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108 絶望に変わる希望

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ディオゴが人職人人とダニィを見つけ出す事が出来たのは偶然ではなかった。その理由を説明する前になぜガイシにディオゴが召集されたかについて説明せねばならない。
  獣神帝によるガイシ浄化作戦において、ディオゴの役目はガイシの発電所を襲撃し、エイリアの幼生達を解き放つことだった。ガイシのインフラは地下遺跡にまるで卵子に着床した精子のように根を張る聖霊樹(精霊樹の亜種)から発せられるエネルギーを動力源として、発電所を経由して成り立っていた。発電所のシステムに詳しい者がガイシに暮らす黒兎人族の中に居たため、ディオゴはコルレオーネファミリーのドン・コルレオーネとしての権限を使い、ガイシ在住の黒兎人族を集めて発電所の制圧作戦を決行した。その黒兎人族のメンバーの中には、かつてディオゴの大尉時代の時に部下として共に戦った穴兄弟(黒兎語で戦友の意味)達が居た。作戦において、ディオゴたちは所員を殺すことなく外へと追い出すとエネルギーを停止させて間もなく、エイリアの幼生たちを閉じこめていた地下遺跡への扉が開いた。既に街は甲皇国軍によって封鎖されており、脱出しようとすれば射殺されるしかない。ガイシの人々はいわば欲求不満の男どもの檻の中に閉じこめられた裸の生娘同然だ。ここで地下遺跡への扉を開けば、大勢の犠牲者を出すのは目に見えていた。
だが、これは同時にチャンスでもあった。

(・・・地上からの脱出が不可能である以上、地下遺跡から街の外へと脱出する可能性も出てきたってことだ。そう、地下遺跡への道はなにも指しか入らないキツキツの処女マンじゃあねぇ。デカマラどころか拳が入る余裕のあるヤリマンだ。出戻りザーメンおっかぶる前に、さっさとアナルだろうが口の穴だろうが鼻の穴だろうが出て行きゃあいい。)

ディオゴの意図を訳すなら、生存者に残された道はただ一つ。勇気を出して地下遺跡へと向かいエイリアの幼生たちを撃退または回避しつつ、街の外へと続く抜け道を探す。ただ、それだけだ。
発電所には地下遺跡の各エリアを監視している監視カメラがある。幸い所員用の連絡BOXもある。
カメラを一望できるモニタ一室で一人ディオゴは生存者たちを探していた。仕事上、パソコンを使うのには慣れている。

(・・・獣神帝や獣神将の連中にバレたら去勢モンだな。)
獣神帝たちの目をかいくぐり、ディオゴは生存者たちの脱出を支援することにした。ガイシにはアルフヘイムからの同胞達もいる。あるいは、その同胞達と仲良くなった他国の連中もいる。
全ては無理でも何人かは助けてやりたかった。
それに、ディオゴにはもう一つ狙いがあった。もしかすれば生存者たちの中に人職人人を知る者がいるかもしれない。この広大な地下遺跡を探し回るのも骨だ。

ディオゴは所員用の連絡BOXの傍を通る生存者にモニター越しにアナウンス放送を開始することにした。当然、獣神帝たちにはアナウンス放送のことはバレるので、露骨に言うのは控えた。

「生き残りども、化物のチンコにフェラチオさせられて孕されたくなけりゃァ、せいぜい逃げるんだな。
おめえらはマンコに雪崩れ込んだザーメンだ。
出戻ったところで、ティッシュかゴムにくるまれてポイされるしかない。もう、卵子に向かって突き進むしかねぇんだよ。マンコん中は強い酸だらけだ、ぐずぐずしてっと溶けちまうぜ。溶かされる前に着床してみろよ、出来ねえなら俺のローション貸してやろうか? もっとも、俺の下ネタに傾ける耳があればの話だがな  ケッケッケッケッケッ」

大量の黒兎人語を入り混ぜた暗号文だ、一見すればただの悪趣味な怪文書にしか見えない。万一、獣神将の連中に聞かれても上手く誤魔化せるだろう。

「なーに、生存者をからかっていただけさ」

これで済む。
特に女性のエルナティや、ぺぺロムには生理的嫌悪感を催すドギツイ文章だ。聞く気すら起こらないだろう。この怪文書の意図に気付いてくれる者が居ることに賭けるしかない。

アナウンスを聞くと同時に監視カメラにファックユーと中指を立てる生存者たちが数名いたが、何人かはその意図に気付いたようだ。
なかでも、ノースリーブのカッターシャツと紺色のスカートに薙刀を持った銀髪の少女と褐色肌の青髪のショタボーイの2人組と、どこかで見覚えのあるピンク色の兎の絵のTシャツを着た見るからに童貞そうな青年と、肩に手乗り文鳥さんのようにピクシーを乗せたブカブカのくるぶしを履いた短パンの黒髪のショタボーイの2(3?)人組は此方の意図に気付いたようだ。
銀髪の少女は最初の内は目を見開き、顔を赤らめていたが(かわいい)、途中でショタボーイからメモと鉛筆を借りると言葉を解読し始めた。見た目からして、エルフではない人間族だろう。
だが、途中で黒兎人語だと分かった時点でアルフヘイムの出だろう。

