第八話 賓客達のそれぞれ 《夜の部》
「ほおー、なるほどなぁ。人外共が我が物面で横行してるってこた、やっぱ外はそこそこ物騒ってことか」
「ここに比べればどこだって物騒だろうけどな」
国王にして城主、イクスエキナに連れられて再び王城に戻った守羽と静音に対し振る舞われたのは数々の珍味と、大きな酒樽。
つまるところ酒盛りだった。
「んで、どうだった?お前のこれまでの経験で一番強かったのはどこのどいつよ」
「どう考えても大鬼だ、もう一度闘っても勝てる気がしない」
「そうかそうか!確かに鬼性種は純粋な戦闘能力に秀でた怪物が多いってのは有名な話だ、一騎打ちで勝ったお前も大概だがな!」
妖精界に住まう者達は一部を除いて外の世界を知らない。それはこの世界の構築・維持を保ち続けている妖精王とて例外ではなかった。
いきなり二人で部屋に待機させられたかと思えばすぐさまに酒樽を肩に担いで扉を蹴り開けたイクスエキナの目的とは、ようするにただの歓談だったというだけの話。
ぐいぐいと杯を押し付けて来るイクスエキナの誘いに、そんな場合じゃない未成年だ明日には敵になる相手だぞと断り続けた守羽がついには頭を押さえ付けられ強引に一杯喉に流し込まれた時点で色々と諦めるに至った。
意外だったのは静音がなんの躊躇いもなく酒杯に口を付けていたこと。こと優等生たる彼女にとっては二十歳に満たない身での飲酒など御法度ではないかと考えていたのだが、
「ここは人の世界じゃないからね。郷に入っては郷に従え、とも言うし。それに美味しいよ?これ」
とのことで、想像以上に適応力の高かった静音の態度に妙な感銘を受けてしまい、守羽も(突然のことで渋々ではあったが)妖精王の酌に付き合うことにしたのだった。
そもそも鬼神酒呑童子との間で既に一献交えている過去がある手前、飲酒自体に抵抗のある守羽でもなかった。
そうして酒盛りを開始したのが今から三十分ほど前のことで。
「ああーー!!ちょっとおかしいですからイクス!!守羽さま達には夕餉にたくさん御馳走を食べてもらおうと思ってたのになにお酒と珍味で懐柔しようとしてるんですか!?」
裏切られたかのような表情を浮かべ、扉を叩き壊す勢いで開いたルルナテューリが当然のように自前の杯を片手に参加したのが十分前のことである。
「それで、学校での守羽さまはどんなご様子ですか?お友達はたくさんいますか?勉学に励んでおられますか?楽しくやっていますか?」
「……えっと」
半分ほど減らした杯を両手で握り、守羽の人間界での様子を何故か当人ではなく静音へと訊ねるルルナにどう返答したものかと逡巡を見せる。
せわしなくこちら側へ視線を送る守羽は、しかしイクスに捕まり二人の会話を遮ることが出来ないでいた。必至にアイコンタクトで『うまいこと言っといてください』と送る。
「私は学年が違うのでずっと一緒にいられるわけではないですけど、学校での生活は問題なく送れている、と思います。勉強も頑張っていますし、分からなければ私が出来る範囲で教えてあげられますので…」
「ほほう!そうですかそうですかっ。やはりお二人はもうそういう関係なのですね、私とっても安心しましたから!それで、守羽さまと静音さまは普段どのようにお過ごしで?」
「ちょっとルルさんその話題一旦打ち切ってもらっていいですかね!?」
タァンと酒杯をテーブルに置いて立ち上がりかけた守羽の肩が、巌のようなゴツイ手に押さえ込まれる。
「オイ待てや守羽、こっちの話はまだ途中だろうが」
「離せイクスエキナ今それどころじゃねぇ!」
三者面談で教師に日々の生活を赤裸々に語られるに等しい恥辱、なんとしてもここらで止めねばならない。
指が食い込むほどの握力で鷲掴むイクスを引き剥がそうと〝倍加〟を巡らせたとき、再び扉が激しい勢いで開け放たれた。三度目にして扉の蝶番が乱暴に抗議するような軋む。
今度の来客は複数人だった。
「ちぃぃーっす!!なんかここにいるって聞いたから来た!…えっ何、もう飯?」
「なんだよ酒宴するんならもっと早くに呼べってんだ。外ブラついてる意味なかったじゃねえかよ」
「いい匂い!にゃにそれおいしそう!」
「歩き回って疲れてたからちょうどいいわね、私らも混ざっても?」
一応確認した音々はまだ良識のある方だった。他三名に関しては勝手に椅子を引っ張り出して席を確保しようとしていた。
「途中参加者はそれぞれ一発芸を披露してからじゃねえと飲食禁止だぞ」
(なにそれ、そんなルールあったの?)
