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14 違う道のり、同じ終点

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「兎人族の和平交渉が進展を迎え、297年に渡って憎しみ合ってきた
兎人国家統一が実現しようとしています」

「これまで黒兎人禁制とされてきた聖地ブロスナンの巡礼が行われ、
聖地にはこの日を待ち望んでいたラディアータ教徒が
涙を流しながら、ボンド宮殿へと向かっています」

アルフヘイム中を駆け巡ったこのニュースはアルフヘイムにとって
希望への道となりつつあった。甲骨国との大戦の中ではあったが、
長きに渡り憎しみ合ってきた亜人族同士が手を取り合い、
共闘するというニュースは、兎人だけでなく、
多くのアルフヘイム国民を勇気付けたことだろう。

「……兄さん 本当に本当に……ありがとう」

一時は絶縁した義兄ディオゴ……
平和など非情な現実の前では踏み潰されるだけと吐き捨て、
戦乱に身を投じていった義兄ディオゴ……
一度は憧れを棄て、憎悪さえした義兄ディオゴ……

その義兄ディオゴが今、平和のために闘おうとしている
義弟ダニィ・ファルコーネにとって、これほど嬉しいニュースは無かった

「どうしたの?ダニィ……今日は音色が明るいねぇ」

モニークはダニィのために料理を作りながら、ダニィに問いかけた。

「モニーク……聞いてくれ……ディオゴ兄さんが明るい未来を作ってくれたんだよ…
 兎人族を一つにまとめたんだ……これで僕等はもう白だ黒だと
 憎しみ合わなくて済む……」

喜ぶダニィを他所に、そのニュースを聞いたモニークは少しばかり暗い顔をした

「……私は……嫌だ……」
「え?」

「あんな……白兎人と……同じ場所で暮らせるわけない……」

モニークは震える右腕を抑えながら、哀しく呟いた

「……モニーク」

ダニィは自分の喜びがモニークにとってはただの苦痛でしかないことを知った
刻んだ人参を少し齧ると、モニークはそのまま部屋へと戻ってしまった

(……ダメなのか……心に傷を負ってしまった者が
 失われた平和を取り戻すことは……)

恋人モニークをレイプされたダニィは血まみれの彼女の顔を見て誓った……
「もう……こんな悲劇を繰り返しちゃいけない……」と……

復讐に燃え、モニークをレイプした白兎のゴロツキ共が居る村を焼き討ちした
義兄ディオゴの姿を見てダニィは誓った
「誰かが誰かを憎み合うのはもう嫌だ……
 尊敬していた人たちが悪魔に変わっていくのは……もう耐えられない……
 こんな哀しい世の中を終わらせなきゃならない……」

ダニィは自らの音楽を使って非暴力と非差別、平和をメッセージにした曲を
ただひたすら作った……来る日も来る日も……指が擦り切れ、血塗れになるほどロンロコを奏で、
指を休めている間は、包帯を巻いた指で楽譜を書いた……

楽譜を必死に売り込み、平和主義者の音楽家たちに売り込んだ
いつか必ず平和が訪れることを信じて……
彼の楽譜は種族を越え、アルフヘイム中の音楽家たちの間で平和を祈る交響曲として
紡がれていった。 やがて、それらは第24番まで作られるほど大きなものとなり、
アルフヘイムの音楽家たちは、その曲をまとめるためにコンサートを開くなどした。
そこでは、各種族の音楽家たちが自らの種族で伝えられる多種多様な楽器を使い、
アルフヘイム中の民族音楽が混ざり合った。

「まさに……俺が理想としていたアルフヘイムのあるべき姿だ……」

全ての種族が平和というただ一つの願いを叶えるために団結している……
音楽こそ沢山の違いはあれど、だからといってそれで争いが起こることもない……
互いの違いを認め合い、如何にそれらを一つにまとめあげて
より美しいものを作り上げるか話し合う……

かつてただの夢幻の絵空事と揶揄された人種の桃源郷アルフヘイムの
あるべき姿が、そこにはあった。

やがてその想いが通じたのか……ダニィたち音楽家による
「平和のための祈りの交響曲」の第1番から第24番の完全版の演奏が決定し、
兎人族の統一を祝福した
統一記念式典で「アルフヘイム交響曲」として演奏されることとなる。
そのコンサートはあまりの長さに1週間も続いた。

ダート・スタンが音楽家一人一人と握手を交わし、演説した

「国民の皆さん、今ここに2つに分かれていた民族が1つにまとまったのです……
 互いに憎しみ合うことしか知らなかったあの2つの民族がです……
 今や互いに尊重し合うことしか知らない私たちに出来ない筈がありません!
 アルフヘイムが一つにまとまるべき時が、ようやく訪れたのです!!」

民族統一を悲願としていたダート・スタンは
ラディアータ教の「悲願を叶える花」という意味を持つ、彼岸花が咲き乱れる中、
涙ながらにアルフヘイム国民に向け、演説した。

ようやく平和がこれで実現すると思っていた……
これこそがダニィなりに恋人モニークに深い傷を負わせた非情な現実への復讐だと信じていた…

だが、モニークの訪れる平和への恐怖に満ちた顔に
ダニィは再び苦悩した

「もし、平和が訪れればこの黒兎人の里にも
 白兎人がやって来ることは確実だろう……だけど、モニークにとって
 それは過去のトラウマを掘り返すことになってしまうのか……」

自分がやってきたことは果たして正しかったのだろうかと……
ダニィは悩んだ……

そして、義兄ディオゴとは違う形にはなったが、ようやく学んだのだ
平和の残酷さというのを……

義兄ディオゴとは歩む道は異なっていた……
ディオゴが闇の道を歩んでいたとするのなら、
義弟ダニィは光の道を歩んでいた……

だが、蓋を開けてみれば
ディオゴもダニィが目指し、到達した場所は同じだったのだ

平和は残酷なものなのだと……
憎しみを背負ってきた者……心に深い傷を負った者……
彼等にとって平和はいつまで経っても「過去を忘れよ」と無理強いする最大の悪なのだと…

ダニィは学んだのだった……

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