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103 道の果てに想い重ねて

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 「仕方がない あれを使うか・・・」
「・・・やれやれ、魂削るとこまで来たってわけか。」
「・・・でも、他に策はあるのかい?」
「・・・・・・今度だけだ、もう二度とゴメンだぜ。」
「・・・その台詞は運良く帰れたら言おう。」
「ああ、そうだな。覚悟決まったぜ、ありがとよ、ヌメロ。」
「・・・ネロ、共に戦おう。」
ヌメロの提案にネロは気乗りしないようだった、状況を打破する策なのだろうが、2人の反応から察するに相当な苦痛か疲労を伴う苦行らしい。だが、ネロはセキーネを一瞥すると腹を括った様子で承諾した。主君がいる手前だというのに弱気になっていた自分を恥じてか、ネロは気を引き締めたようだ。

「セキーネ様」
「大尉」
ネロとヌメロがそれぞれの主人を呼ぶ、ハモっていたことに気付き、ヌメロはネロにどうぞと手を差し伸べて言うよう促す。
「従者の身分を弁えない無礼な頼みお聞き願えますか?」
「・・・構いません、続けなさい。」
「道が開け次第、我々の身体を安全な場所まで運んでいただけますでしょうか?」
ネロはセキーネの手を握り締め、懇願する。
「・・・分かりました。くれぐれも無理はしないように」
大方、察しがついたのかセキーネはネロを気遣いながら言う。
「ありがとうございます、あなたの従者であることを誇りに思います。」
ネロはセキーネの手に口付けをすると、額に手をあてそのまま動かなくなった。
不穏な空気を感じながら狼狽を隠せぬディオゴをヌメロは呼ぶ。
「・・・ディオゴ様。従者でありながら、主人であるあなたに口答えした御無礼どうかお許し下さい・・・・・」
ヌメロはディオゴを見つめながら、冷え切ったディオゴの右手を握り締める。
「なに言ってんだ ヌメロ?」
ディオゴの問いかけが終わるのを待たずに、ヌメロは微笑む。
「ディオゴ様・・・実は私もモニーク様のことを・・・・・・お慕いしておりました。モニーク様の仇をとる際には、どうか私の無念も晴らして下さい。従者として、あなたの兄として最初で最後の我が儘です。」
「え? どういうことだよ・・・ヌメロ。」
ヌメロの突然の告白に動揺する間もなく、ヌメロはうなだれて、意識を失っていく。
「おい、ヌメロ! おい!」
「・・・っ! ディオゴ!!」
突然、意識が途絶えたヌメロを気にして、ディオゴはヌメロを揺さぶる。ディオゴの正面にいたセキーネが慌ててディオゴの口を塞ぎ、口元に人差し指を当てて黙るように制する。視覚魔法で姿は消していても、声が聞こえなくなるわけではない。ましてや、ワーカァが蔓延る状況だ。セキーネに口を塞がれ、慌ててふりほどこうとしたディオゴが顔を上げた瞬間だった。彼の顔から数cm手前にワーカァの顔が浮かんでいた。
「ッ!!」
ワーカァ4~5体が4名を囲み、こちらを覗き込んでいた。見えない何かがそこにいることは確実だと思ったのだろう。斧を持ったワーカァが今にも己が獲物を振り下ろさんと地団駄を踏んでいる。
斧はセキーネやディオゴの身長を遥かに超える巨大さだ。兎一羽どころか、ライオン一匹たたき潰せるだろう。振り下ろされて運良く切り殺されずに済んでも、撲殺されてもおかしくはない。
思わず大声をあげそうになる自分を必死に抑え、ディオゴは目を見開いて驚いた。
セキーネも必死にディオゴの口元を抑えつけ、声が漏れぬようにしている。万事休すか。
そう直感した時だった。
「うケケケケケケケーーーッ!!」
斧を持ったワーカァは甲高い笑い声をあげると、他のワーカァの脳みそ目掛けて、両手に握り締められたら鉄の塊をギロチンのごとく振り下ろした。
「きゃピルルルルー」
脳天に斧が突き刺さったワーカァは目をスロットのように回転させ、何とも形容しがたい断末魔をあげて、倒れる。
「んんんピールルゥゥ~~」
倒れるワーカァの遺体を他のワーカァ達が見下ろすのを待たず、どこからともなく奇声が聞こえたかと思うと、遺体の傍に居たワーカァの右顔面が叩きつぶされる。だが、潰されるだけでは思わらずワーカァの左顔面から無数の針が飛び出す。どうやら、針山だらけの巨大なハンマーの餌食になったようだ。