ごっきゅごっきゅと杯を干すイクスエキナが上機嫌にそんなことを言うものだから、真っ先に反応を返すのはやはりこの男しかおらず。
「よっしゃ見とけ!はーい今からこの酒樽の中身全部飲み干して〝再生〟でアルコール全分解してから山手線の駅名全部言いまーす!」
「分解するなら飲み干す意味なくない?」
相変わらず素面で酔っ払いのような奴である。しかも悪ノリする面子がここには揃っていた。
「はーい!じゃあそのユイをあたしが風で舞い上げまーっす♪」
「じゃあバックミュージックで私が歌いなおかつ一人で三重の伴奏を唄いまーす」
「おいなんかえらいことになってきたぞイクスエキナ」
「まあ面白いから可で」
引っ繰り返した酒樽の中身がシェリアの風で浮き上がり、螺旋を描きながら同じく天井近くまで風で浮遊していた由音の口元へ流し込まれて行く。そんな光景を人外特有の凄まじいボイスパフォーマンスで音々が盛り上げていた。確かに芸として見ればとんでもない高等技であることは間違いない。
「……、!」
それを唯一参加せず腕組みをして見上げていたアルが、ふと最高の思い付きをしたとばかりに指を打ち鳴らし腰を落とす。
「なるほどなぁ!そして仕上げに俺が〝|劫焦炎剣《レーヴァテイン》〟でこの螺旋に浮く酒に着火!炎の大渦を生み出して完成と!」
「待て待てアルこの馬鹿!!」
「それはマジで危険だから絶対やめろよ、いいな絶対やるなよ?」
「振るなボケぇ!!」
やめろと言いつつも笑っていたイクスエキナを含め、本気で止めようとしていたのは守羽だけのようだった。ルルナテューリはむしろ着火を期待していたようにわくわくした様子で見ていたし、静音は〝復元〟で戻せばいいよと軽い調子だった。
今思えばあの時点でだいぶ部屋に酒気が充満していたのだろう。酒を飲んでいないシェリアの顔まで赤らんでいたのだから気付くべきだった。…たとえ気付いていたとしても、この面子の中で守羽一人では何を止められたことも無かったろうが。
結局、この酒盛りは騒ぎを聞きつけてやって来た(ブチ切れの)近衛騎士によってお開きとされるまで続いた。
「…と、まぁふざけるのはここまでにしといてだ」
「ふざけてたのはお前らだけだろ…」
酒盛りのせいで腹が膨れ、夕餉は流れてしまった。確かにあそこからさらに飲み食いできるだけの空きは無かったから助かったといえば助かったのだが。
「それで?わざわざ俺だけを連れて何の話だ?ってかこっちが本命だったろ」
今守羽は妖精王の後ろをついて歩きながら王城の地下へ向かっている。他の面子はそれぞれ酔い潰れたり夜風に当たったりと、思い思いに過ごしているだろう。
守羽と妖精王の二人がどこかへ向かうのは皆見ていたはずだが、何も言わなかったのは気を利かせたからだろうか。
「ふふん、バレてたか。なに、せっかくだからお前に少し手伝ってもらいたいことがあってな」
下へ下へと続く螺旋階段。等間隔に灯された蝋燭で視界は確保されているが、いつまでたっても終着点は見えない。とっくに四階分ほどは下りたはずだが。
「…俺に?なんで」
「お前じゃなきゃ駄目だからだ。というか、ここに住む妖精じゃあな」
わざわざ守羽を名指しにするからにはそれなりの理由があるはず。妖精に出来なくて守羽に出来ること。
予想は実際に目の当たりにしてみるまでは口にしないことにした。
「昔々の話だ。俺が生まれるよりもずっと前の」
黙る守羽の代わりに妖精王の語りが沈黙を埋める。
