久方ぶりに街中で魔物狩り同士の抗争が発生した。リヒター司祭長の発言が引き金となって、連日マスコミを通じて退魔師団と〈灯し主の短剣〉社の双方が相手の悪口を言いまくり、両者苛立ちが募る中、魔女狩りの最中流れ弾に当たり退魔師から死者が出たのだ。それに対してブラックモア部隊長が「弾に当たるほうが悪い、さっさと葬式して終わらせなよ、蛸」などと言い、それを聞いた司祭長が彼の家に殴りこみ、周辺の部下たちが集まり、戦いが始まった。近所の住宅や路上の車が焼け、通行人が何人か死に、さらに恐ろしいことに、どちらが持ち込んだのか分からないが、魔女の呪詛がこめられた壺が割られ、住宅街が忌まれ、これまた解呪に非常に時間がかかった。これだけの騒ぎにも関わらず司祭長と部隊長がクビになるだけで済み、不満に思った近隣住民が退魔師団と〈灯し主の短剣〉社の建物に銃弾、爆弾、鳥獣の死骸、怪文書、去年のカレンダーなどを投げ込むこととなった。
これのあとブラックモア部隊長がスーパーの肉売り場で、司祭長が湾口地区のガソリンスタンドで働き始めたそうだ。
この街ではよくあることだ。海軍大佐とか、教会の高司祭が仕事をやめて、タクシーの運転手になっていたりする。あるいは海や繁華街のはずれで、死体となって発見されるか。それでも一週間もすればみんな忘れて、最初からいなかったようになってしまうのだ。