森が瘴気のような黒い霧で覆われ始める。後ろに結った髪をなびかせ、いぶし銀のエルフ、キルク・ムゥシカが弓をとる。
すべてを終わらせる時……!
「チクショオオオオ!」
キルクは矢をつがえて、弦を引き絞った。
「くらえジョワン! 新必殺超おもおも豪爆おの!」
「さあ来いキルク。オレは実は膝を射られただけで死ぬぞオオ!」
キルクの手から放たれた矢は見事にジョワンの右膝を貫いた。
「こ、このザ・膝と呼ばれるヒザーニヤ一族のジョワンが……こんなエルフに……」
ジョワンは悲痛な断末魔をあげる。
「バ……バカなアアアアアア」
膝を射抜かれたにもかかわらず、ジョワンは口から血ヘドを吐いた。矢は膝を貫通した後も勢いを失わず、ジョワンもろともヒザーニヤたちのほうへ飛んでいく。
「ジョワンがやられたようだな……」
「奴は一族の中でも最弱……」
「エルフごときに負けるとは一族の恥さらしよ」
ヒザーニヤ一族には3本の矢という家訓がある。1本の矢ではひとりのヒザーニヤしか倒せないが、3人のヒザーニヤを倒すには少なくとも矢が3本は要る。3人のヒザーニヤは協力しジェットストリームアタックのように単縦陣の陣形を組んだ。
「くらええええ!」
縦1列に並んでいたジョッツ、ジョスリー、ジョフォーの右膝を1本の矢がメザシのように貫通する。矢は1本で十分だった。
「やった。ついにヒザーニヤ一族を倒したぞ。これでジョゼロのいる神の千年樹帝国への扉が開かれる」
「よく来たなキルク……ムゥシカ……待っていたぞ」
霧が晴れ、目の前に千年樹が出現する。
「ここが神の千年樹帝国だったのか……! 感じる……ジョゼロの魔力を……」
「キルクよ、戦う前に一つ言っておくことがある。お前は俺を倒すのに膝に命中させる必要があると思っているようだが……別に膝でなくても倒せる」
「な、なんだって!?」
「そしてお前の仲間には恨みはないから逃がしておいた。あとはオレを倒すだけだ、クックック……」
「フッ……上等だ……おっさんもひとつ言っておくことがある。黒騎士が自分の息子のような気がしていたが、別にそんなことはなかったぜ!」
「そうか」
「うオオオ、いくぞオオオ!」
「さあ来いキルク!」
キルクの勇気がミシュガルドを救うと信じて。
(ご愛読ありがとうございました!)