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脚本家のねらい

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 平成二十八年初頭。カルト的人気を誇ったドラマ、「ミステリーA」のシリーズが数年ぶりに復活を遂げる事が発表された。
 新年に幸先の良い発表だとファン達は歓喜し、数日後には各地で集会も開かれたようだ。
 そして次々に明かされていく情報。放送期間は何クールだ、脚本家は誰だ、監督は引き続きあの人物だと、ファン達は情報解禁の度に、舞い上がり、至福の時になるであろう約3か月の放送期間に想いを寄せていた。
 満を持して同年秋、いよいよ放送が開始された。
 初回の評価は少々の難点はあったものの、今後の展開を大いに期待させるもので、ファンの熱気は最高潮に達した。
 しかし、その熱気もそこまでがピークで、回が進むにつれて、徐々に賛否両論的な意見が増えていく。放送が中盤にもなると、ファンの間やネットの掲示板では批判で埋め尽くされていた。
 ファンの一人によると、とにかく脚本家が悪い。長年、この作品に携わる脚本家である筈なのに何故、このような質の低い脚本になっているのか。もしかすると作品への愛が失われたのではないか。とのことだった。
 都市圏では、脚本家を標的に絞りストライキまで起こったのだ。
 最初は歓喜に満ちていたファン達も、今では完全に暴徒と成れ果てていた。
 そして、事件は起きた。
 ある一人のファン、否。暴徒によって脚本家宅が襲撃されたのだ。



 A刑務所。
 佐藤が投獄されてから、数時間。
「あんた、脚本家殺しだろ?」
 施設内は消灯し、床に伏した時、部屋の同居人が声をかけてきた。
「なんで知ってる?」
「刑務所内には俺も含めて、数人、「ミステリーA」のファンがいて、噂になってる。当然牢獄の中だから、最新作は見れてないんだけどな。だけど、お前のせいで、更なる新作は期待できないわけだ」
「いや、どの道、あの内容では今回で打ち切りだよ」
「そうかい。まあ新作を楽しみにしてるよ」
 佐藤は小さく焦りを感じた。よもや気づいたのではないだろうか。そんな予感に襲われ、一応探りを入れてみるべきか、葛藤が生じる。
「ところでさ」
「何だ?」
「いや、やっぱりいい」
 この様子だと、恐らく気づいていないだろう。気づいているなら、素手に何らかの行動を取っている筈。そう気づき、彼は同居人に対する追及を辞めた。
 まったく、焦らせやがって。何が作品のファンだ、ふざけたことを。佐藤は次第に怒りに包まれていく。このままではいけない。行動は早いほど良いと思い、今日中に行動すると決心した。



 数時間後。部屋のドアノブにシーツを括りつけ、首を吊った佐藤の遺体が発見された。同居人に気づかれぬよう、声を殺すために噛んだ舌は千切れかかっていた。



 ミステリーA 第2シーズン 第11話 脚本家殺し (平成十九年放送) 
 あらすじ
 人気ドラマ「ミステリーB」の脚本家が遺体で発見される。
 犯人はドラマの質の低下に憤怒したファンであった。そしてラスト、犯人は牢獄で首を吊り自害するのだった。
 余談だが作中作である「ミステリーB」にも、怒るファンに脚本家が殺されるエピソードがあるらしい。ということは、そのエピソードで殺害された脚本家の作品にも脚本家が犠牲になる作品があるかもしれない。
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