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9月29日更新文芸作品感想

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■9月29日更新の文芸作品感想


 作品更新数:7作品

 文芸新都10週年にあたり10作品! とはいきませんでしたがそれでも7作品! 上品つつましくおしとやかな(勝手な)イメージがある文芸としては破格の数。ありがとうございます。先代も喜んでいることと思います。ええ。死んでませんよ。ご存命です。こんなこと言ってたらどやされるので進行します。
 さて感想ですが、お馴染みの通り以下の点だけご注意お願いします。
 ・感想を書く順番は更新された順。
 ・感想を上げる前に更新したものは感想を書かない。
 ・↑の場合でも、申告があれば感想を書く。
 申告はコメント欄やTwitterなどでよろしくお願いします。
 それでは気になる更新作品リスト。(表記は更新順)

「ミシュガルド戦記」
「ねむりひめがさめるまで」
「黒兎物語」
「月光」
「ミシュガルド戦記~~丙武従軍記~~」
「拝啓クソババア」
「きかんしゃトーマム」

 おい……僕だ! タイトルに僕がいるぞ! 自伝だ!(違います)
 僕自身全く関わりのないミシュガルド作品であったり、完結作だったり名作だったりと、なかなかの精鋭揃いである今回。キノコ先生最後の感想というだけあってこちらにも熱が入ります。というわけで少々重箱隅突付きマンになりますがご了承ください。あとあくまで小説単体で読ませていただくので、ミシュガルド作品は一度設定など何も見ずに読みます。理由はまた書きます。その点だけお願いします。
 今回は一応ラジオは一回だけの予定ですが、長くなりそうな場合は分割します。
 予定としては文章もラジオも10/1に。
「ミシュガルド戦記」 作者:ミシュガルド:サーガ

【第一印象】
 来ましたミシュガルド作品。必ずぶつけてくると信じていました。前もって読んでいなければ忙殺されていたことでしょう。それくらいの分量があります。序盤から色んなキャラクターが登場しますが、主人公はゲオルクという傭兵王の模様。やはり戦記物の主人公といえば流れ者というか流浪人のようなイメージが有ります。個人的には幻想水滸伝に似たような空気を感じます。世界観・人物設定は未読のまま読んでいきます。

【ストーリー】
 甲皇国の進撃を許したアルフヘイム。要請に応じて馳せ参じたゲオルクだったがエルフたちの扱いは粗雑なものでゲオルクは仕方なしに色んな依頼を受けて戦っていく、という感じ? 歓迎されている感じではない。そりゃあそうだ。その昔、というか今もスパイじみたものに国を荒らされたんだから。人間の汚い部分が全面に出されている感じは好き。エギルゥだかなんだかの一族の嫌味っぷりが良い。最新話ではゲオルクの過去が描かれている。ぶっちゃけ戦記物にかかわらず過去編が始まると読むのをやめてしまうことが多い。なまじその過去編が長いといくら面白くても読みたくなくなってしまう(個人の意見です)。戦略など面白い書き方をしている面が幾つもあったので、過去編を入れずに戦いを中心に展開してもいいとは思った。しかしこの作品、明らかに「ゲオルク戦記」である。

【キャラクター】
 既にキャラクター登録という形で紹介されてるからか見た目の描写は少なく思えた。設定読めばいいだろ! と言われるかもしれないけど、それだと設定がなければ成り立たない小説になってしまうわけで。ただ同作は最低限の描写はされているので問題ない。
 もったいないなと思ってしまうのは、明らかに強ボス集団に見えた丙武ら三人が並ぶシーン。みんな退場しちゃうのはどうなんだろう。ゲオルクたちの強さを示す上では当然かもしれないけど、丙武は良いキャラクターだと思うのであっさりやられてあっさりいなくなるのはすごく惜しい。最後光に包まれていた? のでもしかしたら何かあるかもと思ったけど姿を現さなかったと明確に書いてあるので、ああもうこれで終わりなんだなと。もったいない。某錬金術師のキン○リーを髣髴とさせるカリスマ性はあったと思う。戦記は誰がラスボスという決まりがないから難しいのかもしれない。さて、これから誰と戦うのか……。

