」と、清木スズ。
「もう説得したよ。無理よ。あの子の理由は特にドラマなんて無い、一目惚れという適当な理由よ」と、龍宮紅子。
「あなたはてるりんの姉じゃないですか?名門龍宮家の落ちこぼれの紅子さん。少しは姉らしいところを見せたらどうですか?てるりんを止められるのは、血の繋がったてるりんの姉くらいじゃないのですか?」と、清木スズ。
「わかった。ダメ元で説得しに行ってくる」と、龍宮紅子。
龍宮紅子は走った。
「私の黄身をさわってよー」
息子の猫パンツは野生の目玉焼きにおねだりされていた。
「ユイ、行くよ」
龍宮紅子は息子の猫パンツを取り去った。
「あん。待ってよー」と、野生の目玉焼き。
野生の目玉焼きの背後から回転寿司の皿が高速回転して飛んできた。
「ぎゃあ」
野生の目玉焼きは切断され、中に入っている黄身が吹き出した。
「今いいとこだったのに……残念」と、息子の猫パンツが言った。
てるりんはオカマバーのステージの上で、清木スズの彼氏たちが脱いだドレスを洗濯機から取り出していた。
清木スズの彼氏で最もピザが好きな男と、清木スズの彼氏で最もスイーツが好きな男は、清木スズの彼氏で最もタクシーが好きな男につられてドレスを脱いで、美女から男に戻っていた。
「もう、服を脱ぎ捨ててみんなはしたないよ。私が洗濯したんだから」と、てるりん。
てるりんは清木スズの彼氏たちが脱いだドレスをたたんでいた。
「にゃにゃにゃ。こんな状況で洗濯するとはマイペースな娘だにゃ」と、てるりんが頭に被っていた猫パンツが言った。
「てるりん」
龍宮紅子はてるりんの前に現れた。
「私が居候している先の後輩のお父さんと駆け落ちするてるりん。大人しく捕まることを認めなさい」と、龍宮紅子は言った。
「おねえちゃん。今、ドレスを洗濯していたんだよ?もうちょっと早く来てくれれば、おねえちゃんの服も洗濯してあげたのに、残念だったね」
「私を裸にするつもりなの?」と、龍宮紅子。
「それにしても、おねえちゃんしつこいよ?そうだ。アレがあった」と、てるりん。
「アレって?」と、龍宮紅子は尋ねた。
てるりんは洗濯機の中に体をつっこんだ。
「じゃんじゃじゃじゃじゃーん」と、てるりんは洗濯機からアレを取り出した。「三年前に洗濯したトンカツの衣」と、てるりん。
「ト、トンカツ……」
龍宮紅子はトンカツの恐怖に震えた。
「てるりん、とんかつフォーム」
てるりんはトンカツを着た。
「ピーポーピーポー……あ、私救急車になってしまう」と、龍宮紅子は口を抑えた。
「おねえちゃん。高校二年生なのにトンカツを見たら救急車になってしまうんだよね?かわいい。トンカツを見せて黙らせてあげるよ」と、てるりん。
「ピーポーピーポーピーポー」と、龍宮紅子はしゃがみながら苦しんでいた。
龍宮紅子は救急車になってしまうのを必死で我慢していた。
「紅子先輩。大丈夫。俺がいる。俺が紅子先輩の運転手になってやる」
息子の猫パンツはそう言って、龍宮紅子の前に躍り出た。
「ピーポーピーポーピーポーピーポー」
龍宮紅子はそう喚いた。
「ダメだった。紅子先輩が救急車になってしまった」と、息子の猫パンツ。
しかし、龍宮紅子は宙に浮かんでいる猫パンツを掴み取った。
「ぎゃあ」と鳴く猫パンツ。
龍宮紅子は左右に素早く動きながら、てるりんに迫った。
「おねえちゃんが速い」
「キュウカンヒトリ。キュウカンヒトリ。直チニ治療シマス。直チニ治療シマス。患部ニユイヲアテテ、パンツヲジョキョシマス」
龍宮紅子は素早くてるりんの目前に迫った。
「危ない」
てるりんは後ろに大きく飛んだ。名門龍宮家の大天才で、一人でトンカツのサバト事件を解決するだけあって、運動能力は高い。
しかし、龍宮紅子はそれに動じず、てるりんに迫る。
「ワイヤーアクション」と、てるりんは驚いた。
龍宮紅子の胴体に納豆の紐が縛り付けられていた。
その納豆の紐は天井に繋がれていた。この納豆のワイヤーによって、龍宮紅子はさらに素早く動くことができたのだった。
龍宮紅子はてるりんの顔に息子パンツを貼り付けた。
「きゃあ。ばっちぃ」と、てるりんはもがく。
「俺をばっちぃと言うな」と、息子のパンツ。
