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43 愛父への誓い、世界でたった一つの温もり

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 ミハイル4世……本名アレクシア・ミハイロヴナ・キエフ……
本来であれば、彼女が即位した時の名前はアレクシア2世となる筈だった。
だが、彼女は父の名前を引き継ぐ形でミハイルと名乗り、ミハイル4世となった。
皇女が男性名の即位名を名乗るという事例はエンジェルエルフ史上初である。

そこまでして父ミハイル3世の名前を受け継ぎ、アレクシア2世ではなく、
ミハイル4世となったのか……それは彼女の父への愛からであろう。

「……お父様」

ミハイル4世は愛父ミハイル3世の肖像画を見上げ、父の名を呟く。

「あなたの娘アレクシアは……あなたの遺志を引き継ぎ、
今まさに第一歩を踏み出そうとしています。あなたの悲願の第一歩として
兎人族が掌握している精霊樹「シーター」を抑えます……
女王ヴェスパーが居なくなった今……これまで誰も踏み入れることの出来なかった
結界が開きます……ですが、そのヴェスパーすら精霊樹のコアの結界を作り出すことは出来ませんでした……
そこで、現れたのが……マリー・ピーターシルヴァンニアン……ヴェスパーの姉テレサの忘れ形見の
彼女は……精霊樹のコアの結界を生み出すことが出来る唯一の存在……
マリーの死こそ、真にシーターを掌握することになるのです……」

セキーネはまだ幼き10歳のマリーを抱き抱え、近くの廃墟へと逃げ込む……

「はぁっ……はぁっ……」

「……マリー……しっかりしろ……マリーっ!!」

愛する叔母ヴェスパーと、ピアースの死、そして愛した聖地の崩壊と……
度重なるストレスでマリーは高熱を発していた。

「セキー……ネ……様っ……」

「……死ぬな……っ……どうか頼む……死ぬな!」

マリーは今にも息絶える寸前のように虚ろな目をしていた……
温かい毛に覆われている筈の両手両足からも、希望の温もりは感じられず
あるのは死を予感させる絶望の冷たさだけだった。

「ミハイル様……只今戻りました」
白兎の城より戻ったニッツェが口元を艶やかに微笑ませる

「……ご苦労であった ニッツェよ」

ミハイルはニッツェの頬に口づけをし、感謝の意を伝えた。

「ぁ……あぁっ……!いけませんわ……っ!!ミハイル様……っ!」

ニッツェは自身の股に手を当て、溢れ出す透明の蜜を抑えようと必死に耐えながら
ミハイルの感謝の意に対する動作に歓喜で震えていた……

「貴様は我がエンジェルエルフ族の歴史において
精霊樹奪還の先駆けとなった女エルフとして、永遠に名を残すであろう……」

そう言いながら、ミハイルはニッツェの股より溢れた透明の蜜を手に取り、
生き血を啜る吸血鬼の如く、啜り出した。

「……勿体無きお言葉にございます……!!あぁ……でも……いけませんわ!
ミハイル様……私のような者の蜜を……」

「蜜」とは、エンジェルエルフ族の言葉で「性液」を表す。
「性液」を舐める、啜る、飲むという行為は「相手への尊敬」、「服従」という意味がある。
エンジェルエルフ族の女エルフが、妖艶な魅力に溢れた者ばかりというのも
そういった習慣が礎にあるせいなのかもしれない。

いわば、従者である筈のニッツェの蜜をミハイル4世が舐めるという行為は
恐れ多すぎることだったのだ。

「……フフフ……ニッツェ……儂はお主に感謝しているのだぞ……
亡き父の悲願達成の第一歩を踏み出してくれたお主にな……
これぐらいの敬意は評さねば お主への無礼に当たるというものだ……」

「あぁっ……ミハイル様……っ」

ミハイル4世の身長は140cmほどの小柄な子供である、
ニッツェは女エルフとしては長身の170cmほどのスレンダーでグラマラスな体型をしている。
ニッツェがミハイル4世を抱きしめる姿は傍から見れば、まるで親子のようである。
だが、その実年齢としてはミハイル4世は540歳、ニッツェは180歳と
親子というよりは、祖母と孫ぐらい離れた年齢である。
年齢と見た目が釣り合わぬことなど、エルフの世界ではよくあることである。
特に、エンジェルエルフ族においては年老いていけばいくほど子供のような姿に
なっていくのが当たり前である。だからこそ、人間の常識に当てはめれば
大人を抱きしめる子供という到底理解できないその構図が
逆にミハイル4世の内側に秘める闇を引き立てているかのようだった。

「見ていて下さい……父上……ぜひとも貴方の悲願を成し遂げてみせます……」

愛父の肖像画を仰ぎ、ミハイル4世は誓うのだった……

甲皇国が、こんな闇を秘めたアルフヘイムに戦争を仕掛けたのも
この闇を滅ぼさねばという使命感が……もしかしたらあったのかもしれない。


「セキーネ……様っ……」

「どうしました……? マリー……?」

セキーネは羽織っていたコートを
マリーの身体に巻きつけ、暖を取らせていた荒野の夜はよく冷える……
シャツ姿のセキーネの両腕と首筋には厳しい寒さだった

「…なんだか暑くなってきました…………
 セキーネ様も どうか服を羽織って……くれませんか?」

マリーは自分の身体を覆うセキーネのロングコートを手に取り、セキーネに返そうとした……
こんなにも冷え切ったマリーの手足がたった数時間で暑くなってくるハズなどない……
マリーの言葉は嘘だろう……少しでも暖を取って欲しいと従兄の自分を気遣うマリーの優しさの嘘だ。
母を失い、叔父をこの手で殺め、荒みきったセキーネの心には
マリーの優しい嘘が……この温もりが……あまりにも暖かすぎた。

「……マリー……実は私…………暑がりなもので……
……薄着になっているだけなんですよ」

「……そうですか……無理しないでくだ……さいね
 セキーネ様……」

そう言うとマリーは目を閉じ、眠った。
マリーを抱き抱え、セキーネは涙を流した。

「……マリー……私は……あなたのくれる……この温もりだけで……
本当に……本当に……充分なんです…… この世界の誰よりも
私はあったかいんです……」

家族も故郷も何もかも失った2人の白兎は互いの温もりに
身を寄せ合い、荒野の夜を過ごすのだった……













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