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森の灯火

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少女は森の中で目を覚ました。
それは朝だったかも知れないし、夜だったかも知れない。
だが、少女にはそれを判別する事は出来なかった。
何故なら、空がある筈の場所は鬱蒼と茂る木々で覆われ、雲も星も月も太陽も、何も見えなかったからだ。
それでも、風の運ぶ匂いや、伝う雫が無いことから、少なくとも雨でない事だけは分かった。
少女は立ち上がり、自分の状態を確認する。
真っ赤なワンピースに真っ赤なパンプスは、少女が祖母から貰ったお気に入りだった。
汚れも傷もなく、何か乱暴をされたような様子も無かった。
ただ、パラパラと木の葉が落ち、少なくともそれなりの時間は、少女がこの場所で横たわっていた事が分かった。
靴の裏を見てみたが、今しがた立ち上がったばかりだったので既に汚れてしまっていた。
それでも汚れはまだ新しく、あまり長い時間土を踏んでいた訳ではないようだと少女は考えた。
さておかしい、これだけ頭が回るのに、どうしてこの場所にいる理由だけ分からないのか。
少女は腕を組んで首を捻ってみたが、一向に思い出せそうな気配もなければ、心当たりもまるで無かった。
仕方がないので覚えている限り新しい記憶を引っ張ってみる事にした。

少女はその日、祖母の家で親戚たちとパーティーの真っ最中だった。
パーティーと言っても豪華なものではなく、とてもこじんまりとした物である。
それでも、パーティーなど滅多にしたことがない少女にしてみれば、とても賑やかで楽しい物だった事を覚えている。
パーティーにはこのワンピースとパンプスで出席した。
赤に赤でとても目立っていたが、それでも、お気に入りの服と靴に身を包むのはとても心が踊った。
少女は見事な金髪をしていたから、それが尚更赤い衣装で映えるようで、それも嬉しかった。
少女の髪は毎朝、一番上の姉が梳いてくれるのだ。
最近の少女のお気に入りは三つ編みで、特に解いた後に出来る波打つ髪が、なんだかとても大人な気分にさせてくれたのだ。
その日もやはり三つ編みに結わえてもらって、赤いリボンで結わえた。
パーティーの途中で解いて、波打つ髪を靡かせ大人な気分の仲間入りをするつもりだった。
けれど食事の時は結わえている方が楽だったから、ローストターキーのオープンサンドを食べる間は我慢していた。
親戚の中で一番幼い従弟が赤い衣装をからかってきたので、ローストターキーを顔面に投げつけたやった事は覚えていた。
思い出して、少女は思わず肩を上下させて笑ってしまった。
もう一度思い出してみる。
ローストターキーを投げつけた後、案の定母親に怒られて、渋々従弟に謝った。
それから祖母と家政婦が丹精込めて育てているバラ園へと出て、それからの記憶がぷつりと途絶えている事に少女は首を傾げた。
その後も何度も記憶を引っ張りだそうと試みるのだが、やはりバラ園で記憶は途切れてしまっていた。
袖の手首のあたりを顔へと持ってくれば、鼻先を埋めて嗅いでみると、覚えのあるバラの香りがほんのりとわずかにだがした。
やはり、バラ園に行ったことは間違いないようだと少女は確信に満ちた。

然しバラ園からどうして、こんな空も見えない鬱蒼とした森にいるのか、少女は顔を顰めた。
何か他に手掛かりがないかと辺りを見渡すと、すぐ傍の大木にランプが成っていた。
ランプを差し込んだ訳ではないし、引っかかっているわけでもなく、本当に成っていたのだ。
まるで木の実のように、ランプが大木に成っていた。
ぼんやりとそれを見上げながら、このランプのお陰で自分は辺りや自分を見渡せたのだと少女は思った。
何故か驚いたりはせず、まるでそれが当たり前のように少女は受け入れてしまった。
自分でもそれが変だと理解しているのに、何故か驚けなかった。
冷静とも違う、当たり前さが、少女の中にあったのだ。
だから少女はなんの疑問も持たずに、便利そうだから、というだけの理由でそのランプを大木から詰んでみた。
明かりが消えてしまわないか心配ではあったが、幸い、ランプは大木から離れても変わらず煌々と辺りを照らしていた。
少女はほっとして、ランプを改めて右手に持って辺りへ翳し、改めてよく見てみる。
木々の隙間に、同じようにランプが成っているのが見えた。
それはまるで街頭のように一本の道になっているように少女は思えた。



―――さて、少女はどうするだろうか?


