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16:Commander Blackmore

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 アーシャ・ヴァイスから電話が来て、食事をしないかという誘いだった。バンドのメンバーと交流を深めたいという意図らしかったが、あまり人と会う気分ではなかったのでマリアは「母親が死んだ」と嘘をついて断った。
 スーパーの裏になぜかずっと打ち捨てられている廃車があって、カレンの気持ちを理解しようと思いそれを蹴飛ばしていると、〈灯し主の短剣〉社の人が話しかけてきた。この前ノアから花束を剥奪した平の社員と違い、なにやら偉そうな勲章が胸についていて、上役なのかなと思うとやはりその人はブラックモア部隊長だと名乗った。それなりに美形な三十台半ばの男で、マリアは髭を生やしたらもっと男前になるな、と勝手に思った。
「いきなりで悪いんだけどこの辺りで例のクソ女を見かけやしなかった?」
 ここで話を合わせるとこの前のエリザベスとの苦痛を再び味わうことになる。
「いやいきなり言われても、そのクソ女ってのがどういう人か分からないので具体的にお教え願いますか」
「確かにそのほうが良いように思える確かに。じゃあ教えるとしようかと思う」
 ブラックモアはコンビニのコピー機で写したらしい白黒写真を見せた。痩せた若い女の顔だ。
「こいつは塵埃の魔女として知られるニーナ・マッケンジーという犯罪者なのでずっとオレの部隊はこいつを探して追っかけているのさ。こいつの特徴としては、薄汚い長い髪とエプロンだ。どちらにもびっしり埃がくっついている。こいつは魔法で人の部屋を埃だらけにする。埃だらけ、というと軽く思えるだろうが、五センチもの層ができるほどで、肺に深刻なダメージが及ぶ。寝ているあいだに雪みたく体に積っていた例もある。早く殺そう」
「捕まえたら殺すんですか? 火あぶりとか?」
 部隊長は心底残念そうに、
「いやもはや火あぶりには特別な許可が必要なんだ、すげえ凶悪犯とかさ。しかしオレは火あぶりをやりたい。まあしかたないのでただ捕まえることにして、あわよくば射殺したりするよ。ふくくく。オレの部下が前にニーナに殺されてね、肺にびっしり埃が詰まっていて。だからそいつを焼いたんだ。森林公園の池の近くで焼いたんだ。アヒルがいる池で」
「ああ、この前そこでバーベキューしました」
「そうか。で、ニーナを知っているかい」
「いや、知らないですね」
「そうか知らないのか。残念な話。じゃあ。頑張って車を蹴ってくれ」
「はい、頑張ります」
 しかしその会話で興を削がれて帰宅した。
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