「うルルるるるぅピィ~~キァららラル~~」
巨大なハンマーを持つワーカァは、脳みそを直接チンポでかき回してくるような吐き気を催す雄叫びをあげ、虫の息で痙攣している串刺しにされたワーカァの頭部をなぎはらう。仲間を手に掛けた2体のワーカァは、怯む仲間たちに情け容赦なく鉄槌を下していく。

「同士討ちか??」
ヌメロを背負ったディオゴが独り言のようにセキーネに尋ねる。
「違う、あれは2人だ。」
ワーカァ2人の目には生気が宿っていた、特に斧を振り下ろしていたワーカァの目にディオゴは見覚えがあった。
「ヌメロ・・・」
一瞬目が合い、ワーカァは優しく微笑む。
「オォオオォオオオ!!」

ヌメロの眼差しを宿したワーカァは斧を振りかざし、戦う。ネロの眼差しを宿したワーカァと共に。
ネロを背負ったセキーネは、ディオゴの手をとり手薄になった出口まで駆け抜けていく。出口を閉め、そのまま城内の廊下を駆け抜けていく。ようやく城内の寝室らしき部屋を見つけ、そのクローゼットの中にヌメロとネロを隠す。

「2人は想重(オモイガサネ)を使った・・・」
「・・・どういうことだ?」
「他者の記憶を乗っ取り、己の思うがままに操る術だ。精神が崩壊する可能性がある上に、乗っ取る対象が他の種族の場合、魂が著しく腐敗する・・・」
ディオゴは咄嗟にセキーネの胸倉を掴む。
魔法には疎いディオゴであったが、想重の効力を聞いて過去の記憶が蘇る。かつて父ヴィトーが若かりし頃のヌメロに禁断魔法の話をしていたのを盗み聞きしたことだ。禁断魔法を使って、まともに生還した者は居らず、生還した者は殆どが廃人と化した。故に絶対に使ってはならぬと。想重がその禁断魔法の類であることは容易に想像できた。
「どうして黙ってた・・・!!」
「止めてどうにかなっていたか?」 
どうにもなるはずがない、視覚魔法も燃料切れを起こしかけ、ワーカァに包囲されたあの状況で他に策はなかった。むしろワーカァをあそこで食い止めなければ、たとえ城内に忍び込めたとしても後々援軍として追撃してくる可能性もあった。

「・・・ヌメロ!!」
クローゼットを開け、ヌメロの脱け殻の胸倉を掴み、ディオゴはその胸に顔をうずめる。
「どうしてだ・・・!なぜだ・・・ヌメロ!」
自らの無力さを呪った。かつて兄貴分として慕い、不甲斐ない主人の自分を慕ってくれた従者ヌメロ。
「どうして言ってくれなかったんだ!!おまえもモニークを愛していたと!!」
突然打ち明けられたモニークへの想い・・・同じ女を愛していた喜びと動揺をヌメロにぶつける暇もなく、ヌメロは旅立ってしまった。
「言い逃げしやがって・・・この卑怯者!!ちくしょう!!」
ヌメロの胸に顔を埋めるディオゴの後ろ襟を掴み、セキーネは言う。

「ディオゴ。俺達の足跡に涙は要らん・・・従者が命を賭けて託してくれた道だ。主君として突き進む以外、報いる術は無い。」
かつての戦友セキーネの言葉がディオゴの胸に深く突き刺さる。最早、後戻りは出来ない。
セキーネも同じく従者ネロの託してくれた道を無駄にするわけにはいかない。これが大人になるということか。ディオゴは魂でそれを理解した。
誰も一人で生きていくことなどできない。
沢山の大人達の犠牲を経て、子どもは大人になるのだ。
「行こう セキーネ。」
ディオゴはクローゼットを閉じ、セキーネと共に部屋を出る。ヌメロやネロの想重を無駄になど出来ない。
魂に焔のついたディオゴとセキーネの2人が道中、申し訳程度に城内に配置されていたエンジェルエルフ兵を始末するのも造作もないことだった。
「んぐッ!!」