A) ランプを辿ってみる事にした。
B) 別の場所を探してみる事にした。
C) この場で待ってみる事にした。
―――少女はランプを辿ってみる事にした。

ランプは大木に木の実のように成っているのだから、人が作ったものではない。
となれば、ランプと人は繋がらない。
それでも少女がランプを辿ろうと思ったのは、単純に好奇心からだった。
寧ろ人と繋がらないと思ったからこそ、ならこのランプは何と繋がるのだろうという疑問が首を擡げてしまったのだ。
なんだかとっても危ない発想な気もしたけれど、少女は少し俯いてから、それでもすぐに歩き出した。

ランプはやはり道のように繋がっていた。
地面は他の場所と変わらないが、ランプだけが続くように伸びていた。
それを辿っている途中、少女はランプが一定の高さで成っている事に気づいた。
植物から、その一部みたいに生えているのに、決まった高さで生えているのだ。
自然のようで人工物のような、よく分からない感覚に少女は首を傾げた。
然し考えていても答えは勿論出ないので、少女はやはり歩き続けていた。
風景は変わらず、木々が深く生い茂る森でしかなく、変化はまるでない。
真っ直ぐ歩いているのか、くねくねと曲がりくねっているのかも、まるで分からなくなってきた。
そんな頃、ようやくひとつの変化が少女の目の前に訪れた。
否、正確には少女がその変化の傍へと訪れたのだ。

それは真っ白いワンピースに身を包みながら、袖から木の枝が絡みあうように伸び、頭部はランプで出来た何かだった。
ランプで出来た頭部にも木の枝が僅かに絡み、まるで髪の毛のように蔦が伸びていて、それはツインテールのように左右に流れていた。
木の枝が絡まって出来た四肢は大木を包み、煌々と辺りを照らす頭部は大木に添えられていた。
少女は一瞬、それはオブジェか何かだと思っていた。
だからほんの少し目を見開いて驚いただけで、悲鳴をあげたりはしなかった。
だが、少女が近づいた瞬間、その何かに包まれた大木からにょきにょきと小さなランプが生えた。
それは紛れも無く、少女が今も右手に持ち、そして辿ってきたランプだった。
どうやら、それがランプを大木に生やして回っていたらしいと少女はすぐに察した。
そして恐る恐るそれに近づくと、それはランプで出来た頭部を、くるりと向きを変えた。
ちょうど、顔を向けるように、少女の方へ。
「あら珍しい。見ない姿ね。」
そしてランプは鈴を転がすような可愛らしい声で、そう言った。
少女はぎょっと目を大きく見開いて肩を持ち上げ、体を強張らせた。
声も出ないほどに驚いたが、ぽっかりと空いた口が少女がどれだけ驚いたかを示していた。
だが、ランプはなんでもないようにその木の枝で出来た首を傾げた。
「……ああ、貴方、外の子なのね。」
少女は外、というのが何を指すのか分からなかったが、思わず首を何度も縦に振った。
それを見て、ランプは小さく頷いて、ややあってから大木から身を離した。
それから木の枝でささっとワンピースの皺を器用に伸ばしてから、明らかに指よりも多い木の枝でスカートの端を摘んだ。
「お初にお目にかかりますわ。わたくし、クヴィェチナといいますの。貴方のお名前を教えてくださっても、よろしくて?」
そして先程とは打って変わったような、大袈裟な口調で告げながらまた首を傾げた。
それがなんだかとてもとてもおかしくて、少女はきょとんと目を丸めた後、少しだけ笑ってしまった。
「笑うなんて失礼な子ね。外の子はみんなこうやって挨拶するんでしょ?」
クヴィェチナというランプの、恐らく少女だろう彼女は、そう告げながら少し頭部の光を強めた。
眩しくて思わず顔を両手で覆いながら、少女は首を左右に振った。
「……え?違うの?」
訝しむクヴィェチナの言葉に、少女は小さく頷いた。
クヴィェチナの光が少し柔らかくなったので、少女は手をおろして、皆が皆そういう挨拶をするのではない事を告げた。
それから、自分の名前と分かる範囲で自分がどうして此処にいるのかをクヴィェチナへ説明した。
「なるほど。エリシュカは私が生やしたランプを辿ってきたのね。」
少女、エリシュカは小さく頷いて、ふっと思い出したように手元のランプを見下ろした。
そして少しだけ悩んだ後、頭を下げて、クヴィェチナへ差し出した。
そして、勝手にランプを摘んでしまった事を謝罪し、それを彼女へ返そうとした。
クヴィェチナはそんなエリシュカを見て少し悩むように俯いた後、首を左右に振った。
明かりがぼやけ、長い蔦がぶんぶんと靡いた。
「ううん、良いわ。あげる。この森は、明かりがないと不便だから。」
クヴィェチナの頭部のランプがチカチカと瞬き、まるでそれが笑顔のように見えて、エリシュカは自然と笑みを浮かべて顔を上げた。
それから頷くと、改めてランプを自分の方へと寄せて、その明かりを見下ろした。
「ねぇ、これからどうするの?」
クヴィェチナの言葉に、エリシュカは―――


A) グヴィェチナに付いて行く事にした。
B) 帰り道を探しもう少し森を歩いてみる事にした。
C) どこか休めるところは無いかを聞いてみる事にした。
3, 2

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