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最終章 世界を救う10の方法

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 黒兎人が来るまで、魔封の賢者が来るまで、メゼツたちは死力を尽くした。|魔素《マナ》を吸収して暗血色のクリスタルは大きくなり、鼓動を速めている。もう時間がない。|魔素《マナ》を送り込んでいるソフィアたちを倒しているヒマはなかった。
「だったらよ~、そのデモンズコアって奴を黒騎士の体からえぐり出せば禁断魔法は発動しねえってことだよなあ!!」
 メゼツは崩れた黒い鎧に両足を突っ込み、デモンズコア無理やりひっぺがそうと足をかけた。
 すると突如青い光が鎧から漏れ出し、ウンチダスの体の中に膨大な|魔素《マナ》の濁流が流れ込んだ。
 メゼツの体がふわりと軽くなった。体に逆流する|魔素《マナ》によるダメージが消えていく。
 デモンズコアを囲むように黒騎士の右肩、左脇腹、右腿に突き刺さったゼロマナダーツが六芒星の魔法陣を展開しデモンズコアへ流入する|魔素《マナ》を完全に遮断していた。
「どうやら、間に合ったようですね」
 ダーツを放った長髪のエンジェルエルフがメゼツににこりと微笑みかけた。落ち着いた雰囲気から数百年の年輪を刻み実力を備えた余裕が垣間見られる。
「あんたがの魔封の賢者、クローブ・プリムラ」
「フフッ、そんな大それた者ではないよ。ただの流人さ」
 クローブはメゼツと軽く言葉を交わすと、ポーチから取り出したダーツを指の間に挟み込み次々と黒騎士に投げつけていく。
「貴様の|魔素《マナ》は私が全て封じた。どう足掻こうと無駄だ」
「チャージは90%といったところか。こうなればデモンズコアに蓄えた分だけでやるしかない」
 黒騎士の体に埋め込まれたデモンズコアの脈打つ速度が激しくなり、禁断魔法発動の限界に達しようとしていた。
 ダーツによって無力化していたデモンズコアをメゼツは足を使ってつかみ出し、引き離す。
 間一髪、黒騎士の体内からデモンズコアが抜き取られた。
 デモンズコアとむりやり切り離され、、深々とえぐられた黒い鎧からは息をするたびに大量の血液が流れだしていた。
 前のめりに倒れるがすぐに上体を起こして、目だけはメゼツをにらみつける。黒騎士の闘志は依然衰えず、メゼツののどぶえに今にもかみつきそうな口を開く。
「禁断魔法が発動していれば、この世界は変わっていた。腐り切った世界を一度破壊し、差別の存在しない新しい秩序を構築する。それが世直しの一番の早道であるのに、なぜ邪魔をする」
「あんた、ちょっと、キレイ好きすぎるぜ」
 メゼツの一言は短いが黒騎士の心をえぐった。
 もしや自分は潔癖すぎて、いつしか博愛主義から道を踏み外してはいなかったか。


「遅くなってゴメンねー。特別ゲストのオツベルグでーす」
 舞台そでから衣装をはためかせながら、こぎみよくタンバリンを鳴らし登場する。そよ風を起こす魔法、風の祝福を使った過剰演出。この場にそぐわない珍客の登場に、一同の視線が集中する。
 けがれを知らぬ目には強い光、自信に満ち溢れたまなざし。金髪碧眼、アイドルのようなルックスだが、今日はルレット・スレーダーに特注した裸に黒い帯を巻いただけの大胆な衣装を着ていた。ライブにかけるオツベルグの意気込みがうかがえる。
「タンバリン仮面様!」
 作戦が失敗に終わり、心をへし折られてしまった黒騎士はオツベルグにすがる。
「私は種族の壁を乗り越える博愛主義を体現するために、この世界を一度更地に戻そうと思ったのです。信じてください」
「分かるよ、君の考えは。ただ方法を間違えてしまったんだね。さぁ立ち上がって、共に革命の歌を歌おう」
 オツベルグは黒騎士の手を取り、肩を貸して助け起こす。
「タンバリン仮面様ー!!」
 オツベルグの意をくんで、ダニィは弦を直したギターで国父クラウスの前奏を弾く。
 黒騎士が率先して歌い出すと、ニツェシーアがハモり、コラウドが口を開く。コツボ、ササミと続き、いつしかエルカイダ全員による大合唱となった。
「何? この曲? 体の奥から衝動が湧き上がってくる! ああ、こんなことならば」
 その時キャッチの体内で変化が起き始めた。その鍛え上げた肉体を戦うのではなく、楽しむことに使おうと決意したのだ。伝説のダンサーCATCH誕生の瞬間である。
 衝動に身をまかせ、キャッチは歌に合わせて踊り狂う。
 キャッチの荒ぶる右手をコーラクエンが左手で受け止め、手を繋いで歌い始める。
 コーラクエンが右手を差し出すとクローブは恐る恐る手を握り、しぶしぶ歌う。
 逃げ散っていた観客もひとりまたひとりと戻ってくる。人間も亜人もエルフも関係ない。手をつなぎいっしょに歌を口ずさんでいる。
 ソフィアはこの耳障りな歌を止めようと叫んだ。
「止めなさい! エルフと亜人、人間が仲良く歌うなんて不愉快だわ」
 オツベルグは歌いながらソフィアの手を強引につかむと、自分のほうへ引き寄せた。
「話しなさい! この私を誰だと思って……」
 ソフィアの言うことは一切聞かず、オツベルグは自分の意見を一方的にしゃべる。
「さぁ、君もいっしょに歌おう!!」
「私には関係ありませんわ」
 冷たく拒絶されてもめげず、オツベルグはソフィアに顔を近づけてまくしたてる。
「恥ずかしがらずにいっしょに歌おう! さあ、さあ!!」
「ち、近い! 分かりましたから、離しなさいな」
 男に免疫がないソフィアは耳まで真っ赤になってうろたえ、しかたなく国父クラウスを歌う。歌っている間オツベルグはずっとソフィアの手を握っていて離してくれない。
 おとなしくなったソフィアはもじもじしながら、ちらちらとオツベルグの顔を横目に見ながら歌いきった。

(終曲)
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