「うくッ!!」

女だろうと容赦なくディオゴもセキーネもエルフ達を手にかけた。棄て身覚悟のワーカァと違い、エルフ達は知能がある分、隙があった。
もしも、通常の武器であれば傷一つ付けられないシールドが背中の翼から放出されていたため、エルフ達は攻撃されても次があることを想定していた。なにせ、超怪力だ。ジャブ一つで獣人一人の頭をトマトのように叩き潰すことは容易だ。まともにやり合えば勝ち目などない。だが、それが故の慢心は暗殺によってまるで赤子の首をへし折るかのように、エンジェルエルフ兵を地獄へ引きずり込んだ。 ディオゴもセキーネも付け込んだ。
ゼロマナ加工のされた銃弾と、絞殺ワイヤー、ベングリヲンナイフによってエンジェルエルフ兵は無防備な柔肌を犯され、暗殺されていく。まるで、露出度の高い無防備な女子が背後からサオを己の恥部に差され声をあげることなくなすがまま犯されるかのように。
 
「おまえたちに用はない・・・」
「女どもはすっこんでいろ」

吐き棄てながら、2人はたどり着く。
女帝の待つ玉座への扉を開ける・・・

大天使ミカエロの石灰像が見おろすセントヴェリア城の玉座に腰をかけ、ミハイル4世は2羽の兎を出迎えた。

「こうしてお会いするのは初めてだな・・・セキーネ・ピーターシルヴァンニアン、そしてディオゴ・J・コルレオーネ・・・他人に任せていれば大人しく死んでくれる・・・そんな都合の良い存在ではなかったというわけか貴様等は。」
眉間に皺を寄せ、ミハイル4世は立ち上がる。

「ミハイル・・・こいつが!!」
ディオゴの復讐の炎が再び燃えようとしている。
無理もない。最愛の妹に、女として悲惨すぎる人生を歩ませ、死に追いやった黒幕がようやく姿を現わしたのだ。正気でいられる筈などない。セキーネも敢えて止めはしなかった、いやその余裕が無かったといった方がいいか。愛する母を毒殺し、母を愛した叔父ピアースの優しさに付け込んだ黒幕。それを前にして、セキーネは激しい憎悪をミハイルに向けていた。

「殺し合い憎み合い滅ぼし合おうとした貴様等が何故 今ともに手を取り合い、私に牙を向けている・・・?」
ミハイル4世にとってディオゴとセキーネがこうしてこの場にいることは到底理解できなかった。
肉親を殺された男、仲間を殺された男・・・憎い筈の両者が見つめる眼差しは共に同じ。ミハイル4世ただ一人だった。
突如として投げかけられた質問だったが、何故かディオゴは淀むことなく己の心の信じるまま、答えた。
「・・・俺達は憎しみを堪え、互いを許した。
だからこそ、本当の敵はおまえだと気付くことができた。こいつ(セキーネ)が居なければ俺は此処にはいない。」
純粋な気持ちだった、復讐を成し遂げるために何度、セキーネを突き放し傷つけたのだろう。それでも、セキーネは決して自分を見捨てはしなかった。眩しいほどの母性ある友情を持つセキーネが居てくれたからこそ、モニークの無念を晴らすことが出来る。それがなによりも誇らしかった。
いつしか、ディオゴはセキーネを愛していたのだ。

ディオゴの言葉を飲み込み、セキーネは続けて返す。肉親を死に追いやられ、あろうことか肉親を手にかけさせた憎しみは消えなかったが、セキーネはただ魂の信じるがまま答えた。

「憎悪だけでは、死者は弔えない。たとえ全てを投げ出しても死者に報いる覚悟を教えてくれた友が居たから、此処まで来れた。私の傍に彼(ディオゴ)が居ることこそが、何よりの証拠です。」
純粋な気持ちだった、正直言ってセキーネはディオゴがまぶしかった。復讐のため、全てを失ない傷付こうとも立ち上がろうとするディオゴの不屈の精神。周りに見捨てられても、孤独に苛まれようとも決して折れぬ心。それは、愛した死者を弔い、その死に報いる愛深き故の真心。不器用すぎる純粋な自己犠牲の精神。
いつしか、セキーネはディオゴを愛していたのだ。

2人の言葉を見下ろし、ミハイル4世は言う。
「・・・愚かな。 血の海に沈み、思い知れ。憎悪以外の感情が復讐において、如何に不純なものであるかを!!」
ミハイル4世の姿は突如として2人の視界から消えるのだった。






つづく
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