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宣下8年3月10日、北嶺ジャアナル紙23面特集記事より引用

 ズンダに染まる春が来た。なんと二千年前の古文書の一部分を解読し、解読不可能な部分は同時代の文化風俗から類推するなど想像力を無限に働かせて再現可能となった古代のスポーツが、今月三日、富士宮多目的競技場内の一角に設けられた特設コートで行われた。復原に関わった関係者ら総勢二十三名がコートを駆け回り、歓びの汗を流した。

 ズンダ・ラペッタ、通称ズンダはおおよそ二千年前に行われていたと思しきスポーツであり、現存するのは現代言語では解読不能な数冊の解説書とスコアブックと推定される一冊のノートのみである。ズンダ・ラペッタは見てわかる通りズンダ折とラペッターレを組み合わせて最近作られた造語であり、この競技に本来つけられていたであろう名称が解読不可能であることを如実に示している。ラペッターレは本紙17、8面にもリーグ戦速報が記されている当代の人気スポーツであることは今更説明を待たないが、ではズンダ折とは何か。名前は知っているだろうが、なかなかその実態については知らない読者も多いように思われる。ズンダ折(ズンダ-おり)とは、この競技に使う道具を用いて行っていたと思われる処刑のことである。ここまで聞くと、たいていの読者は「処刑道具を使うスポーツだなんて」と思われることだろう。事実、この年までズンダ・ラペッタの復原作業がずれこんだのも、処刑道具を用いたスポーツを復原普及させることに体科省が難色を示したことが一因となっている。
 ズンダ折に用いられるのは細長い棒である。何のことは無い。その棒で被処刑者を処刑係がひたすら殴打するだけの刑罰である。かつてこの国には律という法律が制定されていた時代があり、罪人を罰する術として五刑というものが定められていた。笞(ち)・杖(じょう)・徒(ず)・流(る)・死の五つの刑罰がそれで、この中の杖刑がズンダ折に良く似ていることから、時期的にも方式的にもこれに近いものではなかったかとするのが学者間での趨勢である。
 しかしながらズンダ折には制定されたのち長い年月を経てその本質が変貌していったと思しき節がある。それは、処刑係がその処刑という概念や殴打といった行為よりも、そのやり方に重きを置きはじめたということだ。有り体に言ってしまえば、その処刑に「ゲーム性」を付与してしまったということである。
 ズンダ折の「ズンダ」の由来に関しては諸説有り、そのどれもが正しいようで正しくないようなものばかりであるとしか言えないのだが、おそらくは殴打時の音をあらわすオノマトペではないかと思われる。例えば古来「餅つき」という言い方をしていた一連の行為が、小野ジョージ史治教授によれば数百年前に若い女性たちの間で「ぺったんこ」というオノマトペから「ペタコ」と呼ばれはじめ、現在に至るまでその名称で指すことが一般的になっているのと同様の現象がそこにはあるのではないか。つまり、複数人の処刑係がリズミカルに被処刑者の身体を殴打する事によって生まれるグルーヴィなリズム、それが「ズンダ」なのではないか。では「折」とは何か。小野ジョージ史治理論によって被受刑者の発する呻き声「オッ」や「ウッ」の類が「折」と聞こえてそう呼ばれるようになったか。否である。そして、この「折」の由来こそがズンダ折におけるゲーム性を最も端的に表していると言えるのである。
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