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ベリアル 第一戦 その①

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 一応臨戦態勢をとるアリス
 その姿を見てクライシスは言った。
 「今日から君は、混沌と無価値の名を持つベリアルの堕天使を背負った魔法少女だ」
 「全然、うれしくないね」


 特に何の感傷もなくそう呟く。
 その時、気が付いた。
 自分の周りも人が集まってきている。
 「なんだ、こいつも変身したぞ」
 「悪役、この子。 真っ黒ね」
 「なんだ、クオリティー低いなー」
 「気持ち悪」


 アリスは冷たい目を向ける。
 あたりに集まっている人は十人程度、ほとんどの人は無視して通り過ぎるか、写メだけ撮ってどこかへと消えていく。
 うっとうしいと思ったものの、大して興味が湧かなかったので、無視することした。
 その時、
 向こう側の少女が動きを見せた。


 地面を蹴り、宙に飛びあがる。 大斧を構え、こちらに向かってくる。 地面を蹴った時にアスファルトに大きなひびが入り、その衝撃でギャラリーが吹き飛ばされたがそんなこと気にしてはいけない。
 アリスは一旦敵にだけ集中すると、剣を少し大きめに変化させる。 敵の大斧のサイズを見る限り、今のサイズでは押し負ける可能性がある。 敵の能力が分からない今、最初にこちらのペースにもっていかないと厳しそうだった。
 敵の少女が宙をきり、こちらまでくるのに二秒もかからなかった。
 その短い間にアリスは剣を構えると、襲撃に備える。
 少女は高度を下げ、アリスに向かって飛ぶと、振りかぶった大斧をアリスの脳天に向かって振り下ろした。 予想通りの攻撃に、アリスは少し拍子抜けしつつも剣を頭上に構え、少女の大斧を受けきる。


 ガキンッ!! 
 そんな鈍い音が響き渡る。 剣を握る腕に鈍い衝撃が襲ってくる。 腕が少ししびれるが、それ以上は特になかった。 どうやらパワーは互角らしい。 敵の少女も少し顔をしかめていた。

 突然戦いを始めたアリスたちを見て、ギャラリーたちは盛り上がり始めた。
 どうやら特撮映画の撮影だと思っているらしい。 少し距離をとりつつも、携帯を取り出すと、カメラを向けて歓声を上げつつ動画を撮ったり写真を撮ったりツイッターだか何かに呟いたりしていた。
 「……………」
 「―――ッ!!」
 このまま不安定な姿勢で鍔迫り合いをしていても不利になるだけだと悟ったらしい。 敵は再び宙を舞い、一回転しながら車道に降り立つと、大斧を構え直し、アリスと相対する。
 アリスもそれを合わせるように剣の先を向けると、用心深く敵を見る。
 
 と、その時
 アリスは誰かに話しかけられるのを感じた。
 「ねぇねぇ」
 「…………」
 「君、なんていうの?」
 「…………」
 「ね、何て名前の女優? 見たことない顔だなぁ、新人?」
 「…………」
 「さっきのどうやったの? 教えてよ、ねぇ」
 「…………」


 いったい誰が話しかけてきているのか、少し気になったが注意を背けるわけにはいかない。 あちらも殺気をビンビンに放っている。 下手をするとあっさり殺されてしまうかもしれない。
 それぐらい、真剣だった。
 しかし、周囲はそんな二人を馬鹿にするかの如く、くだらない反応ばかりを返していた。

 例えば、敵の少女は車道に降りているせいか車の邪魔になっているらしく。 彼女のせいで動きを止めざるを得なくなった車がクラックションを鳴らして少女に向かって文句を言って行った。
 そして、アリスに話しかける男も黙る気配を見せなかった。
 「ねぇ、いい加減返事してよ」
 「…………」
 「ここまでしても誰も来ないってことはコスプレか何か? それともそういう演出? ねぇ、教えてよ」

 それと同時に、車道の方でも動きがあった。
 どうやら一番先頭の車の運転手が業を煮やしたらしい。 車から降りると、少女に向かって文句を言いに行っていた。 ここからではクラックションの音のせいでうまく聞き取れないが、相手のおっさんは相当いらだっているようだった。
 ふと気が付くと、敵の少女もいらだっているのが分かった。
 大斧をわずかに下げると、こちらに向ける視線が揺れている。

 アリスも同じようになっているのだろう。 警戒しつつも、剣の先を少女からずらした。
 「おいこら、お前、無視するなよ」
 グイッと肩をつかまれる感覚
 視界が強制的に話しかけてくる男の方を向くこととなる。 
 その一瞬、視界の隅で敵の少女が文句を言いに来たおっさんに小突かれているところが見えた。
 そこで、二人の堪忍袋の緒が同時に切れた。

