その帰りに職務質問に合った。この国、この都市の警官というのは大変な仕事で、魔物や魔術的怪異、魔導師による犯罪以外を担当するのだが、その件数でさえ馬鹿げた数量だった。帝都に比べればまだマシだが、それでも毎分凶悪犯罪が多発していて、誤認逮捕や迷宮入りも多く、ほとんどの場合無能のレッテルを貼られている。
その警官は疲れた顔で、目が血走っているおっさんだった。マリアとカレンはすぐに終わったが、外国人であるジャックとアーシャは少々時間がかかった。面白かったのは今まで知らなかった全員の本名が知れたことだ。カラミティ・カレンはカレン・コールドウェル、ジャックはジャクリーン・ウェスト、といった。彼女が〈東のジャクリーン(ジャクリーン・オブ・イースト)〉と名乗ったのは、本名が西(ウェスト)なのに東、という対比と、東国のエング出身、さらには出身地がイーストハーバーという都市だということに由来した冗談らしかった。アーシャが質問されているあいだにそれを本人が説明したのだが――ジャックが冗談を言うときはいつもそうだが――ひどく退屈そうだった。
アーシャの本名は前にも聞いて覚えられなかったが、今回もすぐに忘れそうだとマリアは思った――〈アナスタシア・ルキヤノヴナ・ヴィシニョーワ〉というものだった。
警官はなんどもアーシャに対して「あんた、ずいぶん訛ってるね」と言い、そのたびに彼女は「皇国ん人間なんで皇国訛りなんはあたりめでしょ」と反論していた。
開放されて、カレンが「きつかったわね」と言うとアーシャは「だから。おだずなっての、お巡りさん」
「でもアーシャはもともとヤバい歌詞のバンドやってたんだからマークするのは間違ってないんじゃないかしら」
「わたしはドラム叩いてただけでば」
「やはりパンクをやる人間は精神がクズだというイメージがあるのかもしれませんね」ジャックがつぶやくように口走る。
「イメージではなく事実かもしれない」マリアは独り言のように言った。アーシャもなにか思うところがあったのか、それから何も言わなかった。