ベリアル 第一戦 その②
背筋を襲った嫌な感覚に戸惑ったアリスは距離を詰められる前に少し考える。 アリスが結論に至るまでにそこまで長い時間はかからなかった。
「……そうか、そういうこと」
「アリス、どうしたんだい?」
「敵がおかしい」
「え? どこが?」
「……武器から考えて、あいつの戦闘スタイルは接近戦」
「当たり前でしょ」
「でも、斧を使ってない」
「え?」
「それどころか、戦闘を行うそぶりさえ見せない」
「…………」
「何か、狙ってる?」
「……どうやら、君は洞察力が優れてるみたいだね」
「…………」
あまり嬉しくなかった。
そんなことよりもアリスはしっかりと前だけを見ると、レンゲの一挙一動に目を配る。 もし、何かを仕掛けてきたらすぐに対処できるようにである。 剣を構え、少し姿勢を下げる。
一方のレンゲはゆっくりと大斧を両手で握りこみ、剣道でいうところの上段の構えをとる。
「来る……っ!!」
「アリス、一ついいかい?」
「何、こんな時に」
「君は今、見えないものが見えるようになっている。 しっかりと目を凝らした方がいいと思うよ」
「…………」
クライシスが何を言っているのかよく分からない。
が、とりあえず分かったことがある。 クライシスは人をけむに巻くようなしゃべり方をするが間違ったことや嘘は言わない。 今までの戦いの中でつかんだ感覚を生かすと、両目辺りに魔力を込めてみる。
目がより一層暗い色になり、真っ黒に輝く。 アリスはそのままあたりを見渡してみる。 すると、クライシスが言うところの「見えないもの」というのが何かわかった。
周囲を紫色のオーラのようなものが覆っていることが分かった。
アリスはそれが直感的に何かわかった。
「……魔力?」
「そうだね」
「……あの嫌な感覚……この魔力のせい……」
「そんなこと言ってる余裕があるのか?」
「っ!! やばっ!!」
アリスはレンゲが動き始めたのを見逃さなかった。
高く構えていた大斧をいきなり振り下ろしたのだ。
いったい何が起きるのかまでは分からない。 しかし、嫌な予感はしていたので、とっさに地面を蹴って左へ飛ぶアリス。
が、遅かった。
ザンッという音があたりに響く。
アスファルトが、車が、街灯が切れていく。 レンゲが振り下ろした大斧の直線状にあるものすべてが真っ二つになっていく。 挙句の果てはアリスの後方にある八百屋までもが切れていた。
そんな攻撃に、アリスも無事ではなかった。
とっさの判断に致命傷は避けた物の、避け損ねた左腕の肘から先が切られたのだ。
一瞬、世界が動きを止める。 左腕が袖ごときられ宙に浮く。 しかし、制止する時間もそこまで長くはもたない。 すぐに現実に引き込まれ、アリスは左腕から鋭い痛みが襲ってくるのを感じた。
「――――ッ!!」
「……そうか、そういうこと」
「アリス、どうしたんだい?」
「敵がおかしい」
「え? どこが?」
「……武器から考えて、あいつの戦闘スタイルは接近戦」
「当たり前でしょ」
「でも、斧を使ってない」
「え?」
「それどころか、戦闘を行うそぶりさえ見せない」
「…………」
「何か、狙ってる?」
「……どうやら、君は洞察力が優れてるみたいだね」
「…………」
あまり嬉しくなかった。
そんなことよりもアリスはしっかりと前だけを見ると、レンゲの一挙一動に目を配る。 もし、何かを仕掛けてきたらすぐに対処できるようにである。 剣を構え、少し姿勢を下げる。
一方のレンゲはゆっくりと大斧を両手で握りこみ、剣道でいうところの上段の構えをとる。
「来る……っ!!」
「アリス、一ついいかい?」
「何、こんな時に」
「君は今、見えないものが見えるようになっている。 しっかりと目を凝らした方がいいと思うよ」
「…………」
クライシスが何を言っているのかよく分からない。
が、とりあえず分かったことがある。 クライシスは人をけむに巻くようなしゃべり方をするが間違ったことや嘘は言わない。 今までの戦いの中でつかんだ感覚を生かすと、両目辺りに魔力を込めてみる。