「まだこの世界の構築が磐石とは言えなかった頃。この具現界域に一体の怪物が現れた。そいつはとんでもない力で世界を蹂躙した。その力はおそらく、神格に達するクラスだったそうだ」
「……」
「まだ残存していた手練れを集め、すんでのところで妖精界が滅ぼされる前に怪物を退治することは出来た。だが完全に殺し切るには至らなかった。神と呼称される存在は、同種の存在かそれに準ずる力、比肩する能力でなければ殺せない。お前がやったみたいにな」
守羽は『神門』の力で鬼神を撃破した。あれは確かに、妖精と退魔師の混血であるだけの自分では到底倒せる敵ではなかった。
「だから封じた。外に放り出して復活されるのを恐れたんだろうな、見える範囲で封殺し続ける選択を当時の連中はした。……この国の周囲に建ってるでっけえ六角の柱は見ただろ?」
「ああ」
水晶にも似た薄翠色の柱。それが城壁に隣接して八つほど囲っていた光景は初めに強く守羽達の目を引いていたからよく覚えている。
「|拒魔《こま》晶石つってな。金行の大精霊と協力して生み出した、文字通り魔を拒む特殊な結晶なんだよ。元々は怪物を封殺する為に創られたモンらしい。これのおかげで外部からの侵略はかなり制限される。…半魔半妖のアルや悪霊憑きの東雲由音にとってはマイナスでしかないだろうがな」
語る最中に階段は終わり、その先には半球状に地中を刳り抜いて整地されたような空間が広がっていた。中心から半径二百メートル程度、といったところか。
そしてその中央には巨大なクリスタルが鎮座していた。
「んで、コイツがその怪物だ」
天井まで十メートルはあろうかというそのすれすれまで伸びた大きな拒魔晶石をルーンの刻まれた一回り小さな晶石が四つ囲い、さらにその外側を四つのまた別種の術式が込められた晶石に囲まれている。
最終的に外周を沿うように展開された六芒星の円陣が描かれ、その頂点にもまた六つ、石が据えられていた。
完全なる封縛結界。強度と緻密さで言えば守羽が大鬼を縛り上げた五行の大結界より上かもしれない。
巨大な拒魔晶石の内側に封ぜられた者。これだけ大仰な結界を施すに足る相手なのか怪しくなるほどに小さなそれ。
「…鴉?」
羽を畳んだ黒鳥が、瞳を閉じた状態で閉じ込められているのを見た守羽の一言に隣の妖精王は軽く頷く。
「見た目はな。だが気を付けろ、これだけ封印を重ねてもまだ瘴気が漏れ出てきやがる。まあお前なら退魔の血筋で抵抗できてるはずだが」
確かに肌に感じる不愉快な感覚は瘴気と呼ぶに値する。只の人間であれば数分留まるだけで発狂する程の濃度が立ち込めている。
「…殺せるか?お前の力で」
やはりか、と思う。
神門守羽は妖精と退魔師の混血、そして龍脈を通じて神に並ぶ力を手に出来る。守羽個人を名指して呼ぶとなれば、その辺りだろうとは考えていた。
しかしこの黒鳥は。
「……魔神種、ってやつだよな」
神話に記載されるクラスの強大な力を持った人外。幾分本来の力を削がれ封ぜられていたとしても、守羽にはこれが殺せるものだとは思えなかった。
「理由はいくつかあるけど、この妖精界この場所で、ってんならかなり難しい」
「やっぱな、そうか」
妖精王もある程度その返答は予想していたらしい。肩を竦めて踵を返す。
「ならいい、帰るぞ」
「これどうすんだよ、ずっとこのままか?」
やけにあっさりとした態度に拍子抜けしつつあとを追う。
「人の世界の古臭い部族にはな、殺した凶悪な動物の頭骨やら生首やらを村の外柵に括って晒す連中がいるんだと。それによって他の動物はビビッて村を襲わなくなる、まあ信憑性は推して知るべしってとこだが」