勘の良いその少女は近くの連絡BOXの受話器をとり、モニタ一室のディオゴに尋ねる。

「・・・もしもし」
「小生はゼトセである、貴殿は何が望みであるか?」
ゼトセと名乗るその少女は若々しい見た目とは裏腹に50年前のアルフ語で話した。少しばかり発音にはSHWの公用語の一つメンデルス語の訛りがあった。

(こいつ、いったい何でアルフ語習ったんだよ・・・)
おそらくアルフヘイムの武侠物や、古典を見て勉強したのだろう。思わずそれは違うと突っ込みそうになるのを我慢汁の如くグッと堪え、ディオゴは続ける。自分のアルフ語やクノッヘン語、メンデルス語にも黒兎語訛りがあるので人のことは言えない。要は通じればよいのだ。自分のことを棚に上げて、人の粗を探すのはカスの証拠だ。
「ゼトセか・・・たんぱくそうな面ァして意外と勘が良いな、アンタ アルフの出か?」
「如何にも。もっとも、小生はメンデルス地方からの移民であるが・・・」
「ほー、元はSHWの出か?」
「チッ・・・メンデルス地方の出だ。」
(し・・・舌打ちされた・・・そんなにSHWが嫌だったのか。)
ゼトもの隣にいるショタボーイも彼女が少し陰鬱でイラついた顔をしたのを察し、あっちゃ~と言いた気な顔を浮かべる。どうやら、彼女の地雷を踏んでしまったようだ。

「・・・ともかく、言語学者の父上から黒兎語については聞いていたのでな。故に貴殿の言葉の意味を解読できた・・・外からの脱出経路を教える代わりに、取引に応じよということか?」
「そこまで分かってンなら話が早ぇ、いいか
俺は脱出経路を知っている、その代わり2~3個質問に答えてもらう。ちょっとばかり知識が要るから分からないなら別に構わねえが、嘘はつくなよ。アンタの顔は此方から丸見えだ。」
ゼトセはカメラを見つけると、燃えるような目でカメラ越しにディオゴを見つめる。
「案ずるな、小生は仁義は守る女だ。
質問とは如何に?」
「この地下遺跡に人職人人が居ることは知っているか? もし見かけてたり、知ってることがあるなら答えろ。」
ゼトセは人職人人という言葉を聞くと、目を見開き答える。
「実は先ほど人職人人を見つけた・・・小生も彼女に用があったのでな。」
まさかの偶然にディオゴは思わず切り取った筈のデカマラがフル勃起するかと思うほど、驚いた。
「そいつはどこにいる? それと彼女と言ったな?そいつは女か?」
人職人人の特徴を聞くチャンスだ。まさかこんなところで美女のおっぱいのように有り難い手がかりを掴めるとは思わなかった。
「先ほど この先の(カメラ視点で2時の方向を指さしながら) 通路で遭遇した。咄嗟のことで思わず、驚いたが間違いはない。小生ほどの大きな胸に、一本腕と一本足。身長は120~130ぐらい。ブルーベリー色のショートへアに、藁色のマント。頭蓋骨の髪飾りに、左目は金色。左の顔半分と一本足の下半分に縫い目あり、なお顔と足の表皮は青白い色と黄色みがかった白い色に分かれていた。」

ゼトセからの情報を必死にメモしつつ、かつ頭にも叩きこみながらディオゴは思った。

(・・・こいつ、今さり気に巨乳アピールしやがったな。)

確かにおっぱいはデカいが、今はそれどころではない。ディオゴは脳内でフラーから得た人職人人の情報とゼトセからの情報を照合し、欠けた情報を追加してゆく。フラーはコルレオーネファミリーに入る前は情報屋だったこともあり、その情報精度は高い。元々、人職人人の情報はガセネタが多く、正確な情報を1つでも手に入れれば大きな成果になる。

(デカ乳、隻腕、120~30の小人・・・フラーがくれた情報とも一致する・・・ガセじゃあないだろう。)
正直、まだまだ粗はあるが 多少は賭けてもいいだろう。今までファミリーの仕事をしながら8年間も探し続けた手掛かりだ、チャンスはある。