目がより一層暗い色になり、真っ黒に輝く。 アリスはそのままあたりを見渡してみる。 すると、クライシスが言うところの「見えないもの」というのが何かわかった。
周囲を紫色のオーラのようなものが覆っていることが分かった。
アリスはそれが直感的に何かわかった。
「……魔力?」
「そうだね」
「……あの嫌な感覚……この魔力のせい……」
「そんなこと言ってる余裕があるのか?」
「っ!! やばっ!!」
アリスはレンゲが動き始めたのを見逃さなかった。
高く構えていた大斧をいきなり振り下ろしたのだ。
いったい何が起きるのかまでは分からない。 しかし、嫌な予感はしていたので、とっさに地面を蹴って左へ飛ぶアリス。
が、遅かった。
ザンッという音があたりに響く。
アスファルトが、車が、街灯が切れていく。 レンゲが振り下ろした大斧の直線状にあるものすべてが真っ二つになっていく。 挙句の果てはアリスの後方にある八百屋までもが切れていた。
そんな攻撃に、アリスも無事ではなかった。
とっさの判断に致命傷は避けた物の、避け損ねた左腕の肘から先が切られたのだ。
一瞬、世界が動きを止める。 左腕が袖ごときられ宙に浮く。 しかし、制止する時間もそこまで長くはもたない。 すぐに現実に引き込まれ、アリスは左腕から鋭い痛みが襲ってくるのを感じた。
「――――ッ!!」
反射的に右手で左手の傷を抑える。 しかし、それだけで出血を止めることはできず、どんどん血で汚れていく。 アリスは痛みに負けて叫びたいのを必死でこらえると、横目で切り落とされた左腕を見る。
腕は地面に転がっていた。 切断面から白いものが見えるのは、おそらく骨か何かだろう。 それはすぐに流れる血で真っ赤に染められてすぐに区別がつかなくなる。
アリスはしばらくそのままうずくまっていたが、それでも油断せずレンゲの方を見続ける。 それだけの余裕があるのは、痛覚がある程度麻痺しているからだが、アリスにそれを知る余地はなかった。
痛みに堪えているアリスを見て、チャンスと思ったのか、レンゲは再び大斧を掲げる。
「…………っ!!」
直撃はまずい
アリスはそう判断すると、再び地面を蹴って今度は確実に安全と思われるエリアまで逃げる。
そのおかげか、次の斬撃はさっきまでアリスのいたところを切り裂いていき。 無事、アリスは回避することができた。
「――ッ……クライシス」
「なんだい」
「この腕、どうにかならないの!?」
「じきに再生するよ」
「え?」
「ほら、始まった」
クライシスがそういうのと同時に、さっきまでとは違う、焼けつくような痛みがアリスの左腕を襲ってきた。 アリスはよりいっそう左腕を抑え込むと、声にならない声を上げる。
どうやらレンゲもアリスの行動に戸惑っているらしい。 攻撃をやめてこちらを見てくる。
「アグゥゥゥ……」
「肉体の再生は消失より痛みを伴う。 安心しな、すぐに治るよ」
クライシスの言う通りだった。
まず、骨が修復され、その上に血管や筋肉やらが再生する。 そして最後に皮膚が張られる。 なかなかグロい見た目だったが、アリスは何かに魅入られたかのようにじっとそれを見ていた。
再生は三秒もかからなかった。 終わって少しの間腕がしびれる感覚に襲われたが、すぐに痛みも引いて問題なく動くようになる。
アリスは復活した腕を凝視すると小さく呟く。
「すごい」
「そうでもないさ、腕とか簡単なところだったら再生は比較的簡単なんだけど、胴体とかだったら厳しいかな、繋がっていたら別だけど。 あぁ、あと心臓と頭は再生が難しいかな。 やられた瞬間に魂が離れていくからね」
「……いいことを聞いた」
作戦を立てたアリスは再び剣を構え、レンゲと相対する。
レンゲは大斧を今度は横なぎに振るうと攻撃を仕掛けて来た。 それを空中浮遊で飛び上がってかわす。
アリスはレンゲの能力に関して考えを巡らせる。
