山口くん
中学生にあったことの話をしていい?
俺、テニスしてて……、あ、テニスが直接話に関わることじゃないんだけどさ。
その、保健室登校してた、名前出していいっけ。ん、と、山口菜穂。小学校のとき家が近所で、登校の時によく会うから話すんだ。そいつの話なんだけどさ。
アイツ、保健室登校してるのは、毒された電波を受信したくないから。って言ってたんだ。
中学生の時も俺はその言葉が凄く魅力的に感じたんだ。山口は俺には見えない世界が見えるんだ。っていう期待? っつーものを感じちゃっててさ。
だから俺は毎日山口が登校する時間を見計らって家を出ていた。
山口は俺の期待に応えてくれるかのように、世界はつまらないとか、自分は死体を見たことがある……、自殺したことがある。っていう俺には見えない世界を嬉々として話してくれるんだ。俺はそれがすごく楽しかった。
でもさ。
山口の話す話題はだんだんつまらなくなった。
学校で俺を見かけたこと、話すか悩んだこと……。俺が望んでるのはそんな話じゃない。俺の見える世界なんて聞いてもつまらなかった。イライラした。
山口と俺の見える世界は同等のものになった時点で興味がなくなったんだ。
だから俺は山口と登校するのを止めた。
山口はついに学校に行かなくなった。
山口の顔すら俺は思い出せなくなった。
山口の声色も俺は思い出せなくなった。
山口は今なにをしているんだろう。と思って山口と仲の良かった女の知り合いから聞いたんだ。
山口は、死んだんだと笑いながら言っていた。その知らせを聞いた俺はどこかやっぱりなと思ってしまっていた。
でも、山口の話していた奇怪な話だけが残っているんだ……。