それからしばらくしてその酒場〈順風屋〉がいい感じだったのでカレンとアーシャも誘って四人で行くことになり、平日の夕方に来店した。この日、カレンはやたら機嫌が悪かった。それを見たアーシャが、
「カレン、なにむつけてんの? めんこい顔が丸つぶれだよ、ホラーショーな気分になんにはまず自己暗示から」
「都市に自然がないことに失望してるのよわたしは。砂利道、あぜ道を歩きたいんだけどなくて」
ああ、どうでもいいなとマリアは思った。
「それなら、うちの近所の住宅街に砂利道があります」ジャックが言った。
「本当? そこへ行きたいわ」
ジャックがやたら詳細に説明したので、カレンは席を立ってほんとうにそこへ行ってしまった。
「彼女、前からああなの?」アーシャが聞いた。
「やっぱストレスとかじゃないかな」マリアが言う。「確かカレンって今、浪人生だから。プレッシャーとかあるんじゃないの。犯罪に走らないといいけど」
三年位前も、疲れた浪人生が川に緑色の液体を流して問題になった。都市当局は、あれは食品着色料だから影響はないと発表した。犯人はその後、海で溺れて死んだ。
「それで、今度一回位スタジオに入ろうと思うんです」ジャックが言った。「曲が固まってきてるので」
「クイックシルバーは使いこなせてるの?」マリアは泡がなくなったビールを舐めるように飲み続けている。
「音に関しては、クランチ的なのを作る技術は固定しました」
「ああ、じゃあいいんじゃないの。アーシャはドラムどうなの?」
「今知り合いんとこに居候してたんだけど、そいつが夜逃げするというアルトラな事態なんだよ。して住むところなくて。金がないから練習もできないのや。大家さんが一週間猶予くれたんだけど」
「じゃあこんなとこで飲んでる場合じゃないんじゃ」
「平気だって」
平気には思えなかったが、この日から一週間以上経過したあとも彼女は町にい続けたのでどうにかしたのだろう。
飲み会が終わりに近づいたころ、表で悲鳴が聞こえたので、店内の酔客や周辺の通行人が野次馬として集まった。路面の一部が剥がれ、中から奇怪な肉塊が覗いていた。握りこぶしくらいの目がぎょろりと六つ位付いていた。数人がそれを見て吐いた。酔っ払いのうち幾人かが、じかに肉に触れ、後ほど彼らは隔離され、行方が知れなくなった。
三分くらいすると、分厚いローブで全身を覆った暑苦しい集団がやって来て、周囲に立ち入り禁止のテープやらロードコーンやらを配置し人払いをして、ブルーシートで周囲を覆い、何かをして、異形肉をどうにかしたようだ。ジャックは薬剤で溶かしたのではないかと推測した。それからすぐに工事が始まって、翌週には道路の割れ目は何事もなかったかのように消えた。