ワタシ、好きな相手がその時の気分で男性だったり女性だったりするでしょ?
だから、そのつど性転換手術を受けなきゃなんないワケ。
ちんこを切ってまんこを掘り、まんこを埋めてちんこを生やす、その繰り返し。
庭仕事みたいじゃない?
これまで何度その作業を繰り返したのか、ワタシはもう憶えてない。
センセイだって、キャラメル食べて取れちゃった歯の詰め物を直すみたいな手際で、ワタシの性別をカチカチとスイッチしていくわ。
お金さえあれば、性別なんて何度でも替えられる。
妙な感慨に耽ることはないの。
もう、とっくに子供じゃないんだから。
っていう。
そんな、記念すべき何回目か定かではない手術中だった。
場所は、繁華街の奥まった路地にある四階建てビルの三階、アニマ整形外科。
ちなみに一階と二階には箱ヘル、四階はよくわからない事務所が入ってる。
もちろんアニマ整形外科も他のテナントと同様、この国の法律を順守している形跡はない。
その代わり料金はリーズナブルだし、腕もそこそこ信頼できる。
……と、思ってた。
天井のやっすい蛍光灯の光をボンヤリ見つめていたら、ふいに、センセイの手が止まった。
ワタシの直感が、異常事態を察知したわ。
センセイはもう80超えた相当のジジイだけど、所作はロボットそのものよ。
早く、正確に、切って貼ってをこなしていく。
要するに、おじいちゃんロボットなの。
超高齢化社会でこれ以上高齢者を増やしてどうすんの? って、そういうロボットの必要性はともかく、ワタシは、ワタシの下半身を「工事」してるはずのセンセイに声をかけたわ。
「センセ? どうかした? ……もしかして、老衰ゴッコ?」
もちろん、センセイにそんな茶目っ気があるなら、ワタシ、センセイのことをより好きになってただろうし、もしかしたら愛人になってたかもしんない。
けど、どうやら悪い予感は的中したらしいわ。
……的中と、ワタシがいまタマタマを取り除いてることで、何かしらうまいことが言えればよかったのだけど。
「ねぇセンセ、もしかして電池、切れてる……?」
切れてたのは無論、「電池」じゃなくて「命」。
センセイは手術中に事切れていた。
さすがのロボットも、歳だってことね。
あーあ、やんなっちゃう。
とりあえずワタシは、性器のコンディションをチェックするため、スクラップ&ビルドの真っただ中にある性器に触れてみた。
直視する勇気は、なかったんだもん。
触ってみた感触としては、筒状のやわらかいブツは残っているけれども、その下の袋状のタマはきれいサッパリ取り除かれていて、代わりに中途半端な割れ目ができてる。
割れ目の中をチェックするために指をグイって差し込んだら、何かがスポッと抜ける感じがした。
あらっ?
私の直感が、チカチカと赤く点滅したわ。
それを裏付けるかのように、しばらくすると、手術台に接してるお尻に、生暖かい液体が触れた。
血だった。
ものすごい量の血。
それが、ワタシの開発途上の股間からドバドバ溢れ出している。
まるで月経のようね……なんて、シャレになんない量だけれども。
血を、どうにかして止めないといけない。でないと、死――そう思った矢先、麻酔がふいに切れた。
「……痛ったぁ!」
激痛。
よく、女の人は出産するとき、鼻の穴からスイカを出す痛みって言うじゃない?
断言してもいいけど、ワタシの方がぜったい勝ってるわ……!
そうやってかろうじて正気を保とうとするけど、血を失いすぎたせいで、目がかすむ。
世界が、遠くなっていく感覚。
もしかしてワタシ、ホントに死ぬのかしら?
だとしたら、滑稽ね。
こんな、男とも女とも呼べないあいまいな状態で。
ニュースには一体どう報道されるのかしら?
ぜひ見てみたかったわ……
まあ、でも、「薄汚い仕事」に身をやつしてるワタシの最期としては、そこそこ当然なのかもね。
ワタシが生をあきらめたその時、手術室のドアが勢いよく開く音がした。
「おじいちゃん!? あっ、エイトさん? うわっ血が……」
そこまで聞こえて、ワタシの意識は闇に沈んでいった……