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18:Aftermath

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 それから二週間位してのちに〈西聖堂前交差点の決斗〉として知られる、魔女たちと〈灯し主の短剣〉の抗争があった。〈塵埃の魔女〉ニーナは七発の銃弾を全身に浴びて死んだ。魔女狩り師〈息災のコルネリア〉は窒息死、エリオット副部隊長は魔女狩りのための剣で逆に首を切られて失血死、などとニュースで見た。ブラックモア部隊長は仕事をやり終えたが重症を負った。骨折や脾臓破裂、しかも原因は魔女じゃなく、車道に飛び出し車に轢かれて、だった。
 マリアが現場に翌日行くと、既に衛生局消毒部の処置が終わっており、緑色の染みと薬液の臭いが残っていた。魔女や、魔法で死んだ人間は地縛霊になりやすい。だから現場は霊薬と塩の術による浄化と、のちに何度かの見回りを欠かせない。そのときも灯火騎士団の退魔師がうろついていた。死体は既に〈ソーン埋葬隊〉が片付けたあとだ。死体が転がる場所に現れるのはまず喪服を着た彼らで、消毒部はその次だ。脳の死臭を感知する器官を魔法で肥大化させているとか、死体の臓物で次の屍の位置を占うとかいろいろ言われているが、マリアはもっと単純な魔法を使っているのだろうと推測していた。彼らがいなかったらロウサウンドの路上は、悪臭と蛆虫とカラスと、疫病で埋め尽くされているだろう。それを知ってはいるが、誰もが埋葬隊の弔いの鈴が鳴るのを聞くと、古いまじないの言葉を唱えたり、親指を隠したりしながら、通りから目を背けるのだった。

 〈ブリーズエイジ・プロウラーズ〉の新しいレコードが出たので、発売日に買い、帰宅して聞くと知らない歌声、どうやらボーカルが代わったらしい。まったく知らずに買ってしまい、マリアは絶望的な気分で天井を見上げる。ひびだらけで、人の顔に見える部分を探そうとしたが、ついぞ見つからなかった。
 不貞寝して翌日起き、床に置いたままのレコードを窓から投げそうになったが、誰かに売ろうと思い直す。軽音の誰か、たぶん曲をカバーしたけどそんなにファンではないと思われる〈サドン・テンペスト・オーバードライブ〉のメンバーにでも売ろうと、レコード店の紙袋に入れて、授業もないのに学校へ行った。すると、皇帝誕生日で休みだった。このショックでまたマリア・アーミティッジはしばらく学校を休むことになる。

 銃士隊の仕事はなにごともなく、霧溜りを吸い続けてそこらの喫茶店で休憩して、それの繰り返しだった。常に眠そうな少女プリシラとは何度か話そうと試みたが、毎回挨拶といくつかの言葉を交わしただけで彼女は目を閉じ、こちらの話を一切聞かなくなってしまう。ヴィンスと、事務の女性ミス・アームストロングとは、挨拶を交わす仲にはなったが、それ以上の話をする気にはどうもならなかった。

 ヴァーレインはあれから一回マリアの家に来た。烏坂の下の石造りのアパートに住むのだという――やたらと古くて今にも崩れそうな。彼の姉は帝都で、下水道のブロブを駆除する仕事をしているそうで、頼めばコネで社員としてもぐりこめそうだということだった。しかしすぐ辞めそう、という理由でヴァーレインはその仕事を蹴って街を出て、ここで今は大ネズミを退治する仕事をしている。社員になれるなら帝都に戻ったほうが良いんじゃないの? とマリアが言うと相手は曖昧に頷いて帰った。
 それから半年位した後、くだんのアパートが倒壊しているのを買い物の帰りにマリアは目撃することとなる。建物ごと押しつぶされてなければ、立ち退いたヴァーレインはまた安いアパートを探して転がり込んだか、帝都へ帰ったのだろう。

 カレンが課題曲をマスターし、さらに〈ブリーズエイジ・プロウラーズ〉の新曲を二曲ほど弾けるようになったと言った。歌詞カードを見ながらでいいからマリアが歌えば明日にでもバンドでできるわ。と電話口で彼女が言い、それはすごいね、ライブはすぐにでもできそうだ、とマリアは答え、電話を切ると、未だ床に投げ出したままのレコードを見ながら、ウォッカを水道水で割って飲んだ。
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