自分の能力は相手の能力を理解しなくてはいけない。 それには十分に観察し、考察しなくてはいけない。 とりあえずいくつかの仮説を立てると、アリスはそれについて考えを巡らせる。
まず、斬撃を飛ばす能力だと仮定する。
とりあえず、それについて実験してみることにした。
「クライシス」
「なんだい?」
「この武器、どんな形にもできるの?」
「あぁ、できるよ」
「だったら……」
アリスはそう呟き、剣を盾状に変形させる。 その大きさは自分の全身を簡単に隠せるほどの大きさだった。 それで全身を覆い隠しつつ、アリスはレンゲに向かって走っていく。 これで防御できるなどこれっぽちも考えてはいない。 これは実験なのだ。
レンゲはそんなアリスの姿を見ると、小さく呟いた。
「無駄、死にな」
そして、もう一度、今度は横に大斧を振るう。
腕は地面に転がっていた。 切断面から白いものが見えるのは、おそらく骨か何かだろう。 それはすぐに流れる血で真っ赤に染められてすぐに区別がつかなくなる。
アリスはしばらくそのままうずくまっていたが、それでも油断せずレンゲの方を見続ける。 それだけの余裕があるのは、痛覚がある程度麻痺しているからだが、アリスにそれを知る余地はなかった。
痛みに堪えているアリスを見て、チャンスと思ったのか、レンゲは再び大斧を掲げる。
「…………っ!!」
直撃はまずい
アリスはそう判断すると、再び地面を蹴って今度は確実に安全と思われるエリアまで逃げる。
そのおかげか、次の斬撃はさっきまでアリスのいたところを切り裂いていき。 無事、アリスは回避することができた。
「――ッ……クライシス」
「なんだい」
「この腕、どうにかならないの!?」
「じきに再生するよ」
「え?」
「ほら、始まった」
クライシスがそういうのと同時に、さっきまでとは違う、焼けつくような痛みがアリスの左腕を襲ってきた。 アリスはよりいっそう左腕を抑え込むと、声にならない声を上げる。
どうやらレンゲもアリスの行動に戸惑っているらしい。 攻撃をやめてこちらを見てくる。
「アグゥゥゥ……」
「肉体の再生は消失より痛みを伴う。 安心しな、すぐに治るよ」
クライシスの言う通りだった。
まず、骨が修復され、その上に血管や筋肉やらが再生する。 そして最後に皮膚が張られる。 なかなかグロい見た目だったが、アリスは何かに魅入られたかのようにじっとそれを見ていた。
再生は三秒もかからなかった。 終わって少しの間腕がしびれる感覚に襲われたが、すぐに痛みも引いて問題なく動くようになる。
アリスは復活した腕を凝視すると小さく呟く。
「すごい」
「そうでもないさ、腕とか簡単なところだったら再生は比較的簡単なんだけど、胴体とかだったら厳しいかな、繋がっていたら別だけど。 あぁ、あと心臓と頭は再生が難しいかな。 やられた瞬間に魂が離れていくからね」
「……いいことを聞いた」
作戦を立てたアリスは再び剣を構え、レンゲと相対する。
レンゲは大斧を今度は横なぎに振るうと攻撃を仕掛けて来た。 それを空中浮遊で飛び上がってかわす。
アリスはレンゲの能力に関して考えを巡らせる。
自分の能力は相手の能力を理解しなくてはいけない。 それには十分に観察し、考察しなくてはいけない。 とりあえずいくつかの仮説を立てると、アリスはそれについて考えを巡らせる。
まず、斬撃を飛ばす能力だと仮定する。
とりあえず、それについて実験してみることにした。
「クライシス」
「なんだい?」
「この武器、どんな形にもできるの?」
「あぁ、できるよ」
「だったら……」
アリスはそう呟き、剣を盾状に変形させる。 その大きさは自分の全身を簡単に隠せるほどの大きさだった。 それで全身を覆い隠しつつ、アリスはレンゲに向かって走っていく。 これで防御できるなどこれっぽちも考えてはいない。 これは実験なのだ。
レンゲはそんなアリスの姿を見ると、小さく呟いた。
「無駄、死にな」
そして、もう一度、今度は横に大斧を振るう。
すると次の瞬間、何かが起きて見事横一文字に盾を切り裂いた。