 アリスは振り返りざまに、剣先を何の躊躇もなく、話しかけてくる男の腹部に突き立てた。
 「え?」
 「……死ね……」
少し刀身が長かったせいで刺しにくかったが、うまいこと言った。 アリスは剣を突き立ててから男の顔を見た。
 典型的なオタク系の男だった。
 目と目が合ったのは一瞬のこと
 次の瞬間に、男は腹部にできた傷から血液を噴出させ始めた。 すぐに死に至らないようで、アリスはとどめと言わんばかりに剣を少し動かすと、縦にまっすぐ男の腹部に大きな傷を入れた。
 そして、剣を引き抜く。


 すると、血が一気に噴き出した。
 「グホォッ!!」
 「……フンッ……」
 即死、とまではいかなかったらしい。 男は腹部と口から汚らしい血を吐き出しつつも、ゆっくりと地面に転がり落ちた。 どうやら、膀胱が緩んだのか、男は小便を漏らしていた。 その黄色の液体がどす黒い血液と混ざり合って、何とも言えない色合いを醸し出す。
 ドサリと倒れたその体が、アリスの左足と被る。
 「…………」


 それが何とも不愉快だったので、アリスは瀕死の男を蹴り上げると、ギャラリーの群がっているところに向かって飛ばした。
 ビクンビクンと痙攣しつつ、その男はゆっくりと死に向かって行った。
 一方で、ギャラリーは大混乱だった。
 はじめ、アリスが剣を刺したところまでは誰も何が起きているのか気が付いていなかった。 しかし、男が崩れ落ち、その体が自分たちに向かってくるところを見ると、一気に騒がしくなった。
 だが、その騒がしさはさっきまでの物とは全く違う。
 恐怖によるものだった。


 「きゃああああああああああ!!!!」
 「うわ、うあっわぁぁぁぁぁあぁぁぁx」
 「嘘でしょ………これ……」
 「ひ!! 人殺しぃ!!」


 沸き起こる喧噪
 それを聞いてアリスは一言
 「うるさいな…………」


 そういえば、と、アリスはあることを思い出した。
 クライシスが魔導光弾と呼ぶ技、それをまだ使っていなかった。 どんな技なのか見当はつくものの、一度使ってみても損はないだろう。 幸いなことに狙い撃てる的は周囲に腐るほどあった。
 どうやら衆人観衆どもは美味いこと現実を受け入れることができていないらしい。 人一人が死んだというのに、やっぱり写メを撮ったり携帯をいじくっていたり、目の前で起きたことだというのに完全に対岸の火事だと思っているらしかった。


 アリスはおもむろに腕を上げるとクライシスに尋ねた。
 「ねぇ、魔導光弾ってどうやって撃つの?」
 「簡単さ、掌に力を込める。 すると光弾が生み出されるはずだ、後はそれに発射命令を下すだけ」
 「分かった、やってみる」
 「……どこに撃つつもり?」
 「人」
 「……好きにしたらいいさ」


 クライシスは興味なさげにそう呟く。
 元からそのつもりだったアリスは、クライシスの言う通りにして掌に魔導光弾を顕現させる。 それはドス黒い色をしていた、うっすらと赤が混じっていることから、血のように見えなくもなかったが、なかなかおぞましいものだった。
 しかし、アリスは見た目など気にしない。
 問題はその威力だ。
 アリスは一番近くにいて、ぎこちない物の笑顔を浮かべながら死体の写真を撮っている女に狙いを付けた。 年がいくつだとか興味ない。 ただ、何となくだった。
 女は狙いをつけられていることに気が付かない。


 アリスは容赦しなかった。
 「…………」
 アリスは魔導光弾を撃ちだした。
 するとそれはあっという間に女に命中。 着弾点を中心に爆発四散し、女の体の四分の三が吹き飛んだ。
 あえてそれを何かで表現するとしたら、汚い花火という言い方が一番しっくりくるように思えた。
 爆発の勢いで内臓までもが細切れになり、辺り一面に真っ赤な雨として降り注ぐ。 もっと内蔵やら何やらが噴き出ると思っていたのだが、少し予想外だった。 と、突然視界が真っ赤に染まる。
 「……なにこれ」