そして、龍宮紅子はてるりんが頭に被っていたパンツを疾風のように取り外した。
てるりんは何が起こったかわからない顔できょとんとしていた。
「ミッションコンプリート。ミッションコンプリート」
龍宮紅子はそう言った。
「親父、俺はどうしてパンツなんだ」と、息子のパンツが親父のパンツに尋ねた。
龍宮紅子は親父のパンツをつかんでいた。
「にゃにゃ。そういえば、私の母親に似てるにゃ。つまり、私の息子であり、弟にゃ。私を作ってくれた私の母親が、彼氏が同性愛者だと知ってしまいショックで作った子供にゃ」と、親父のパンツが言った。
「そうだ」と、息子のパンツ。
「にゃにゃ。それは私が生きてた頃の話にゃ。その母親が私を危険物として放射性物質と一緒に捨てたからにゃ。捨てられたものの気持ちを知るために、愛して、すぐ捨ててやったにゃ。本当のことを教るくらいキミのことは無関心にゃので話してやったにゃ。感謝するにゃ」と、親父のパンツが言った。
「てめえ、俺を育ててくれた母さんをよく捨てやがったな。おまえがいれば、母さんは少しは楽になったものの……」と、息子パンツ。
「だから捨てられたのは私にゃん。同情するにゃん。全てその女の責任にゃん」と、親父のパンツ。
「おまえが危険なパンツだからだろ」と、息子パンツ。
「ところで、どうしておねえちゃんはあんなにパワーを出せたのかな?いつもはあんなパワー出せないよ?」
てるりんがパンツ同士の話し合いに口を挟んできた。
「わかったぞ。龍宮紅子はトンカツを見ると、恐怖のあまりに現実逃避して救急車になってしまう。現実逃避の原因は自分の弱さ。野生のトンカツにカツにされてしまったから。弱い自分を変えるために、運動能力が極限まで高められるんだ」
息子の猫パンツはそう解説した。
「そういえば、その龍宮紅子さんが俺の家のラーメン屋で救急車になったとき、俺の親父を背負えるほどパワーが増していたな」と、ラーメンのコスプレをした猪野晴夫。
「そうそう。人間だったころの俺を背負うこともできたしな」と、息子の猫パンツが言った。「……って何でオカマバーに猪野がいるんだ」と、息子の猫パンツは驚いた。
「うわ、パンツが喋った」と、猪野晴夫は驚いた。
「その反応今さら?お前の家に喋る電子レンジと喋る冷蔵庫がいるのに今さら?しかも、何気にパンツが喋ったなんてこと言われての始めてだ。これが始めての快感って奴なのかな?」と、息子の猫パンツが言った。
「そんなことより、俺がどうしてこのオカマバーにいるのか聞いてくれよ。パンツさん」と、猪野晴夫は言った。
「今聞いただろ」と、息子の猫パンツ。
「実は俺、あのパンツに妊娠させられたんだ」と、猪野晴夫は言った。
猪野晴夫はお腹をさすっている。たしかに猪野晴夫のお腹は膨らんでいた。
「理解に困る理不尽な妊娠展開」と、龍宮紅子が言った。「あまりの展開に救急車から戻ってしまったよ。それに、救急車になったとき勢いでユイのお父さんのパンツを奪ってしまった」
「俺は責任をとってもらうためにここに来たんだ」と、猪野晴夫。
「さっきパンツが喋ったと驚いたお前が、俺の親父パンツに妊娠させられただって?」と、息子の猫パンツは言った。
「想像妊娠だけどな。俺、あのパンツの愛人なんだ。一夜を共にしてしまった……」と、猪野晴夫。
「私以外に愛人がいたの?」と、てるりん。
てるりんはもう必要がないだろうと考え、着ていたトンカツの衣を洗濯機の中に入れていた。
「私も妊娠させられた」と、沖中先生がこのオカマバーに入ってきた。
「ギックリ腰で入院した沖中先生まで想像妊娠?」と、息子の猫パンツ。
「俺も妊娠させられた。責任を取らんか」と、金髪の大男もこのオカマバーに入ってきた。
「いつだかの蜂蜜好きな不良まで想像妊娠?」と、息子の猫パンツ。
このオカマバーにぞろぞろと人が入ってきた。
「俺を妊娠させた罪を償え」「お腹の想像妊娠してできた子供をどうするのよ」「あの夜のことは嘘だったの?」と、オカマバーにぞろぞろと入ってきた人は次々に言った。
「何であんなにぞろぞろと人が入ってきてるのかしら?」と、龍宮紅子が言った。
「あちらが、あなたたちを妊娠させた猫パンツです。思う存分に復讐してください」と、ツアーのガイドらしき人が言った。