レンゲはこれで決着ついたと思い、小さく笑う。
しかし、その幻想は打ち砕かれることとなった。 二つに切り落とされた盾は重力に引かれてゆっくりと落ちていく。 しかし、その裏にアリスの姿はなかった。
「なっ!!」
「……まぬけ」
レンゲは急いで顔を上げる。
すると、一瞬のスキをついて宙に飛びあがったアリスがこちらに向けて魔導光弾を発射しようとしている姿が見えた。 まずいと思ったアリスは急いで大斧を振るい、今度はアリスのいる方に攻撃を仕掛ける。
それを察したアリスは何の躊躇もなく魔導光弾を解除すると、地面に向かって急降下していった。
レンゲは攻撃が外れたことを悟ると悔しそうに舌打ちした。
アリスは地面に降り立つと、言った。
「……分かった」
「え?」
「あいつの能力、完全に理解した。 後は、気をそらすだけ」
そう言ってアリスはゆっくりとレンゲに向かって歩き出す。 右手をかざすと、二つに離れた盾を光の弾へと変換し、自分の手に戻す。 そして再び剣の形をとらせる。
どうやらレンゲは慎重になっているらしい。 いつでも攻撃を仕掛けられるようにし、警戒を解くことなく、アリスの動向を探っている。
決して急がず、一歩一歩確かめるように歩きながら、アリスは語りかけた。
「あんた」
「レンゲって……ま、いいか」
「能力が何かわかった」
「へー、当ててみなよ」
「たぶん、魔力を満たした範囲内に切断面をまっすぐ、一方向に広げることができる……違う?」
「……なんでそう思ったの?」
「斬撃を飛ばしてはいない」
「どうして?」
「あなたの大斧では、私の剣は切れない。 なのに同じ、防御力だけでいえばはるかに凌駕する盾いともたやすく切り裂いた、ということは、斬撃じゃない。 つまり力で切ってない」
「…………」
「違う?」
「……当たり、よ」
「そう? じゃあ、勝った」
「え?」
今まで以上に不敵な笑みを浮かべるアリス
それに、気圧されるように蓮華は一歩後ろに下がってしまう。
レンゲはこれで決着ついたと思い、小さく笑う。
しかし、その幻想は打ち砕かれることとなった。 二つに切り落とされた盾は重力に引かれてゆっくりと落ちていく。 しかし、その裏にアリスの姿はなかった。
「なっ!!」
「……まぬけ」
レンゲは急いで顔を上げる。
すると、一瞬のスキをついて宙に飛びあがったアリスがこちらに向けて魔導光弾を発射しようとしている姿が見えた。 まずいと思ったアリスは急いで大斧を振るい、今度はアリスのいる方に攻撃を仕掛ける。
それを察したアリスは何の躊躇もなく魔導光弾を解除すると、地面に向かって急降下していった。
レンゲは攻撃が外れたことを悟ると悔しそうに舌打ちした。
アリスは地面に降り立つと、言った。
「……分かった」
「え?」
「あいつの能力、完全に理解した。 後は、気をそらすだけ」
そう言ってアリスはゆっくりとレンゲに向かって歩き出す。 右手をかざすと、二つに離れた盾を光の弾へと変換し、自分の手に戻す。 そして再び剣の形をとらせる。
どうやらレンゲは慎重になっているらしい。 いつでも攻撃を仕掛けられるようにし、警戒を解くことなく、アリスの動向を探っている。
決して急がず、一歩一歩確かめるように歩きながら、アリスは語りかけた。
「あんた」
「レンゲって……ま、いいか」
「能力が何かわかった」
「へー、当ててみなよ」
「たぶん、魔力を満たした範囲内に切断面をまっすぐ、一方向に広げることができる……違う?」
「……なんでそう思ったの?」
「斬撃を飛ばしてはいない」
「どうして?」
「あなたの大斧では、私の剣は切れない。 なのに同じ、防御力だけでいえばはるかに凌駕する盾いともたやすく切り裂いた、ということは、斬撃じゃない。 つまり力で切ってない」
「…………」
「違う?」
「……当たり、よ」
「そう? じゃあ、勝った」
「え?」
今まで以上に不敵な笑みを浮かべるアリス
それに、気圧されるように蓮華は一歩後ろに下がってしまう。