【オリジナリティー(世界観)】
 ミシュガルド作品にたいしてオリジナリティーを語るというのも何だかアレなので、世界観の考察、いや感想。うまい感じに戦争のワンシーンを切り取っているという感じ。ゲオルク軍というそれほど規模の大きくない連中が段々と力を吸収していっているのはワクワクする。しかし現状、甲皇国とアルフヘイムではアルフヘイムに軍配があがりそうなものだけども。どうなんだろう。組織力の違いか、戦略の違いか。優れた軍師一人で戦況というのはあっという間に変わるけれども、両軍にはそんなものが果たして現れるのか。そして戦いの先に待ち受けているものは!? 両国の狙いとは!? 気になります。

【文章力】
 文章作法は置いておくとして、少しあっさりしすぎているような気がする。戦記なので誰の立場での話というわけでもないのだろうが、少し淡白。メゼツが流されていくシーンとか、もう少しこう、引っかかるものはないのだろうか。登場人物一人一人に人生というものがあるから、すこしだけ敵側(戦記だから敵もクソもないけど)の描写が少ないか。これだと本当にゲオルク一代記になってしまう。ミシュガルド戦記を謳うからにはゲオルクたちだけではなくそれ以外の人々にもスポットを当ててほしい。ディオゴの話だとか、セキーネの苦悩だとか。

【総括】
 ミシュガルドを知らなくても楽しく読める作品。量はなかなか多いもののそこまで苦にはならない。ただミシュガルド戦記ではない(そもそもまだミシュガルドが出てきてない)。ゲド……ではなくゲオルク戦記としても良いかもしれない。その辺りは作者さんの思惑があるだろうから深くは言わないけど、何にせよこの先の更新で継続して読むかどうかが決まります。過去編は終わりっぽい……? 楽しみにしています。
114, 113

  

「ねむりひめがさめるまで」 作者:硬質アルマイト

【第一印象】
 恋人が失踪した少年の話。別れ際、彼女の口からは泡のようなものが出ていた。ああ、この少年が主人公のお話なんだな――と思っていたら肩透かしを食らった感じ。主人公は一体誰? 誰の心理描写に感情移入したらいい? 印象的な始まり方で現実感が薄かった。やや婉曲的な手法が強く、しばらく視点が定まらずにいた。人の口から泡が出るという始まりはグッド。先が気になる。

【ストーリー】
 読み通して思ったのは「確かに綺麗で美しい話だったのだけど、このお話の本筋は何?」というところだった。朱色の話。葵の話。萌黄の話。言ってしまえば淡音の、真皓の、茜の、継彦の……色んな話が平行線上に浮かび上がってしまって、どれを主軸に読めばいいかわからなかった。それぞれの話が短編として完結していて、終盤でそれが交じり合うならこういった手法でもいいと思うのだけど、そうではない。これは一本の長編。なら読者が食い入って見つめることの出来る人物が要る。それは誰か。始まりと終わりを飾ったのは彼方と遥だ。遥か彼方……どこかのバンドの曲が浮かぶけど、果たして彼らが主人公? でも彼らは長く話の中に出てきたわけじゃない。だとしたら一体誰が……という風に視点の定まらない話だった。上手く纏まってはいるけど、どうにも拭えない違和感が残る。お茶を飲み干したと思ったら茶っぱが少し残っている感じ。たくさんの人物が出てきて色んな話があったけど、雑然とした印象は残る。星のカービィスーパーデラックス的な(例えがヘタクソ)。
 あとサブタイトルを度外視して考えると、誰が話しているのか分からずに話が始まる部分がいくつかあったりして、そのたびに「あれ、これは今誰の話?」と頭を抱えてしまった。もちろんサブタイトルを見れば分かるのだろうからこれは黒兎お得意の重箱隅突きなんだけども、話の輪郭が定まらないまま進めてしまっている感じがあるのでぱっと情景が浮かんでこない。前の話が気になる引きで終わった後で、誰なのかわからない人物の心理描写をよっこいしょされると「誰だお前!?」となりかねない。一人称「私」の人物が多いので尚更だ。一人称はどうしてもその人物が誰か判然としないと緻密な心理描写があったところで感情移入しづらいので、名前なり、人物の癖なり、ルーチンワークなどで誰なのか示すべき。そしてもそれを既にしてあったら気付かなかった僕が馬鹿です。ブラックコーヒー投げつけてください。

