【雑誌名】文芸新都
【作品名】有沢、HIVに感染したってよ
【作者名】安彩花
【作品URL】http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=18901
【あっさり読める短編、まずは読もう】
まずはネタバレ回避の作品紹介から。
まぁ、タイトルはキャッチーで、かなり話題になった作品だし、既に読んだという方も多いだろうが…。
本作は、コメントの貰いにくい文芸で中々のコメント数を稼ぎ、FAも多数、最終回では文芸では何年ぶりかというホットアイテムにも入った作品だ。
更新1回ごとの文章量もちょうど良いぐらいで読みやすかったからこそ、1更新ごとに2~3コメを稼ぐことができて徐々に注目され、最終回でコメが爆発した。
新都社は人気が人気を呼ぶという傾向が強いので、実に上手なやり方である。
コメントが欲しい文芸作者の皆さんは本作を見習うと良いだろう。
勿論、実力が無ければそういう「上手な更新」をしても、到底ホットアイテムに入ることはできない。
それぐらい、文芸でホットアイテムに入るのは相当に凄いことだ。
それも初回更新で「期待」とかで得た訳ではなく、実力を評価され労われての「面白かった」で得たもの。
その事実だけでも読むに値する文芸作品。
だがそれでも、文芸だから読んでいないという人や、この感想を見てから読もうという人もいるだろう。
でもどうか、まずはちゃんと読んでほしい。
本作は話題性の割には文章量そのものは少なく、漫画しか読まない方でもあっさり読める短編である。
文芸といっても特に難解な言い回しもなく、理解しやすく読みやすい。
感想で話の筋を何となく把握してから読むよりも、まずは作品を読んでその衝撃を味わって欲しいと思う。
…で、既に読んだ、もしくは別にネタバレされても良いという方は、以下の感想も読んでほしい。
文芸に特に興味ない方は読まなくても良いと思う。
【猜疑心がテーマ(※ネタバレあり)】
安彩花先生の作品は、書くテーマがどれも暗い。
この「有沢~」以外にも何作か読んでみたが、どれもこれも根っこは同じに見える。
今年新卒で就職したばかりらしいが、ツイッターで「ンゴォオォオォ」と絶叫してる大学生のウェーイ系でネアカな感じとは対極だ。
ぶくまん先生の言う「いじめを受けやすい陰キャラ」という定義とも対極。
あのネアカキャラもカモフラージュで無理してるのかな? もしかして作品内のドロドロ加減が本性かな? とか思ってしまうぐらいギャップがある。
本作も集団いじめにあった女子中学生がHIVに感染したと告白し、自分と性交渉を持ったという4人の人物の名前を挙げ、学校中を疑心に駆らせるという超絶ドロドロダークネスな内容。
しかしながら、それが面白い。
川尻清子というキャラは相当にインパクトがあるし、彼女の独白から始まる物語冒頭は秀逸。ぐっと作中に入り込ませられる。
WEB小説・漫画全般に言えることだが、プロローグや第一話で見切りをつける読者は物凄く多いから、この構成は百点満点である。
この僅かな文章量の一話の独白だけで、かなり多くの謎や情報が提示されている。情報量が多すぎると推理の方に頭の処理能力を奪われ、物語に没入できないことがたまにあるが、すらすらと自然に彼女の言葉が頭に入ってくる。
最初は川尻、次にジャニーズ、マルコス、ボウズ、ピノキオ、カチューシャ…と、次々と一人称が入れ替わる構成。
どれもそれぞれの立場に合った一人称で、作者の高い文章力のせいか中学生にしては大人びすぎてるようにも感じられるが、物語を盛り上げるセンスのある言葉選びがされており、物語に入り込ませてくれるので良かったと思う。
ジャニーズの自殺のくだり、最後二行の疾走感が実に好みだ。
マルコス先生の家庭崩壊のくだり、息子のDNA鑑定のあたりからの彼の心情たるや鬼気迫る。
ボウズとピノキオのホモカップルのくだり、調子に乗っていたキリストへのアナルレイプとか実に痛快ではないか。
カチューシャだけはちょっと可哀想だが。うむ、川尻を殴っても良いと思う。君だけは。
終わってみると、川尻の嘘に掻き回された人々の愚かな末路という感じだが、それは自業自得というのも多くあり、別に同情を誘うものでもない。
テーマは「猜疑心」なのだろうが、マルコスはともかくとして、中学生の幼い彼ら彼女らにしてみればこうなるのは仕方のないことだと思う。
だからといって幼い衝動に身を任せ、いじめをして良い理由にはならない。
ただこの川尻というキャラクターは、そのいじめなど実は歯牙にもかけていなかった。
それでいていじめをしていた連中が盛大な報いを受けるように罠をしかけていたのだ。
何と悪魔のように狡猾で頭の切れる女子中学生だろう。
実に強烈なキャラクターだと思う。
まーでもやっぱり「その倫理観、カリソメにつき。」の花見倫象と丸子乙を足して2で割ったような感じではあるね…。
こういう切り口での実力は十分に分かったので、今度はまたまったく別の作風にも挑戦して欲しいところだ。