「ありがとよ、これは興味本体で聞くがアンタどうして人職人人を探してた?」
「・・・・・・」
ゼトセは奈落の底へと沈むかのように俯き、うなだれた。
「・・・野暮なことを聞いた。脱出経路だが」
「父を亡くした・・・甲皇国の機械兵に殺されたのだ。」
ゼトセの言葉に傍でそれを聞いていた青髪の褐色肌の少年の顔が曇っていくのが分かった。会話の流れから何を話しているかは分かったようだ。
「・・・そうか アンタもあの戦争で親を?」
「・・・いいや、亡くなったのはミシュガルドでのことだ。彼から聞いた。私は親の死に目に会えなかったのだ。」
褐色肌のショタボーイの肩に手を置きながら、ゼトセは答える。ショタボーイも、半泣き顔でいたたまれない面持ちになる。
「そうか・・・オレも愛してた親の死に目に会えなかった。」
「貴殿の復活させたい人はもしや・・・」
「いや、俺ァ親不孝者だったから今更会わせる顔がねぇしなぁ・・・いや、寿命全う出来たからその点は納得してる・・・納得できねぇのはそーだなァ 事故とか殺されたり・・・だとかだろうな。特に・・・てめぇのために死なれたりなんかしたら、納得なんてできねぇだろう。」
ディオゴは一呼吸置いた。
「義兄貴がいる、俺と義兄貴は黒の災禍のグランドゼロにいた。義兄貴が俺の上に覆い被さってくれなけりゃァ、俺が廃人になっていた筈だった・・・いや・・・俺が義兄貴の代わりに廃人になるべきだった。」
話しながら黒の災禍のトラウマがフラッシュバックし、ディオゴは頭を抱えて苦しんだ。
「あれから10年経って 俺には女房も子供も出来た・・・だが、今でも後悔の念は消えはしない。義兄貴を介護しながら、どうして自分だけ幸せになんかなってしまったのか・・・今でも俺の幸福が俺自身を責める。」
電話越しにゼトセはディオゴの苦悩を知った。

「・・・幸福とは他人の不幸で成り立つと言っていた人間は今も昔もいるし、それが世の中の真理(ことわり)だと小生は思っていた・・・でも貴殿のようにそれは違うと自問自答し、他人の幸福のために努力する人もいる。ありがとう、まだ世の中棄てたものではないのである。どうか、叶って欲しいのである。 小生、貴殿の願い 心から応援する。」
モニター越しディオゴはゼトセを見つめ、頷いた。

「・・・ありがとう。人職人人と出会ってアンタは願いを叶えたか?」
ディオゴは心からゼトセが願いを叶えることを祈った。
「いや、人職人人と出会えた矢先にギターを持った獣人族の男に襲われた。どうやら、同じく人職人人を狙っていたようだ。 戦っている内に、地下に落とされてこの小生、暫し気を失なったのだが、気がつくと目の前に人職人人が居て 小生の父親はガーディアンの呪いを受けて蘇生させられたと伝えられたんだ。」
「ガーディアンの呪い?」
聞き慣れぬ言葉にディオゴは尋ねる。
「左様、ここ数年間でアルフヘイムに居た者達がミシュガルドに移民してから発症し始めたらしい。何でも悪霊に取り憑かれ、自我が抑えきれなくなるらしい。元の父上に戻るには呪いを解くしかない。いずれにしろ、もう人職人人の手を借りる必要はなくなった。今は此処から脱出しなければならない。」

「・・・そうか、貴重な情報感謝する。幸運を祈る、御礼に脱出経路を教えよう。」
ゼトセに脱出経路を教えながら、ディオゴは妙にひっかかるものを感じた。

「待て、さっきアンタを襲った獣人族の特徴を教えてくれ。」
ギターを持った獣人族・・・妙な胸騒ぎがした。
まさかとは思うが、勘違いであって欲しいと心から願った。
「種族は黒兎人族だと思う。獣面じゃない、人間面の男だ。茶色みがかった金髪に褐色肌の筋肉質の若い男で、黒いフード付きのパーカーを着ていた。フードからは黒い兎耳が2つと・・・背中からは蝙蝠羽が生えていた。」
ディオゴの身体から血の気が引いていき、背骨を氷柱でブチ抜かれるような戦慄を覚えた。

(嘘だそんな筈はない)

だが、何度そう願ってもゼトセの言葉は否定したい現実を絶望的に肯定していた。

更にそんなディオゴに金的蹴りするかのように、別のモニターには見覚えのある男が一瞬だけ映し出される。

「ダニィ?!」
素早くて僅かしか映らなかったが、見覚えはあった。失踪してから10年も経過していたので、思っているよりも筋肉質で少し大柄になっていたが、
見間違える筈はなかった。生きていればちょうどこの映像の男位にはなっているだろう。だが、それでもディオゴはこの目で見るまでは信じられなかった。

一方的にゼトセとの電話を切ると、ディオゴは人職人人のいると思しき通路へと駆けていく。幸いゼトセがいる場所の近くには、このモニタ一室を出て左のエレベーターを使って降りられる。


そして、その希望は粉々に打ち砕かれるのである。


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