トップに戻る

<< 前 次 >>

ベリアル 第七戦 その③

単ページ   最大化   

 ぎりぎりのところまで接近し、剣を振るう。
 その瞬間にあわせて敵少女は姿を消す能力を顕現すると、剣の攻撃をかわす。 
 この後、アリスの体をすり抜けるように移動し後ろに回り、再び体をもとの場所に戻すと攻撃を仕掛けるつもりだった。 ところがそううまくはいかなかった。 
 攻撃をかわされたその瞬間、アリスも能力――影中潜行――を顕現し、敵少女と同じように空間の干渉を受けないようにする。
 干渉を受けない空間はぱっと見は普通の場所だった。 違う点があるとしたら二つ、一つは世界全体が灰色をしていること、もう一つはこの世界にはアリスと敵少女しかいないことだった。
 二人が同じ能力を使用する。
 するとどうなるか
 答えは単純
 二人は空間の干渉を受けない場所で鉢合わせすることとなった。
 「なッ――!!」
 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 油断したなぁ!!!!!!!」
 醜い叫び声をあげて、アリスは剣を振るう。 狙うは首元、その一点だけである。
 しかし、敵少女も一筋縄ではいかなかった。
 剣が振るわれるのと同時に自らの武器である大鎌を大量に顕現すると、それを辺り一帯に乱立させる。 あまりに予想外の攻撃に驚いたアリスは一旦腕を引っ込め、攻撃を中断してしまう。
 その隙に敵の少女は能力を解除して元の場所へ戻る。
 「…………」
 ほっと一息ついたとき、敵少女はあることに気が付いた。
 一筋の日光がビルの隙間に差しこんでいた。 そして影の一部を切りとると、アリスの腕らしきものが元の空間に戻っていた。 右腕か左腕かまではわからない。 ちょうど前腕部のみが見えていた。
 「……フッ」
 敵少女は大鎌を振るうと、その腕を切り裂いた。

 「アグゥッ!!」
 アリスは鋭い痛みが走るのを感じた。
 ちらりと見てみると、右腕の一部分がぽっかりと消えてなくなっていた。
 どうやら切断されたらしい。
 「…………」

 アリスは一瞬驚くも、すぐに作戦を立てた。


 能力を解除して元の空間に戻る。 
 そして再び敵少女と相対する。
 すると目の前に見えたのは大鎌を構えて自分のことを待ち鎌手いた敵少女の姿だった。 どうやら自分が出てくるところを予想し、そのあたりで待ち伏せていたらしい。 アリスから見ると完全に虚を突かれた状況だった。
 敵少女は初めて凄惨な笑みを浮かべると大鎌を振るった。
 「死ね」
 「―――ッ!!」


 大鎌の刃がアリスに襲い掛かる。
 アリスは何とか攻撃をかわそうと思う。 魔力を織りなし、大きな剣を一本顕現するとそれを敵少女と自分の間に突き立てる。 一瞬驚く敵少女だが、そのまま能力を顕現すると攻撃を続ける。
 敵少女の両腕と手に握っていた大鎌が姿を消す。
 干渉を受けない空間に腕と武器を飛ばした後も腕を振るい続ける。
 こうして剣をすり抜けると、大鎌の部分だけを元に戻す。



 するとどうなるかというと大鎌がアリスの胸の前に突然出現し、そのまま突き刺さる。 ズブリッという嫌な音がして、大鎌の先がアリスの胸に食い込んでいく。 鋭いその攻撃は何にも止めることができなかった。
 「グフッ!!」


 アリスは口元から血がこぼれてくるのが分かった。
 今のところ心臓に届く様子はないが、このままではそれも時間の問題だった。 焦ったアリスは、急いで残った左腕を上げ、自分の胸から生えている大鎌の刃を握り締めると、力づくでそれを止める。
 敵少女は腕の動きが止まったのを感じた。
 「――ッ!!」
 「死ね」
 「……?」


 剣の向こうから聞こえてきたアリスの不穏な言葉に、敵少女はゾッとした寒気を感じた。 全身の鳥肌が逆立つ。 今までアリスが放っていたさっきとはまた違う。 まるで日本刀が突き刺したかのような殺気だった。
 早く終わらせなくてはいけない
 そんな予感がした。
 しかし、手遅れだった。


 「『浮いて指を鳴らせ』」
 「え?」


 ガオンという音が響く。
 空間削除能力が発動し、敵少女の首から胸部あたりまでの肉体がすっぱりと消える。 あまりに一瞬のことに何が起きたのか理解できない敵少女。 目を丸くするとそのままピクリとも動けなくなくなる。
 その次の瞬間に敵少女は死んだ。

 コアが宿っている心臓部分が消失したせいで、生命エネルギーの供給がなくなり死亡したのだ。 何が起きたのか分からないまま、痛みもなくすっくり死ねたのはある意味幸せと言えた。
 干渉できない空間に取り残された敵少女の腕が戻ってくることができず、そのままそこの空間に取り残される。 敵少女が死んだので、大鎌の攻撃にも力がなくなった。 アリスは左腕の力を込めると大鎌を抜いた。
 そして武器を地面に投げ捨てると唾を吐きかけた。
 「くそがっ」


 悪態をつけながら傷の修復を終わらせるとビルの影から外に出る。
 そしてあたりを見渡してみる。


136, 135

  




 ここはどこだ。


 いったい何なんだ。


 この世界は一体何なのだ。



 周囲一帯がそこまでではないが結構な被害となっていた。 死人も少しはあったらしい、救急車のサイレンや悲鳴が聞こえてくる。 しかし、その全てがアリスには全く何の意味もないものとして映っていた。
 もうすべての物に意味があるとは思えない。
 こんな世界、ぶち壊してやりたい。



 ぶち壊してやる。


 「アリス」
 「…………」
 すっかり聞きなれた声がアリスの耳をつく。
 目の前に誰かが立っているのが分かる。 きちんと焦点を合わしてみると、そこには達也の姿があった。 おそらく研究所からそのままここに来たのだろう。 白衣を身にまとったまま、こちらの方を心配そうに見ている。


 アリスは真顔で顔を合わせるも、何も言わない。
 一瞬ためらったあと、達也は口を開こうとする。
 「アリ……
 「黙れ」
 「――ッ!!」
 「何も言うな」



 アリスは剣を一本顕現すると、その先をまっすぐ達也に向ける。
 それに気圧されたのか、達也は開きかけた口をつぐむ。 その姿を見たアリスは満足そうに頷くと一度変身を解く。 するとドッと疲れと鋭い痛みがアリスの全身を襲う。 一瞬、膝が崩れかけるがなんとか持ちこたえる。


 その姿を見て達也は助けに入ろうとするが、その前に、アリスが釘を刺した。
 「来るな!!」
 「…………」
 「……来ないで……」
 アリスはそのままおぼつかない足取りで家へと戻っていった。


 達也はなんて声を掛けたらいいかわからず、黙ったままアリスの背中を見送っていく。 その間、ずっとどうしてアリスが泣いていたのかその理由が分からず困惑していた。 自分はどうしたらいいのだろうか。 自分はアリスのために何かできないだろうか
 そんなことばかりか考えていた。
 あんなに寂しそうな、悲しそうなアリスの背中を見たのは初めてだった。


 おそらく、この世でアリスを助けられる可能性がある人物がいるとしたら、それは自分だけだ。 達也はそう確信していた。
 「一か八か、やってみるか」
 少し前から考えていたことを達也は実行に移すことにした。





137

どんべえは関西派 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る