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決意

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 「義手の調子はどう?」
 「あ、完璧です。」
 「自衛隊にいくつか貸し与えて置いてよかったわね、試作品だけど勘弁して」
 「いいですよ、別に。 完成品もたくさんはないのでしょう?」
 「えぇ、もうすでにいくつか色々な人に送ったわ。 今頃取り付けているところもあるんじゃないかしら」
 「ま、人のためになるならいいですよ」


 達也と小岩井所長は自衛隊基地で義手の訓練をしていた。
 新式の義手はクライシスの技術を応用して作ったもので、従来の義手よりはるかに扱いやすく、様々な機能を内蔵することができるようになっていた。 完成品は特に何も搭載していないが、これにはライターや通信機もあった。
 腕を上げて、グッパーを繰り返してみる。 まるで自分の腕のようにスムーズな動きだった。
 脳との接続は完璧だった。
 研究所が再び建設されるまで二人は自衛隊の駐屯基地にいた。 といっても特にすることが無いのでぼんやりと時間を過ごすだけの日々が続いていた。 
 ただ、明日からは少し忙しくなりそうだった。


 今日クライシスを運搬する目処が立ったので、明日からここに運びこむ手筈が整った。 幸いなことにクライシスが発見されたのはアリスが焦土とした町だった。 そこは「隕石が落ちた」という名目で一帯を立ち入り禁止にしていた。
 そのおかげで目撃者はほとんどいない。 空中に巨大な魔方陣らしきものが出現したあたりまでは覚えている人や撮影している人はいたのだが、魔方陣が展開した途端にすべての人の記憶が飛んでしまった。 携帯やカメラなどは全て壊れていたし、ほんの少しだけ残ったデータにも何も映っていなかった。
 おそらくはあの魔方陣の効果だろう。
 しかし、多大な被害を被ったこともまた事実だった。
 催眠効果か何かのせいで日本全体の機能が一時停止したのだ。 いま、日本の経済は滅茶苦茶、交通事故も何十件と起き、原因不明の爆破の被害者たちが相当数に上った。 また、情報も錯綜しており信頼できる情報などもうこの世にないも同然だった。
 そういう訳で、達也たちが自衛隊を通じて行っている捜索も全く進んでいなかった。


 達也は不安を胸に、小岩井所長に尋ねた。
 「所長」
 「何?」
 「アリスは、まだ見つからないんですか……?」
 「……えぇ、そうね。 最後に達也君と別れたところとアリスが住んでいたところを中心的に探してるのだけど、やっぱりうまくいかなくって」
 「………そうですか」


 予想できたことだが非常に悲しい。
 達也は目を伏せて、小さくため息をつく。
 小岩井所長は口を開いてためらいがちに何かを言おうとする。 しかしそれを点とに入って来た一人の幼女が遮った。 二人は同時に顔をそちらに向けると、疲れ切った顔に無理矢理笑みを浮かべる。
 その幼女は名前を御影優希といった。
 アリスが戦闘を行った町で救助された子供で、所長が面倒を見ているのだ。 クライシスのことがあった際は少し大きな精神病院に他の職員が連れて行っていたので研究所にはいなかった。
 その後、ここで合流したのだ。


 優希はテコテコと歩くと、小岩井所長の足に縋りつく。
 終始無言のままなのは、彼女はしゃべることができないからだ。 どうやらアリスの戦闘を間近で目にして相当ひどいトラウマを負ったようで、そのせいで喋れなくなったらしい。
 小岩井所長は優希のことを溺愛していた。 彼女も研究所の人達には心を開いていたので、最近では小さくだが笑う姿も見かけるようになっていた。
 達也はふと、顔を上げると、天井を見上げながら小さな声で話かけた。


 「所長」
 「何?」
 「俺、アリスのこと好きかもです」
 「そう……」
 「今度会ったら、もっとしっかりアリスの子と支えてあげられたらな、なんて思います」
 「…………だったら、もっと頑張らないとね」
 「はい」

 風が吹き抜ける。
 するとテントの出入り口が一瞬開き、そこから眩しい日光が差し込んでくる。 それはそこにいるみんなの目に焼き付き、反射的に目を閉じてしまう。 すると一瞬、光が闇に包まれる。
 しかし、目を開くとそこには美しい世界があった。
 達也はその世界で生きていく決意をしっかりと固めた。




 こうして終わりの始まりの始まりは終わりを迎えた。






























 魔法少女アリスThe Killing       完

















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