 顔に何かが乗っかっているらしい。 開いている左手でそれをのけてみる。
 すると、それは薄く広がった肉片だった。 皮膚か何かだろうか、皮膚編だけでそれが何かわかるほどアリスは博識ではない。 
 アリスは頬に手を当ててみる。
 すると、何かネチョリという感触がした。
 どうやらさっきの肉片のせいで顔の半分ほどが血で汚れてしまったらしい。 少し不快に感じるも、面倒なので拭き取ったりしない。 そのまま顔全体がゆっくりと真っ赤に染まっていく。



12, 11

  

 びっくりするぐらい冷静なアリスと対照的に、衆人観衆どもはパニックに陥った。
 言葉にならない言葉をわめきつつ、血売り尻になって逃げてゆく。 どうやら、いい加減現状が理解できたらしい。 自分にすぐ隣で死が潜んでいる。
 どうやら死が怖くて逃げだしたらしい。


 アリスはふと、逃げて行く人々を追いかけて惨殺しまくったら楽しいだろうなー、と思ったものの、やめることにした。
 今、優先すべきは殺人ではない。
 「……あっちも終わったみたい」
 首を回し、敵の魔法少女の方を見る。
 するとその少女も、自分に突っかかって来たおじさんを大斧で殺し終え、こちらに向かってきているようだった。 どうやら相当暴れたらしい。 車道には切り刻まれた車や、二~三人ほどの死体があった。


ずるずると大斧を引きずりつつ、ゆっくりと歩を進めてくる。 今、半径数百m以内にはこの二人にしかいなかった。
 アリスも剣を肩にかけつつ、近づいてく。
 二人の距離がゆっくりと詰まっていく。
 ある一定距離まで近づいたところで、敵の少女が話しかけてきた。
 「あなた、名前は?」
 「……………」
 「早く答えなよ」
 「……どうして…答えなきゃいけないの?」
 「私の名前はアオキレンゲ。 あなたは?」
 「あなたが答えたからって、何?」


 アリスは冷たくそう言い放つと、左手の先をレンゲと名乗る少女に向けて、魔導光弾を顕現し、発射する。 それは宙をきり、まっすぐ飛んでいく。
 それを見たレンゲは大斧を振りかざすと、魔導光弾を弾き飛ばす。 それで直撃は避けるも、一瞬のちに大爆発を起こす。
 アリスはその隙に地面を蹴って空中浮遊能力を使い、地面すれすれを飛んでいく。 武装変化能力を使用し、剣をより鋭く、シャープなものへと変化させる。 力では互角なので、手数で勝負することにしたのだ。
 レンゲはそれに気が付くと、意趣返しとでも言いたげに左手を向け、魔導光弾を発射する。
 直撃を食らってはまずいので、アリスは左から回り込むように移動し、光弾をかわしつつ攻撃を仕掛けることにする。 
 最高速度で一気に接近し、剣を振るうとレンゲの首を狙って突きを繰り出す。
 それを予想したレンゲは、冷静に大斧を振るい攻撃を受けた。
 アリスは次の瞬間、一歩下がったのちに地面を蹴ると飛び上がり、レンゲの頭上を越えて向こう側に着地する。
 そして、急いで振り返り、レンゲの方を向くと剣の先を向ける。


 その動きはレンゲの予想を超えていたらしい。
 顔に焦りの表情が浮かぶ。
 「死ね」
 アリスは冷たくそう言い放つと、再び剣を突き出す。 今度は頭に向かって。
 しかし、レンゲの方が上手だった。
 アリスが振り返る間、とっさに左手をかざすとそこでアリスの剣を受け、頭への直撃を避けた。 ずぶりと心地よい感覚が伝わってくる。 どうやらうまいこと骨の隙間を突き抜けたらしく、変に突っかかることはなかった。


 刀身を血液を伝ってくる。 剣が真っ赤に染まっていく。
 どうやら苦痛までを制御できているわけではないらしい。 レンゲは苦しげな声を上げ始めた。
 「アグゥゥッ」
 「……痛い?」
 「……ウゥ……ウガァッ!!!」
 レンゲは左足を振り上げると思いっきりアリスの下腹部を蹴り上げた。 
 ドスッと鈍い感覚が襲ってきて、少し吐き気を催してしまう。
 「――ッ!!」
 しかも、アリスはその勢いに押されて数歩下がる。 剣もそのせいで抜けてしまう。 アリスは体勢を立て直すともう一度攻撃を仕掛けようと試みる。


 その時、
 ゾクリという嫌な感覚が襲ってきた。
 そのせいで、一瞬躊躇してしまうアリス
 レンゲはその隙に宙を舞い、後ろに下がると数十m距離をとる。
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