【キャラクター】
 全員大人びてるなーってイメージ。高校生ってもう少し血気盛んでわーわーしている感じがあって感情の起伏が激しいと思うから、ちょーっと大人すぎる気がする、全員。朱色(だったと思う)が先生を呼び捨てにしてたり「彼」と呼んでたりするのが要因のひとつか。とにかくみんな落ち着き払っていて、泣き叫んだり混乱したりする様子がないので薄味な感じはした。そうでなくてもアルマイト先生の描く人物はどこか大人びているので、高校が舞台(なのかは分からないけど)ならもう少し高校生らしく思春期の感情の振れ幅を見せて欲しかった。そんな感じのシーンはビンタと屋上くらい?
 あとこれは記憶に残っていないだけかもしれないけど、ほとんどのキャラクターがぼやーっとした容貌しか想像できない。明確な外見は描かれていた?? 桃村さんは何度も登場したから記憶にあるけど、それ意外は特に……。されてあったらごめんなさい。でも見落としてしまうほど、記憶には残っていないです。ここでも悪い意味で印象的に書かれている囲気がある。この人物はこうであるという印象はあるのだけど、細かい部分は分からない。そんなところ。
 あとこれは純粋な疑問なのだけど……初めと終わりの彼方と遥の話は、必要だった?
 彼らが主人公でない限り、必要でない気がしてならない。

【オリジナリティー】
 ねむりひめの設定は面白い。細部までは分からなかったけど、不明な部分も多いというのが作品全体の雰囲気を作り出している。裏を返せば、分からないことが多すぎて置いてけぼりになっている感じもある。実はこの人が、という場面はあったけど、ええっあの人が!? と驚くには至らなかった。正直ねむりひめの詳細が明らかになった時点で怪しくは見えていた。話の構成はオリジナリティーがあるというか逸脱しすぎているというか。不遜な言い回しになるけどこういった構成の作品は良くも悪くも見たことがない。なんというか、印象的な終わりがなかったのだ。それこそ前述した初めと終わりの二人が主軸にいたのなら諸手を打って賞賛していただろうけどそうではない。拍子抜けというか、気が付いたら事切れていた感覚はある。物語全体の雰囲気は秀逸なのだけど、起承転結を格式張って考えた時にはすごく曖昧に見えてくる。言葉は尽きないけれども、このままだと滂沱の文字を並べてしまいそうなのでこれくらいにしておきます。