何をいきなり、とは思わなかった。妖精王の言葉の裏にある意図を察し、守羽はとりあえず形だけの納得を示す。
魔神がやられた。その証拠を晒す。これで妖精界においそれと手出しする輩は激減する。
単純明快な理屈と結果だ。
もとより妖精王イクスエキナにとってはどちらでも良かったのだろう。どちらに転ぶにせよ、メリットとデメリットは同程度。
魔神を殺せれば妖精界全体の危機は抹消されるが、外部からの侵略懸念が増大する。
魔神を殺せなければこれまで通り。内部に不発弾を抱えたまま外部への抑止として働かせる。
「んじゃなんで俺をここに連れて来たんだっての」
話だけなら上でもよかった。わざわざ実物を見せる意味があったようには思えない。
「それは」
上への階段を昇る妖精王の背中から聞こえた声は中途で止められる。少しの間を置いて、からかうような声色に変わり、
「……気が向いたら話してやるよ」
「なんだそりゃ」
脱力する。
そうして、気味の悪いものを目の当たりにした守羽は酒の残る頭を抱えて床につく―――ことは無かった。
想像する。
この眼下に見える一面の花畑が煌々と燃ゆる焼け野原と化す様を。積み上げられた煉瓦の家々が崩れ落ちて行く光景を。
妖精の世界が滅ぼされて行く、その横行を。
これから自らが行おうとしている行為を、東雲由音は宵闇の先に視る。
「…シェリアは、もう寝た?」
城の外壁端に腰掛けた、そんな彼の背中へと、静音はゆっくりと歩み寄る。
「ああ、センパイ。なんか酒の気に当てられちまったみたいで、ベッドまで持ってきました」
寸前までの表情と感情をおくびにも出さず、由音は軽い笑みと共に隣に立った戦友にして先輩の少女を見上げる。
「静音センパイはまだ寝ないんすか?」
「うん。もうちょっと、夜のこの世界を見ておきたくて。……明日、明後日には、もう維持されているか分からないものだから」
それは自分達のこれから行うものによって、とまでは言葉に出来ず。
両者、共に覚悟は出来ていた。覚悟を決めた上でこの地へ赴いた。
ただ予想外だったのが、この世界の主に迎え入れられ猶予を与えられたこと。これにより固めた覚悟が揺らぐことは無い。無いが、僅かばかり生まれた思考がどうしても世界への憂慮を考えてしまう。
「センパイ。センパイはさぁ」
だから由音はこれを好機と捉えた。
どうせ使い道に渋る時間なのなら、もっと有意義に使うべきだ。
互いに同じ相手へと抱く親愛の情。その根源を知る良い機会であると。
「なんで、守羽にそこまで肩入れするんすか?」
この閉鎖的な平穏を堅固する世界に波乱を巻き起こしてまでの理由。それは同じ仲間として、ずっと抱きながら聞きそびれていた興味。
こんな状況下での急な問い掛け。ともすれば猜疑心とも受け取られかねないその質問に、しかし静音は安堵を覚えていた。
全てを賭してでも守羽と共に往く道を選んだことに対する理由と疑問を問われないことに対しての不安があった。自分を仲間だと、同士だと認めてくれていないのではないかと感じていた。
待ち侘びていたわけではないけれど、いずれは応えたいと思っていたこと。静音は真摯にその問いへ応じる。
「…私は、前にね。鬼に襲われたことがあるの。大鬼…酒呑童子と同じ鬼性種の傑物に、私は異能を宿す身として供物に選ばれた」
ほとんど同時期に邂逅を果たし、そして彼の言葉で顔を上げることの出来た過去を語る。
