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4 神への復讐

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 今でこそ粗暴な口調と振る舞いで教会内で(特にライバルのティモテウスから)「問題児」「神を愚弄する者」と揶揄されるダニエルだが、意外にも彼はモニカを失なうこの日まで神への尊敬を欠かした事はなかった。祖父マタイオスをこの手にかけたあの日以来、決っしてこの手で誰かを殺めたことは無かった。マタイオス亡き後の大老の一人として就任してからは、暗殺業には携わることはなく、ダニエルはアサド計画一筋でひたすら働いてきた。聖人アサドの遺体の回収及び復元という、世界平和の実現の為、生涯を捧げると神に誓ったのだ。この手で殺めた祖父マタイオスの魂の安らぎと、ディエゴに託した愛するモニカの幸せを願い、それがせめてもの贖罪になればと誓ったのだ。だからこそ、彼は神への敬意を欠かすことなく、女も抱かず、禁欲と祈りの日々を過ごしていたのだ。
 
ダニエルはディエゴと出くわす訳にはいかなかった。ディエゴのエージェントを勤めるアダムの図らいにより、モニカの恋人であるディエゴが喪主兼神父を務めた葬式に出席することなく、彼女の遺体を埋葬するタイミングを見計らい、ダニエルとモニカはようやく2人きりになることが出来たのである。

「どうしてだ・・・どうしてこんな冷たくなってしまったんだ・・・モニカ」
ダニエルは棺に寄りかかり
慟哭した。義父に夜の街に立つように強要され、その義父が病死しても解放されることなく娼婦として生きることを強要された哀わな女モニカ・・・愛する男と再会し、ようやく女としての幸せを掴もうとしていた矢先、彼女は下衆なゴキブリ共の慰み物にされ、その儚い命を終えたのだ。たった22年の短く薄幸すぎる人生だった。
「どうしてだ 神よ
何故彼女を連れて行ってしまったんだ?」
ダニエルは安らかに眠るモニカの寝顔を見つめ、嗚咽した。ダニエルは思った。

神は祈りをささげ、頭を垂れる我等を嘲笑っているのだと。ならば、我等を嘲笑い、地獄へと突き落とした神をねじ伏せてみせると。
アサド計画を利用し、モニカを必ず復活させてみせると誓った。

祭壇の前の聖書の説教が終わり、ディエゴとアダムはモニカを地獄に墜とした下衆なゴキブリ共への復讐に向かった。
愛する女の報われぬ魂を弔う為、女を失い憔悴する愛する親友を奮い立たせる為、ディエゴとアダムの聖戦が始まろうとしていたのだった。
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