【文章力】
 高いです。流麗な文章で、登場人物の所作もどこか気品がある。再三言うようですがふわーっとした始まり方で話が綴られているので、始まりの何処かで誰の話を明示した方がいい。映画で言えば、シーンの始まりに誰も人物が映っていなくて、しばらくして誰の視点だったのか明らかになるようなもの。一人称の場合人物の書き分けが肝になってくると思うので、その辺り意識して欲しいかなと思う(ちなみにこれ凄いブーメラン発言です。グサッ)。
 以下、気になった点の抜粋。(ごめんなさいどの辺りかはメモれてないです。検索かけてください)
・「私は髪を梳いて、そこには彼女がまだ生きていた頃の残り香が確かにあって、顔を近づけて嗅いでみると、酷く安心した。」→文あたりの情報量が多くて辛い。この文章のままだと「そこってどこだ?」ってなる。ちょっと違和感があった。
・デティール→英語に直せばわかるけどディテールかデテールだと思う。デティールでも間違ってはいないんだけど少数派かと(デティールはデテールの聞き間違いという説あり)
・「泡が弾けると、真皓は何かを諦めたように目を閉じた。――」→天井を見上げていたのに真皓が目を閉じたか分かるかどうか
・「あまり長くないからだからまだ――」→「あまり長くないからまだ――」かな?
・「使われてベッド」→使われてないベッド?
・「先生火傷を?」「正直言うとね、――」→話が噛み合ってないような……
・「その時なの、と彼女は言うと――」→直前の台詞と噛み合ってない?
・「別に死に方を指定は……」→言いたいことは分かるけど直前の会話の流れは違和感?
・「私の顔が少しづつ変わって――」→現代小説なので「ずつ」の方がいいかと
・「なんだ、私は何故突然追い詰められた――」→なんで、の誤表記?
・「容量の良い弟」→要領。これじゃあたっぷり入る弟ってことに
・終盤の萌黄と絵美の美術室の場面→それぞれの人物の立ち位置が分からない。萌黄が入って閉めたらそこを絵美が開けて入ってきたということ? 「来訪者」という言葉が少し想像を邪魔した
・「同じままで要られる」→いられるor居られる。要るの意味なら「必要とされる」

【総括】
 結局誰の話なのかわからなかった。読者の興味を惹きつける構成力と筆力はあるのだけど、最後の最後ですっきりせずに終わるのでなんとも言えない違和感が残る。綺麗な始まり、綺麗な終わりだとは思うけど、非難を恐れず言えば不要に思える。最後の一文を書きたかっただけなんじゃないかと邪推してしまう。ねむりひめという存在を主軸に置くならそれの顛末が書かれるべきだけど、それが最後の最後でごっちゃになって混乱してしまうので、もう少し誰かをメインの人物として描くか、ねむりひめの結末を明確に書いたほうが良かった。とにかく主眼においてほしいのは「誰が誰の視点で何を経験してどう思ったか」をはっきりさせてほしいということ。正直なところ話としては長編より短編向き。ただ、書き手よりの読み手としては非常に色々なことを考えさせられたので、良い意味でも悪い意味でもこれは硬質アルマイト先生の「転換点」となる作品、のような気がします。これからも頑張ってください。
「黒兎物語」 作者:バーボンハイム

【第一印象】
 アサシーノスという漫画を描かれているバーボンハイム先生がミシュガルド作品にて満を持して文芸に参戦! こうして文芸が盛り上がるのはいいことです。バーボンハイム先生といえば性的な描写と映画的な手法を取るというイメージが強いが、はたして。そして黒兎物語の感想を黒兎が書くというあまりにもシュールな構図に合掌。

【ストーリー】
 憎しみ争い合っていた黒兎人族と白兎人族が同盟を結び、甲皇国に立ち向かっていく話。その裏では様々な人物の思惑が揺れ動く。序盤はダニィとモニークの切ない話を中心に動いているようだったが、いよいよ本格的にきな臭い話になってきそう。あくまで同盟なので何者か裏切る連中が出てきそうで怖い。特にタイトルにもなっている黒兎人族側。たけし軍団を追い払うディオゴだが、味方から殺されたりしそうで怖い。
 戦いは濃密には描かれず、あくまで各個人の心情を詩的に表現しつつ物語は進んでいく。それを美しく思うか滑稽に思うかで作品の評価が変わってくるように思える。これは小説であって小説ではなく、戯曲を読んでいるかのような印象を受けた。

