今年のお年玉。
唯一貰えた、両親からのお年玉の袋を手触りで確認する。
底には、丸い硬貨がただひとつだけ入っているのがわかる。
去年の額は50円。
袋の口を破ってひっくり返し、硬貨を手のひらに落とした。
今年の額は・・・100円。袋に入れる意味はあるか。
その様子を見ていた、出来損ないの青い猫型ロボットが馬鹿にしてくる。
くそっ。
ロボットなんかがいるからうちは貧乏なんだ。
最近の世間のステータスはロボットを一台家に置くことなんだと。
そしてロボットの電気代、燃料代(食費代?)、ロボットに与えるリース代という名の給与!
ロボットにも人権があるから、法律で必要最低限以上のものを与えなければならないらしい。
そのせいで、自分はロボット以下のこの待遇である。
自分には人権が認められていないのではないか。
今日のおやつはピーナッツ三粒だった。そんな自分の隣でロボットがどら焼きを齧っている。
こんな生活はいつまで続くのか。
親は見栄を張り、自分を私立の学校に通わせている。
そのせいで余計に家計は火の車だ。
制服はいつまでも着れるようにと、セワシの体に合わない大きいものを着せる。
弁当は日の丸弁当にウィンナーが二本。
髪型は節約のために母が切るため、いつもオカッパ頭だった。
同じ学校に通う周りの友人との差に余計に自分が見窄らしく感じる。
うちが貧乏なのは、祖父の代からだと聞く。
おじいちゃん。
おじいちゃんは就職できず、仕方なく働くために起業した。
そして何を思ったのか会社の貸しオフィスの中で花火をやり、会社のすべてを焼いた。
オフィスの入っていたビルの損害は大きく、中には怪我を負った人もおり、賠償額は相当なものとなった。
そのせいで、おじいちゃんの子孫は苦労している。
そうだ、おじいちゃん。おじいちゃんが悪いんだ。
おじいちゃんを更正させれば、今のこの状況はないだろう。
セワシくん、何を考えているんだい。
にやにやといやらしい笑いを浮かべてロボットが近づいてきた。
セワシは思いついた内容を耳打ちした。ロボットの口の右端がくいっとあがる。
いいじゃん、それ。君に協力してあげるよ。
ロボットの目尻が下がり、相変わらず奇妙な笑みを浮かべている。
それなら僕のタイムマシン貸してあげるよ。うふふふ。
セワシとロボットはタイムマシンに乗り込んだ。
ロボットがタイムマシンにキーを差込み、システムを起動させる。
本当は政府の許可が必要なんだけどね。内緒だよ。
ロボットはセワシにウィンクをした。
ロボットが違法に企業の製品の図面をコピーし、複製を作っていることは知っていた。
こいつもその類だろう。
いつに行こうか。
ロボットが聞いてくる。
じゃあ、おじいちゃんが、まだ若いころ。うんと。
そうだな。僕と同じくらいの歳の時がいいかな。そっちのほうが話しやすいし。
わかった、とロボットは言うと機械の鍵盤を激しく叩き始めた。
移動プログラムを作っているんだよ、とロボットはいう。
一時するとロボットの指は動きを止め、親指を立てるような形に変化させた。
出来たよ。行こうか。僕の肩に掴まって。
タイムマシンは加速を始める。
空間の色が鮮やかに光る。
きれいだね、とセワシがいうとそうかい、とロボットは答えた。
タイムマシンはゆっくりと減速し、やがて動きを止めた。
これからどうするんだい、とロボットに問いかけると、ほら、このワームホールに飛び込むんだよ、と虹色に光る穴を指す。
これが出口だ。そうなんだ、とセワシは言って、二人はタイムマシンからワームホールに飛び降りた。
ワームホールを通過する。
上下感覚が狂う。目が回り、苦しくてもがいていると、自分の手をつかむものがいた。
大丈夫かい、セワシくん。
ロボットは皮肉な笑みを浮かべていた。
セワシが苦しむ様子を楽しんでいるかのようだった。
ロボットはこの空間で感覚がおかしくなることはないらしい。
移動中そうロボットは話した。
ワームホールを抜けた。
セワシたちは勢いよく穴から飛び上がった。
セワシは尻から着地した。
弾みで何かの角に頭を強く打ちつけた。
痛い。頭から液体が垂れた。汗か。
それは赤い。僅かに血が流れていた。
周りを見渡す。どうやらここは誰かの部屋か。
机の引き出しがだらしなく開いていた。
この引き出しがワームホールにつながったんだろう。
引き出しの下には、頭から血を流す、同い年くらいの少年が伸びていた。
あいつだね。
セワシの背中から声が聞こえた。
セワシは振り向いた。
ロボットがセワシの後ろに立っていた。
ロボットが少年に近づいていく。
少年の襟を掴んで体を空中にもちあげ、少年の頬を2、3回ビンタした。
衝撃で少年が目を覚ます。
「君を助けに来たよ。」
少年の小さな目と青いロボットの巨大な目が向かい合う。
少年の瞳孔が拡大する。
練馬区の閑静な住宅街に悲鳴が響いた。