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37 償いの口づけ

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ダニィとマルネはガイシ北部からの侵入を図ろうとしていた。既に北部への入口はカール中佐と、アレッポ大尉の治安部隊によって完全に封鎖されていた。
「・・・甲皇国軍兵か・・・奴等 街を封鎖しているようだ
さて 俺はどの様に侵入すべきか」

およそ10km先から望遠鏡を使い、ダニィはカール中佐とアレッポ大尉の治安部隊の様子を伺った。
(先程出くわしたあの化物を街の中に封じ込める気だな・・・おそらく他の残り3つの入口も似たようなモンだな・・・となれば 侵入ルートは地下が望ましい)

そう考えるとダニィは街の地下へと続く地下水路の入口へと望遠鏡を向けた。
(・・・あそこなら警備は手薄なハズだ)
全くのゼロという訳ではないだろうが、少なくとも地上より甲皇国軍も警備は敷いていないハズだ。地下水路のような閉鎖的空間で上手く立ち回るのなら、地上暮らしの奴等より洞窟育ちのダニィの方が上手だ。

ダニィは地下水路へと繋がる洞窟へと降りていこうとしていた。だが、降りる寸前で彼はマルネの名を呼び、振り向いた。

「マルネ・・・ここから先はついて来るな」
ホビット族特有の小さな体格なりに見るからにこの険しい道をついて行こうとしていたマルネ。
端から見ればダニィの言葉は当然の成り行きだったが、マルネはこの言葉に深く傷付きながら反論する。
「・・・何を言ってるんだよ ダニィ・・・っ! 嫌だよ!」
だが、そんなマルネに現実をつきつけるかのようにダニィは悲しく眉間に皺を寄せ、言葉を続けた。
まるで理想で現実に立ち向かおうとしていた過去の自分に現実の非情さを諭すかのように・・・
「これから先、あんな危険な連中を相手にしなきゃならない。はっきり言って君は足手まといにしかならない。戦う術を持たない君を危険に曝すわけにはいかない。」
ダニィの現実をつきつける言葉に面食らいながらもマルネは苦しく反論を続けた。
「ダニィ・・・考え直すことは出来ないのか? 今ならまだ間に合う! 」
「マルネ」
「今、ここで君を引き止めなきゃ一生、君と会えない気がする!」
「マルネ!!」
マルネの名を呼びながら、ダニィは現実をつきつけられても尚、立ち向かおうとしていた過去の自分をマルネに見た。だが、そんな自分に現実は抗えないんだとねじ伏せるかのようにダニィはマルネの名を呼んだ。
マルネはダニィのただ静聴を願う切実な眼差しにただ黙って聞き入るしかなかった。

「 ・・・もう決めたことだ。人生には誰に何と言われようとも 己の意志をねじ曲げてはならない時がある・・・たとえ大切な者の頼みだったとしともだ ・・・今がその時なんだ」

ダニィの強い現実を携えた眼差しと、その言葉に マルネは何も言い返すことが出来なかった。

「・・・君まで護り切れなかったら・・・もう耐えられないんだ」

ダニィの目が赤く濡れていくのをマルネは感じた。その目にはモニークの亡骸を前に、己の無力さをただ噛みしめ、悲しみのどん底へと突き落とされたダニィの無念が映っていた。きっとモニークとマルネが重なったのだろう。

「マルネ、どうか紡いでくれ
僕らの歴史を・・・・・・そして伝えてくれ・・・・・・平和の尊さを」

ダニィはマルネの頬をさすり、額をこすり合わせ、願いを託し、懇願するかの様に祈った。
「そして時々思い出してくれ・・・
一人の女を愛した男が居たことを・・・ 愛を諦める事が出来なかった男が居たことを」
マルネは何度も何度も頷いた。
現実を受け入れるしかないと悲しく悟ったマルネの成長がそこにはあった

「・・・魂の友マルネ・・・君を愛してる」
ダニィはマルネに口づけを交わした
こんな自分を最後まで引き留めてくれた親友の言葉に応えられなかったことへの償いのキスだった。突然のダニィの八重歯の如く飛び出た犬歯が絡んだキスにマルネは唇を切り、一筋の赤い血を流しながら、ダニィはそのままマルネを振り返ることなく飛び降りた。

マルネは唇の血を拭きながら、ダニィの背中を寂しく見送るのだった。
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