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終わり。本当に終わり

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  秋穂を絶頂に導いた瞬間。指扇は過去を思い出していた。
  指扇が大学生の頃である。初めて付き合った彼女との初夜に言われた言葉。
「うそ……包茎で粗ちんとかまじありえない」
  あの日からだ。彼の運命の歯車が狂い出したのは。指扇は如何にちんこを見せず、使わず女性を昇天させるかをひたすら学んだ。決して女性を憎んだからではない。いずれ愛する女性のために。せめてオーガズムだけは味合わせたい。その一心だった。
「おーう、指扇。これでお前との契約は終了じゃ」
  ハッとして後ろを振り返る。
「ワシが来たことにも気づかないくらい疲れ てるのか?」
「下部のじいさん……いや、ちょっと考え事をしていただけさ」
「ふむぅ……ワシはそっちのほうが都合が良かったのだがのう……」
  意味を理解する前に指扇の横っ腹に衝撃が走る。揺らぐ意識。しかしその目にはいつか見たシルエットを捕らえていた。
「お前……死んだはずじゃ……」
「ワシが生き返らせたのだよ……さぁ、百合草小春よ……こやつを消せ!」
「……ハイ」
  小春の機械的な返事。そして繰り出される踵落としを間一髪で避ける。
「じいさん……てめぇ!」
「お前は金のためだったら何でもするからのぉ。昇天術……危険な拳法じゃ。リスクは少しでも減らした方がいい」
  内側から沸き上がる怒り。しかし今はそれどころではない。目の前の敵……百合草小春を倒さなければならない。
「悪いがもう一度死んでもらうぞ百合草小春。今すぐ姉の元へ連れてってやる!」
  最初の一撃を小春に食らわせる。
「な……なんだと!」
「バーカめ!貴様の拳の対策はやっておるわい!」
「くそ!これが人のやることか!外道め!」
  指扇が驚いた理由。それは彼女の身体が柔肌ではなく機械に覆われていたからである。外見上では普通の人間である小春。しかし!下部直助。この男によって彼女は改造人間としてこの世界に再び生を受けたのである。
「くくく……指扇よ。貴様の昇天術これで完全に封じてやったぞい」
  盛大な高笑いをする下部直助。しかし指扇は一つとんでもないことに気づいてしまう。たった一つの攻略法……簡単で手軽な突破口。
「下部直助……もしこれで俺が普通に戦ったら……小春は俺に勝てるのか?」
  ……高笑いが一瞬にして止んだ。確かにそうだ。いくら身体を機械化して昇天術の対策をしようとも、普通に戦われたらどうだろうか?
「………………ごめん待ってくれワシが悪かった」
「駄目だな」
  その言葉と同時に小春の体がバラバラに砕け散る。
「じいさん、あんたの身体……まだ現役かい?」
「まっ……待ってくれ殺るなら……せめて普通に……」
「昇天術奥義……絶苦周。無限快楽で苦しむがいいさ。じいさん」
  誰もいない夜……老人の果てる声が響く。


「ゆっくり……息を吐いてください」
「ふ、ふ、ふぅ……」
「ん?どうしたんですか。なにかを我慢しているようですが?」
「あの……なんか身体がおかしいというか……なんか飛んでいっちゃいそうな気分です」
「でしたら……ここなんてどうですか?」
「ひゃっ!ひゃぁ!!!」
「も、もう……やめてぇんああ!」
  俺はまだこうして闇の世界で生きている。なぜ俺がこの世界で生きるのか?それは今語るべきではないだろう。もしかしたらただの自己満足かもしれない。
「やだぁ……しんじゃうぅ。気持ちよすぎてぇ身体がぁばらばらになるぅ」
  多くは語れなかったが。またいつか会おう。
8

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