【キャラクター】
 ダニィ、モニーク、セキーネ、そしてディオゴという人物の内面がこれでもかというほどに描写され、それが逆に感情移入しづらさを演出しているかもしれない。彼らの気持ちを汲んで感銘を受けるというより劇中の演者に対して感動や慈しみを覚えるに近い。キャラクターそのものの描写は全く問題なく、前述した感情移入のしづらさというのも同作品を映画的に捉えれば全く問題ないように思える。ただやはりミシュガルドというものがそうさせるのか、端役の扱いが少し雑な気がする。設定は見ていないけど、丙武の部下は登録されてあるキャラクターなんだろうか。ぽこぽこ死んでしまっているけれど。戦場において死はつきものだけど、だからこそ、その扱いを雑にしてほしくない。人間の命に軽いも思いもないのだから。

【オリジナリティー(世界観)】
 戦記というよりは、むしろ争うことを悼むような話。ダニィの音楽然り、セキーネとディオゴの抱擁然り、同作品は戦争なんて馬鹿げているという思想が聞こえてきそうな雰囲気に満ちている。争うことなく手を取り合うべきだ。そういう方向に話は進んでいくのだろうか。……そしてこの作品では、ミシュガルドは登場するのだろうか。

【文章力】
 あくまで小説としての文章作法という観点で見れば少し読みづらい。不自然な改行、句読点の有無or位置、小説というより脚本を思わせる書き方、などが原因だろうか。ただ作品として不完全というわけではない。むしろ黒兎物語においてはこういった文体があっているのかもしれない。仮に小説従事者が同じように黒兎物語の話をなぞったところで、バーボンハイム先生の生み出す耽美な世界観とは比較できない。それほどカリスマ性のある文章で、人気が出るのにも肯ける。

【総括】
 ミシュガルド小説の中では一番勢いがある作品。その人気ぶり通り、作者の熱量の多さも存分に伝わってくる。最新話からいよいよ話が大きく動いてきそうな予感がするので、これからも読者――観客たちを魅了し続けてほしい。僕も待っています。
116, 115

  

「月光」 作者:上総安芸

【第一印象】
 某曲をモデルにした話かな? ああやっぱりそうだった、という印象。これは実際にあったエピソードなのだろうか? ウィキったらどうもそうではないようでした。というかそもそも月光がベートーヴェンの曲ってことを知らずにショパン辺りの曲だと思っていた自分の浅はかさに溜め息が漏れた。そもそも月光と聞いた時点で条例が浮かんだり某バンドの楽曲が浮かんだりする時点で自身の教養の低さが窺い知れる。つまり、黒兎はバカ。バカ兎。

【ストーリー】
 自分の曲を弾いていた盲目の少女のためにベートーヴェン本人が一肌脱ぐ話。特別起承転結があるわけではなく、日常の一場面という風に描かれる話。特にあった驚くような場面があるわけでもなかったので、月光を題材にした話を即席で書いた、という感じなのだろうか。

【キャラクター】
 特に掘り下げるものはない。ベートーヴェンに相伴していた男って誰だー、みたいなことを考えている。ベートーヴェンの難聴設定が使われているけど、実はベートーヴェンは難聴ではなかったかもしれないという話を聞いた(ただし引用はWiki)のでなんとも言えないところ。読みきり短編というより長さ的にも掌編というイメージが強いので、雰囲気勝負だったというところだろうか。

【オリジナリティー】
 言ってしまえばよくある話、という感想。実は……というオチも特になかったので、よくも悪くも平凡かなと。

【文章力】
 個人的に行頭の一字下げが混在するのはあまりいただけない。統一するべし。文章自体は普通。後半のポエムの部分は良かったのだが、くだらなくない、という表現はなんだか……。並以上の文章力はあるだろうからもったいない。

【総括】
 読み終わった時の感想は「月光を聞いてから一時間以内に書くという制限下で執筆された小説かな」というもの。起伏のない平坦な道の上でお話を見せられている印象。もう少し、あっと驚くようなものがあるとよかったかも。じつはベートーヴェン本人じゃなかったとか、隣の男がベートーヴェンだったとか。このままだと特に記憶に残らない一編になってしまう。もっとスパイスが欲しかった。
ミシュガルド戦記~~丙武従軍記~~ 作者:丙武