「そうか。いつの間にか、『妊娠させた猫パンツに復讐しようツアー』が企画されていたのね。そして、あの人がツアーのガイドみたい」と、龍宮紅子。
「うわ何だこの展開。どうやって事態を収拾させるんだ」と、息子の猫パンツが言った。
「あーなーたー。これはいったいどういうことなの?」と、オカマバーのステージに厚かましいおばさんが乗り込んできた。おばさんは子供を背負っていた。子供はおぎゃーおぎゃーと泣いている。
「龍宮紅子が憧れる売店の厚かましいおばさん」と、息子の猫パンツが言った。
「ひぇ、母ちゃんだにゃん」と、親父パンツは驚いた。
「あー、ゴミ材派遣会社の社長さんの奥さんだ」と、てるりんは笑顔で言った。
「いくら愛人を作ってもいいとは言ったけど、想像妊娠させて言いとは言ってないわよ」と、売店のおばさんが言った。
「家に帰ったらゾウキンにしてやる」と、売店のおばさん。
売店のおばさんは龍宮紅子が持っている親父パンツをひったくった。
「ひぇー、それだけは勘弁を」と、親父パンツが言った。
売店のおばさんはオカマバーを出ようとした。
オカマバーにいた者は全て、売店のおばさんの帰る様子をただじっと見つめていた。
息子の猫パンツも、龍宮紅子も、清木スズも、てるりんも、清木スズの彼氏たちも、オカマバーにいた野生のゴミの残党たちも、親父パンツの愛人たちも、全て売店のおばさんが帰る様子を見つめていた。
オカマバーにいた者が沈黙する中、売店のおばさんが背負った赤ちゃんの泣き声が、むなしくオカマバーに響き渡る。
売店のおばさんはオカマバーの出口の前に立ち、後ろを振り向いた。
「あんたたち、こんなバカなことしてないで、さっさとおうちに帰りなさい」売店のおばさんはそう言った。
「はい」
オカマバーにいる一同はそう言った。
「厚かましいおばさんってやっぱりカッコイイ。この事態に収拾つけちゃうんだもん。いつかきっと。いつかきっと。私は厚かましいおばさんになってみせる。弱い自分をいつしか変えて、絶対に厚かましいおばさんになってみせる」
龍宮紅子は目を光らせて、そう言った。
その後、野生のゴミ材派遣会社は社長がぞうきんになってしまったため倒産した。もちろん、人間リサイクルショップも開業することがなかった。
てるりんは根子ユイの家で納豆ご飯を食べていた。
「今、私の元愛人の野生のゴミ材派遣会社の社長さん。今、ぞうきんになって売店のおばさんの家にあるバケツに掛けられているらしいね」と、てるりんが言った。
「ところで、あなたは何でここにいるの?」と、龍宮紅子。
龍宮紅子が納豆ご飯を食べていた。
「だってだって、野生のゴミ材派遣会社の社長さん。私以外に愛人がいたもん。ひどいんだよー」と、てるりん。
「それはあなたが野生のゴミ材派遣会社の社長さんと別れた理由でしょ?ここの家にいる理由よ?」と、龍宮紅子。
「おねえちゃんがいるからだよー」
てるりんはそう言って龍宮紅子に抱きついた。
「うわ、抱きつかないでよ」と、龍宮紅子は言った。
「キモイゴワス。キモイゴワス。百合は二次元だけ存在する領域でゴワス。三次元は反吐が出るでゴワス。反吐の代わりにツバかけてやるでゴワス。ペッペッ」
まるまると太り、地味で安そうなシャツを着た人間は、二次元美少女が描かれた抱き枕を抱きしめながらそう言った。
「スズちゃん。ツバかけないでよ」と、てるりんは言った。
「清木スズ。彼氏たちが同じ檻の中に閉じ込められてしまったせいで、吊り橋効果により彼氏たちの三角関係ができあがってドロドロした関係になったからと言って、おしゃれにお金を費やさず、美少女グッズにお金を費やすような生活はやめてよ。ゴワスって語尾が怖い」と、龍宮紅子が清木スズに言った。
「ドロドロした関係って?」と、てるりんは聞いた。
「彼氏たちが互いに想像妊娠しあって修羅場になり、殺し合いを始めて全員入院しちゃったって」と、龍宮紅子。
「三次元の男はみんな同性愛者でゴワス。二次元の男もみんな同性愛者でゴワス。信じられるのは二次元美少女だけでゴワス」と、清木スズは言った。
「なんで二次元の男もみんな同性愛者なのかな?」と、てるりんは聞いた。