「守羽に助けてもらったんだよ。鬼に殺されかけて、それでも彼は私の為に闘ってくれた。……〝復元〟を目の前で見た大勢に『魔女』と謗られた私の力を好きだと言ってくれた、誇れと言ってくれた」
心と体を救われた。そういう意味では由音と同じなのかもしれない。自らの異能の力に戸惑い続けていた静音に守羽は正答を示した。
それに責任も後押しした。『鬼殺し』と呼ばれ数々の人外に襲われる切っ掛けとなったこの事件の中心にいた関係者として、彼を支える義務があった。
「だから私はもう戸惑わないと決めた。今度は私が守羽の力になると誓った。…言葉だけならなんとでも言えるし説得力もないだろうけど、嘘は無いよ。これが私が此処にいる理由」
「なるほど!」
疑う余地がどこにあろうか。
異界の地にまで踏み込んで、今更何を嘘とするものがあるか。
初めから知っていた。ずっと解っていた。
久遠静音が信用に足る人物だということは。
聞きたかっただけ。
仲間として共に在る者として、一度は訊ねる必要性に駆られただけのこと。
「俺も同じっす!悪霊に呑まれて〝再生〟が暴走した時、あいつに助けられた。関係なかったのに、知らないフリしてりゃよかったのに、あいつはそうしなかった。だから俺もこの恩義を一生かけてでも返したい!あいつの行く道を一緒に歩きたい、だから!」
願いは同じ。
同じ将を仰ぎ、肩を並べ背中を合わせ腹を割って足並みを揃える友、仲間。
改めて再認識し、立ち上がった由音が右手を差し出す。
「よろしくおなっしゃす!同じ道を歩く為に、守羽にはセンパイが必要なんで!」
「―――…!」
「岩だらけの荒れた道なら俺が蹴散らして歩きやすくします。それでもあいつがこけそうになったら、そしたら静音センパイが支えてやってください!そういう役割分担っ」
そうあることが当たり前のように、自身が過酷な役を請け負って、由音は笑ってみせる。
だけど静音はそんな提案に納得することは出来なくて、差し出された手を左手で取って視線を受け止める。
「半分は賛成だよ。もう半分は、反対」
「…うんっ!?えっどれ?何がです?」
「彼を支えよう、一緒に頑張ろう。だからやるなら私もだよ。君にだけ荒事を丸投げするなんて、共に往く者としてありえない」
確かにこと戦闘という面において静音は二人に未だ到底及ばない。でもそれは楽な役割を取る言い訳に出来ない、したくない。
「私の力だって侮れないよ?君ほどじゃないにしても、囮くらいなら果たせるんだから」
〝復元〟は消し飛んだ肉体とて元通りにさせる、〝再生〟に並ぶ破格の性能。由音ほどの無茶苦茶は不可能だとしても、ある程度は負担できよう。
「仲間だと認めてくれるなら、気遣いは不要だよ。届かないなら、届かせる。理屈や道理を超えるのが異能の力なんだから、使い手として最大限利用して、私は君達に並ぶ」
事実、守羽と由音の二人はそうして闘い抜いてきた。同じ異能力者として、それこそ言い訳は通じない。
「へへっ!流石は静音センパイ!そうこなくっちゃな!」
握り合う手に一層の力を込めて、さらに由音は大笑する。城の中にまで響きかねない笑い声が、影に隠れる少年の耳に届いていることにも気付かず。
(…………んなもん聞いちまったら、もう弱音の一つ溢すのも躊躇っちまうじゃねぇか)
城内に姿を見かけなかった二人を探して上って来た守羽は、結局何も口にすることもなく中へと引っ込んだ。
胸に檄と責を刻み、今度こそ守羽を含む皆は床に就く。