【第一印象】
 丙武が書く丙武従軍記……自伝!? と思わせるようなタイトルと作者名。まだ主だって戦闘をしている場面は見受けられないので、これから戦いが始まるというところ。丙武は他のに作品にも登場している皆勤人物なのでどのように描写されるか楽しみなところ。

【ストーリー】
 丙武の士官としての日常を追った話……になるんだろうか。話の大きな進展は見られないので何も言えない。他で見られる狂気的な部分は見受けられないのでこれから狂っていくんだろうか。世界観説明重視で進めているのか、どういう話になるのかはさっぱり見えてこない。丙武の目的は何なのか。戦記と名乗りつつも従軍記であるわけなので、その辺りはできるだけ早くはっきりさせたほうが良いように思える。

【キャラクター】
 様々なキャラクターが出てきているものの印象にはあまり残らない。特に最新話に出ているお偉方は並行線上に並べられているので覚えられない。ここ、一度に紹介してしまわなくても良かったのでは? 戦記なのでいろいろな人物が一度に出てくるのは珍しくないと思うが、説明の多さも相まって情報過多すぎるかと。それぞれの人物の思惑や動きなど見せつつ紹介で良かったと思う。これじゃ某カリブ海賊作品の会議所のようだ。

【オリジナリティー(世界観)】
 丙武がまだ戦闘狂(なのかは知らないがそういうイメージはある)になる前の話といったところで、他作とは一線を画しているように思える。これから丙武が戦いのなかでどう思い、どう感じ、変化していくのかを描いていくのだろう。悪として描かれることが多かっただけあって話の展開には期待している。甲皇国側の人物も多数出ているので、それらがどう関わってくるのかも気になる。ただやはり覚えられない

【文章力】
 大部分は読みやすいのだけど、どうしても気になる部分がいくつかあったので末尾に付随させておく。どうにもリズムがあまり良くないという印象で、とっつきにくさはあった。あとは誰が話しているのか分からないという部分もあった(後述)ので、そういう時は地の文を挟むか、発言とリンクできる行動があるといい(怒っている台詞ならカップを机に叩きつけている、とか)。ひたすら説明する部分があったりと、個人的には読みづらい文章だった。
 以下、気になった部分の抜粋
・「海兵が必死になって爆弾を落としたり、機銃掃射を行った。しかし数も精子に劣らないその泳ぐ爆弾は一発ずつ、確実に命中し、みごと受精した淫乱艦船はそのまま海中へと沈んだ――」 →これ、二回目に出てきた「爆弾」は人魚たちのことなんだろうけど、その前に海兵が爆弾を落としているので混乱する。「数も精子に劣らないその泳ぐ爆弾」というのも少し違和感のある言葉だった。
・「乙文だった。――」 →何が乙文だったのか分からない。
・「――それで楽しい遠足は終わった」 →楽しそうだっただろうか……?
・「しかし、乙文の伯父と言っても、母方の伯父で乙家とは無縁なはずです――」 →地の文を挟んだ前の台詞と噛み合わない。地の文は小説という体裁にする上で表面化させるものだから、台詞がきちんとひと繋がりになっていないと少しおかしくなる。
・「丙武と乙文が語り合う場面」 →どちらも特に特徴がないので会話が続くとどちらが話していたのかわからなくなる。

【総括】
 書き慣れているのか、読みやすい部分は読みやすく読みづらい部分は読みづらいとはっきりしていた。耳が痛い。特に台詞回しはあまり意識をしていないのか違和感を覚える部分が多い。キャラクターが作者に喋らされているような拭えない違和感。話自体は面白くなると思うのでその辺りに気を配ると文芸読者を獲得できるかもしれない。期待します。
118, 117

  