「三次元の男はみんな同性愛者だと思い、二次元の男を彼氏にしようとしたゴワス。彼氏にするため、その二次元の男が出てくる漫画を買ったでゴワス。でも彼らは同性愛者だったでゴワス」と、清木スズが言った。
「それ女性向け同人誌じゃ……?」と、龍宮紅子。
「じょせーむけどーじんし?」と、てるりんが聞いた。てるりんはきょとんとした様子である。
「てるりんは知らなくてもいい」と、龍宮紅子が言った。
「それにしても、あのパンツ、根子ユイさんは今頃どうしているのでゴワスかね。どーせ、あのパンツも同性愛者でゴワス。フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』センターで男のゴミとイチャコラしてるに違いないでゴワス」と、清木スズ。
「勝手なこと言わないでよ」と、龍宮紅子。
「それじゃあ何でゴワスか?あの男と同棲していた癖に、えっちなことやんなかったでゴワスか?えっちなことしなかったのでゴワスか?あの男の裸を見たのにエッチなことしなかったのでゴワスか?ピチピチの女子高生にエッチなことをしない男は同性愛者でゴワス」と、清木スズは龍宮紅子に迫った。
「下品」と、龍宮紅子は言った。
「本当にあのおにーちゃんと豆子ちゃん、どうしているんだろうねー」と、てるりん。
猫パンツはフランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』センターで調教されていた。
「お前らは豚野郎だ」迷彩服の屈強な男がムチを振り回していた。
「教官殿、私はチキンカツです。豚じゃありません。鶏です」
チキンカツが口答えをした。
「口答えをするな。おまえは豚のチキンカツだ」と、迷彩服の屈強な男はチキンカツをムチで叩いた。
「腹筋百回」迷彩服の屈強な男はホイッスルを鳴らした。
「パンツが腹筋なんてどうやってやるんだよ」
そう言いながら猫パンツは腹筋をしていた。
「納豆の腹筋なんてどうやってやるのよ」
そう言いながら納豆も腹筋をしていた。
「いやぁ、パンツになってから始めて汗かいたよ」と、猫パンツ。
宙を浮かんでいる猫パンツにタオルが飛んできた。
「タオル」と、納豆。
「ありがと」と、猫パンツ。
タオルは納豆が投げたものだった。
「あの、そういえば沢庵の漬物から助けてもらったお礼言ってなかったよね」と、納豆。
「そうだっけ?」と、猫パンツ。
「あの……その……」と、納豆はもじもじした。
「猫パンツと一緒なら、夏休みの思い出作りができると言って、フランチャイズ方式で小金を稼いでいるリサイクルショップ『龍宮城』センターに納豆も送られたね」と、龍宮紅子。
「そういえば、納豆を助けたのは、猫パンツさんだっけ?おねーちゃんから聞いたけど」と、てるりん。
「ゴワッゴワッゴワッ。ひょっとしてこれでゴワスか。これでゴワスカ」
清木スズは右手を軽く握り、親指を人差し指と中指の間を、目にも止まらぬスピードで出し入れした。
「下品」と、龍宮紅子。
「実際、早く帰ってきて欲しいのでゴワスね?早く帰ってきて欲しいのでゴワスね?」と、清木スズ。
「何ていうか、恥ずかしいけど……。ユイが自分より一学年下で恥ずかしいけど……。お兄ちゃんがいたらあんな感じだったのかな。って。私にくれた電子レンジで温めたアイスモナカが美味しかった」と、龍宮紅子は顔を赤らめさせながらそう言った。
「アイスモナカゴワスってなんでゴワスか?」と、清木スズ。
「なんでも」と、龍宮紅子。
「あれれ?ってことは私にとってもおにーちゃん?」と、てるりん。
「ゴワスはゴワッゴワッゴワッ」と、清木スズは笑った。
「ユイが帰ってきたら一緒に納豆ご飯を食べたいな。そして、話すんだ。
清木スズが唐突にゴワスになったことを。不条理だということを。
母親一人で子供を育てたり、両親が子供を立派な後継として育てさせようとしたり、小学生の頃にやっていた微分積分を忘れていたり。
私が母親を見返せる日は、いつかきっと来るって信じてる。いつかきっとカッコイイ厚かましいおばさんになれる日が。
そんな不条理な出来事。思い通りにならない不条理な人生をもっともっと話したい」