トップに戻る

<< 前 次 >>

61 地下炭鉱

単ページ   最大化   

ディオゴはレドフィンの率いる竜人族の精鋭分隊4名を隠蔽しなければならなかった。今回の任務には、強大な火力を内蔵しているだけでなく数十名の人員を背中に乗せて運搬できるほどの容量…つまりは大きさを有した竜人が必要であった。そのため、レドフィンの妹アーリナズのように人間としての特徴を強く出したタイプよりも、レドフィンのように竜としての特徴を強く出したタイプが必要であった。

だが、それは同時に隠蔽の難しさを意味する。
森林において兵士や車両などを隠蔽する際には、木々や土といった天然の偽装材料を使用してたとえ空からであろうとも敵にその存在を知られてはならないのだが、レドフィンたち竜人族4名の巨大さといったらその森に隠すにはあまりにも巨大すぎた。

「身体中に我慢汁ぶっかけられた女みてぇに
奴らの体中に土や木をおっかぶせて 
古代人の残したドラゴンの石像とでも言い訳するつもりか?」

「……無理があると思います」


相変わらずの汚い比喩表現を駆使するディオゴの言葉に対し、
その部下ヌメロがごもっともと言わんばかりに答える。

ヌメロは兎面の兵士であり、左目を跨ぐ傷が特徴であった。
全身をフードで覆い、両手に鉤爪を装備したその姿は
一見するとプロの暗殺者のように大層機動性に優れているんであろうなと
見るものを推測させた。だが、彼の首からマフラーのように垂れ下がる古代ミシュガルド文字らしきもの
(本人曰く魔文字)が刻まれた布が、彼が魔法戦士であるということを教えてくれた。

彼ヌメロは、自らの持つ魔法を使いレドフィンたちを地下に隠すという
アイディアを思いついた。

「……おまえのアイディアが無ければあの竜の旦那が大層
ご立腹になるところだったぜ」

「……間違いなくそうでしょうね」

あの我が道を行くレドフィンのことだ。
土をおっかぶせたままじっとしていろ等と言う無理な注文、我慢汁を抑えきれるわけがない。
おそらく「いつまでじっとしてりゃあいいんだ?」「マジ冷めてぇんだがよぉ……」
「くそぉ……アリが身体這い回ってマジキモイわ~……」「あーだりぃ…もう帰るわ」と文句を
射精や潮吹きのごとくぶちまけ、その御機嫌伺いで無駄に兵士たちの労力を要することとなったろう。

ヌメロは森の地下に竜人族を収容出来るほどのスペースと、いざ出動の時には
そこから地上へと抜け出す地上からの一本道を用意するプランを思いついた。
それらのスペースは炭鉱を作る時にダイナマイトを爆発させる時の要領で、
爆破魔法を使って土壌や岩石などを爆破し、作り出した。
そして、それらのスペースを地下炭鉱に見えるように偽装すれば完成だ。

ただ、この作戦の欠点としてはスペースを作る際の爆破によって僅かながら
地震が発生することであった。だが、それも止むなし。
甲皇国軍が接近する前に、レイプのように強引に仕上げてしまうしかなかった。

「ところで、水の浸入を防ぐ準備は出来ているか?」

「……ご心配なく」

地上ではガザミ率いる魚人兵たちが、至るところに水のトラップを仕掛けていた。現時点でフローリア周辺の森は、巨大な湿地帯・沼地と化している。少しでも敵兵の侵攻を食い止めるための防衛戦だ。
フローリアを棄てるつもりではいるが、もしこの沼地で食い止められるならそれで問題はない。もし、水のトラップが作動してこの地下炭鉱まで水責めになってしまったら元も子も無い。

なにせ、レドフィンたちは竜の中でも火炎竜なのだ。
彼らにとって水は人にとっての硫酸に近いほど危険な液体なのだ。

「水のトラップが作動した時のために、この地下炭鉱から半径500メートル周辺に
センサーを張り巡らせておきました。そのセンサーが作動すると同時に、
地下炭鉱の出入り口の結界が作動し、大量の土砂や水を防ぐという構造になっています。」

「…だが、それが作動した場合 生き埋めになってしまうことに変わりは無いぞ。
なにせ、水がいつまでも抜けないんだからな……排水の処置もしっかりとしておけ。」

「……了解です」

ヌメロは、部下たちを率いて排水の処置へと向かっていった。


「……やれやれ これだから人付き合いは嫌なんだ」

大尉という大勢の人間を指揮する立場に居るディオゴであるが、
実際の彼は家族以外の人間との接触をとことん毛嫌いする内向的な人間であった。そのため、こういった日々のやり取りだけでもディオゴは大きく精神を消耗した。更に脳裏に焼き付いたモニークの死に際の映像が、何度も思い起こされてフラッシュバックし、人参タバコの量も増えていった。次第に酒に手を出し始め、最終的に麻薬にも手を染めていた。ある部下の証言では ディオゴはあまりに精神を病みすぎたせいか、彼がかつて飼っていた白と黒の鳩2羽のことを思い出して「アマンダ……コリン……かわいいねぇ~」と鳩を撫でる真似をしだしたり、鳩を見ると「あ~ ポッポさんだぁ~」「ポッポさん大好き~~~」と微笑むなど奇行がかなり目立っていたという。迫り来る丙武軍団の侵攻の前に、ディオゴの精神は押しつぶされようとしていた。

72

バーボンハイム(文鳥) 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る