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激昂

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 宝樹が完全に地面に落ちるその前にアリスは腕をかざすと宝樹の生首に魔力をまとわせ、命令を飛ばす。
 「『私のもとに来い』」
 命令に従い、宝樹の生首がアリスの手元にやってくる。
 アリスはその髪を掴むとそのままぶらりと生首をたらす。 そして腕を上げると今度は宝樹の死に顔と対面する。
 口の端から一滴の血を流し、見事な切断面からは骨の端も見えず、だらだらと血とそこそこの量の血が流れていった。 目は焦点が合わず、ボーッとどこかを見ていた。 自分のことを馬鹿にして蔑んでいた奴がこんな哀れな目にあっている。
 アリスは完全に修復した左腕を上げ、指を伸ばすと宝樹の頬を指で突く。
 プニッとした感触がする。
 まだ生暖かい。 
 「キモッ」
 アリスは生首を投げ捨てる。
 その後、ナイフを一本顕現するとそれに爆破能力を付加し投げ捨てた生首に向かって投擲する。 ザクッという心地よい音がしてナイフが宝樹の首の眉間に突き刺さる。 その瞬間にナイフが爆発する。
 ナイフの大きさが小さかったおかげで、爆発も小規模に済んだ。
 ドゴンという鈍い音がして宝樹の生首が爆散する。

 アリスは真顔でそれを見送った後、口元を歪ませた。
 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」





「ふぅぅぅっざけるなぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」




 アリスは絶叫した。
 何なのだこれは
 本当にこれは何なのだ。
 いったいどうしてこんな奴を自分は殺したのだろうか。 これはいったい何の茶番だ。 いったい何でこいつは死んだ。 どうしてどうして私はこんな奴を殺すことに快感を覚えていたのか。
 どうして自分は今までこんなくそ野郎にあんな目にあわされたのだろうか、こんな何の目に生きているのかさっぱり分からないようなゴミクズ野郎に自分は狂わされたのだろうか、意味が分からない。 このくそ野郎を殺して多少は気が晴れるだろうかと思ったがそんなことはなかった。
 何の面白みもない
 意味が分からない
 馬鹿らしい
 あほらしい


 つまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらないつまらない


 いったい何のために自分はこんな痛い目にあってまで戦ったのだろうか

 本当にふざけるなよ

 「ざっけんなぁぁよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 再び発狂状態に入りリミッターが外れかけるアリス
 全身からとめどなく魔力があふれ出て強大なオーラを生み出す。 それはまるで悪鬼のようにまがまがしい型を作ると、アリスの背後で遠吠えを上げる。 それは決して誰かに聞こえるようなものではないが、魔力の影響で周囲の地面が揺れ動いた。
 アリスは絶叫し、本能のまま暴れだそうとする



 「落ち着いてくれないかな、アリス」
 「―――ッ!!」



 クライシスの声が脳裏に響く。
 それでアリスは正気に戻るとそれと同時に魔力の流出が止まる。 それを察したクライシスは呆れ顔を崩すことなく、アリスに向かう。 何とか正気を取り戻したアリスはリミッターを掛けるとクライシスと向かい合う。
 顔と同じぐらいに呆れ声でクライシスは話を始める。


 「何度も言ったろう。 君に死なれたら困るんだって、なるべく僕のいないときに戦わないでくれないかな。 どうやら君はリミッターの外し方を知ってしまったようだ。 むやみやたらにそれを使わないで
 「うるさぁい!!」


 クライシスの話をアリスが叫んで無理矢理遮る。
 その勢いに押されてクライシスは黙り込む。
 その隙をついてアリスは一気に畳みかける。

 「もうあんたの指示は受けない!! もうマリアは死んだ!! もう私が戦う理由はこの世から消えてなくなった!! 宝樹真理も私が今さっき殺した!! この世に未練なんて最初っからどこにもない!! 人を殺す快感ももうよく分からなくなった!! 私は何のために今まで戦ってきたの!! さっぱり分からない!! ふざけるなよ、ふざけるなよぉぉ!! 死んでやる、死んでやる、死んでやる!!」
 「それは困るんだけど……」
 「あぁ!? あんたの指示は受けないって言ったでしょう!! 死なないなら死なないにしろ、私はこの力を使って世界を滅亡させてやる!! 人類を絶滅させてやる!! 私にはそれができる!! できるだけの力がある!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! そうしたらお前の世界を救うという目的が果たせなくなるだろう!! ハハハハハ!! ざまぁみろ!!」

 アリスが勝ち誇ってそう叫ぶ。 もう遠慮することなどない、もうこうなったら本音を思いっきりぶつけてやるつもりでいた。 息の続く限り言葉を吐き続け、アリスは大きく肩で息をつく。
 これで本当にすっきりした。
 今すぐ死ねたらどれだけ心地が良いだろう。
 アリスがそう思ったとき

 クライシスが何の違和感もなしに、当たり前のように小さな声でつぶやいた。

 「じゃあやっちゃう?」
 「は?」
 「世界滅ぼしちゃう?」
 「……何言ってるの?」





118, 117

  



 例のにやにや笑いを一切崩すことなく言葉を紡ぎ続ける。
 一瞬呆気にとられてしまったアリスは、ついつい素のまま言葉を吐いてしまう。

「人類滅亡も?」



 するとクライシスは呆れたように首を振ると言った。

 「それは無理だよ、すでに人類は滅亡しているんだから」
 「は?」

 意味が分からない。
 全く何が何だかわからない。
 アリスは脳裏でクエスチョンマークが渦巻くのが分かった。 鳴門海峡もびっくりの大渦だ。 クライシスが何を考えてあんなことを言ったのかさっぱり分からない、アリスの理解の範疇が完全に超えている。


 目をクルクルと回し、混乱しているアリスを見て、クライシスは言った。
 「うん、時期もちょうどいい。 君にすべてを話そうじゃないか。 僕とスパラグモスとオモパギアについて。 でも、ここだとちょっとね……君の家で詳しく話そうじゃないか」
 「…………」


 アリスは少し悩む
 別にここで話を聞く義理もなければ義務もない。 それに聞いてしまうと、もう二度と死ぬことができないところに行ってしまうような気が、クライシスのいいように使われてしまうような気がした。
 それでも、好奇心が抑えきれなかった。
 今まで隠されてきたスパラグモスやオモパギアの秘密が明らかになるというのに、こんなチャンスを逃す手はなかった。
 アリスは決めた。
 「分かった。 話を聞く」
 「そうこなくっちゃ」


 二人は飛び立つとアリスのアパートへと戻っていった。

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