「きかんしゃトーマム」 作者:七面鳥

【第一印象】
 機関車トーマ○とかス○ーピーだとか、こういう和やかな絵本に限って重い話題を取り扱っていたり奥が深い話を描いたりしているのは珍しくなくて、このきかんしゃトーマムも例に漏れず胸の奥底にぐさりと突き刺さる話を書いている。可愛らしいキャラクターからにじみ出る狂気や悪意と言ったらもう……たまりませんね。さすがは七面鳥先生。

【ストーリー】
 基本的にはトーマムの周りの機関車たちが破滅していく話に見える。だけどジェイムスの話のようなものもあり、どちらかというと生きていくための術をトーマムが教えてくれるような教養的価値に満ちている。日本語が変だけど気にしない。二部は打って変わって某相棒ドラマの体を模倣したミステリ調。ただし機関車がめっちゃ出てくる。さぞかし異様な光景だろう。どうやったらこんな光景を思いつくのか、頭の中を覗けるのなら見てみたい。密室事件で杉下が打ち出した結論にはめっちゃ笑った。あとキャラクター自体が某相棒をなぞっているのでその声で脳内再生されて笑ってしまう。ずるい手法である。

【キャラクター】
 正直○ーマスのキャラクターは全く分からないんだけど、作中と全く同じ性格をしているのだろうか? そんなに闇が深い話なのだろうか? キャラクターはそれぞれ個性が強く見ていて面白い。原作を読んでいなくてもどういう感じの話なのか分かる気がする。ただ第二部に関してはこれからどうなろうとしているのか不明なのでなんとも言えない。言えることはひとつ、神戸は早く異動にならないとカマ掘られるぞ。

【オリジナリティー】
 既存のキャラクターを改変して流用しているため、オリジナリティーという側面だけで見ればそれほど突出はしていないが、キャラクター作りをそこに加えれば評価できると思う。もとより二次創作(?)のつもりで書かれているのだと思うので、そこからオリジナルからかけ離れた世界観を作り上げていると考えればオリジナリティーに満ちているといえるだろう。人によって意見が変わるところだと思う。

【文章力】
 第一部は絵本のような語り口で、本格的に小説になっていくのは第二部から。それでもどこか絵本調の書き方があるので作者がそれを好んでいるのかもしれない。かなり読ませる文章で、途中まで読んでいたものの気付けば最新話まで読んでしまっていた。これだけ人気があるのも肯ける。これからは割とサスペンス調になっていくようだが、いかに?

【総括】
 第一部と第二部で全く気色の異なる作品が味わえるお得感にあふれている。トーマ○スや相棒を知っている人なら間違いなく楽しめると思うのでおすすめ。これからも良質な話を書き続けて欲しいと思います。余談ですが僕は亀山派です。性的な意味ではないです。
■全体の総括

 というわけで全6作品の感想を書かせていただきました。
 なお、「拝啓クソババア」に関してましては、既に更新されているのと特に申告もなかったということで、感想対象外とさせていただいてます。ご了承ください。個別に言っていただければ感想は送ります。
 今回は少し意見を反映させ、予め感想を上げた上でラジオを行うということになります。まだ読んでないという方にも大体分かるよう書いているつもりなので、よろしければ感想片手にラジオを聞いてみてください。飛び入り参加もガンガン受け付けてますよ。

 次回の感想日ですが、ラジオ中でも後にでもサイコロを振ります。本日から数えて1~6日ということになるので、早ければ明日の更新作品が対象になるかも!? ……というのは流石に厳しいかもしれないので、少しだけ調整が入るかもしれません。よろしくお願いします。
 そしてキノコ先生、感想お疲れ様でした。今回を持ってキノコ先生との共著(というわけでもないですが)は終わり、次からは僕単騎での感想執筆となります。
 いやはや、恐ろしい。お手柔らかに頼みます。
 それではまたラジオで、そして次回感想日にお会いしましょう。
120, 119

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