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同じ穴のムジナ

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 ~13~

 駐屯地内では、黒兎人族の蜂起が始まろうとしていた。先のクレメンザ兵長がディオゴの指揮下に入ったことで、勤務中の黒兎人族の兵も立ち上がった。

「我らが同胞ファルコーネ夫妻の尊厳のために!!」

「理不尽な暴力を受けたファルコーネ夫妻の名誉を取り戻せー!!」

突如として蜂起した黒兎人族と白兎人族の衝突はやがて激しい戦闘となり、後にブロフェルド事変として兎人族の歴史に名を遺した。

立ちふさがるアーネストの部下達を掻き分け、ディオゴ達は奴が待ち受ける司令室へと向かう。
奴の司令室は5階だ、精霊樹によって動くエレベーターも、動力源の魔力を司る精霊樹との連結部を外されているのか動く気配を見せない。
階段を使い、周り道をしながらようやく5階へと到りつくことに成功した。 5階から1階までは吹き抜けとなっているため、階下からアーネストの部下達がディオゴ達目がけて矢を放ってきたり,拳銃やライフルで攻撃してくる。

「軍曹・・・!此処は我々に任せて下さい!」
「クレメンザ!!」
「絶対にファルコーネ夫妻の仇をとって下さいよ・・・!!こりゃあ、アンタとヤツの問題じゃあねえ!!オレ達兎人族の問題なんだ!!
分かったらさっさと行けええぇえ!!」

敵を防ごうとするあまり、クレメンザ兵長は上官にハッパをかけていた。

「すまん!」
そう言うと、ディオゴはアーネストのいる司令室の扉を開ける。
「待ってたぜー コルレオーネ軍曹」
デスクに座り、こちらを見つめているアーネストの顔面にディオゴは即座に引き金を引き、ありったけの銃弾を叩き込んだはずだった。
だが、銃弾はアーネストに届くことはなかった。

「ヘヘヘヘ・・・防護壁だよ バカめ」
精霊樹の魔力によって作られた透明のいわば防弾ガラスである。銃弾など叩く筈もない。

「アーネスト!」
奴の顔はどこか優越感に満ちていた。これ程の騒ぎを起こし、最早待っているのは破滅だけだと言うのに。
「お前の復讐劇の終点にようこそ」
アーネストを見て一瞬で臨界点を突破した怒りも、防護壁に遮られたせいで、やり場を失いディオゴは悔しそうに近くの椅子をとり、投げつける。砕けた椅子の破片が防護壁に弾かれ、ポンボールのように反発し合っていく。
「無駄だ お前は俺に傷一つ付けることは出来ない」

そう言うアーネストの右目には痛々しい傷跡が刻まれている。まるで落雷を喰らった瞬間を絵にしたかのような顔は、まるで立体の絵画のようであった。

「・・・そう言うな その傷面、なかなか似合ってるぜ。もう少し傷をつけた方が箔が付くんじゃないのか」
傷のせいか、黒く濁った右目を嘲笑いながら軽口を叩いた。

「ああ、この傷か・・・お前の義弟君にやられてね。彼はお前より骨があったからな。」
そう言いながら、アーネストは負けじと返す。

「お前は敗北者だ、ディオゴ。愛した女をモノに出来ず、護れず、そして復讐すら遂げられない。」

「黙れ!!」
ディオゴの右腕が、憤怒のあまりに水牛の背中の瘤のように膨れ上がった。瘤のように膨らんだ腕の表面を浮き上がった血管がヘビの様に這い回り、削り取ったダイヤのように固まった拳を侵食する。まさに鬼の拳・・・こんな拳に殴られたら、顔面が一瞬で潰れた西瓜と化すだろう。だが、そんな鬼の如き拳だろうと防護壁にヒビすら入れることすら出来ない。むしろ、防護壁を殴るディオゴの拳の方が傷付き始めていた。

「知ってるぞ、ディオゴ。お前がモニークを妹としてでなく、女として愛していたことを・・・禁断の愛にお前が苦悩していたことも」

「黙れぇえッ!!」
ディオゴは堪らず防護壁を殴る。
殴った衝撃で血が飛散し、血潮があがる。
「気持ちは分かるぜ ディオゴ。
俺も他人の女を愛しちまったからな、俺も禁断の愛に苦しんでたのさ」
アーネストはディオゴの心に寄り添うかのように防護壁ごしに語りかける。

「俺達は同類だ、ディオゴ。誰にも認められない方法でしか女を愛せない。」

防護壁の寸前までアーネストは顔を近付ける。アーネストは、まるでディオゴの心の深淵を覗き見るかのように、彼の瞳を凝視する。
爬虫類のようなアーネストの眼光に、ディオゴは言葉を失った。

「世間は言う! 家族だから、他人の女だから諦めろと! ただ単に女を愛しただけなのに、何故なんだ、おかしいと微塵も思わなかったのか?」
全てを見透かすアーネストの言葉に、ディオゴは言い返す述を失った。

「俺もお前も元を辿れば同じ穴の狢だ、俺はただ自分の愛に正直に生きたに過ぎない。」

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