ベリアル 第二戦 その②
疑問に思っているとクライシスがその疑問に答えた。
「いいかい、君は相手の能力を理解した。 でも、その能力は魔導光弾を増幅するものではない」
「……なんでわかるの?」
「君の能力を僕は把握しているからね、いいかい、今君が学習した能力は簡単に言うとこうだ『武器に魔導光弾を装填する』そういうものだ」
「……? 増幅能力は?」
「それは武器の能力なんだ。 あの魔法少女の能力じゃない」
「――ッ!! そういうこと……」
ここで初めてアリスの能力学習の弱点が露見した。
魔法少女の能力しか学習できないということは、増幅能力を使用することはできない。 装填するだけの能力でも、十分力にはなるが、それでは微妙なところである。
しかし、学習できない以上このままいくしかない。
アリスはそう開き直ると、銃に変化させていた武装を二つに分け、どちらも剣に変えると二刀流にする。
そして、床を蹴ると再び接近する。 今度は突きなんてまどろっこしい真似はしない。 大きく剣を振るうと、連続で切り付ける。 遠距離戦では勝ち目はない。 近距離で畳みかけることにした。
右、左、右、左
間髪入れずに切り付けるも、全て捌かれたり銃ではじき返されたりして攻撃は通用しない。
しかし、敵も攻撃を仕掛けることができない。
狭い場所であることが功をなし、こう連続で攻撃を仕掛けられては距離をとることができないのだ。
お互いに苦しい戦いが続く。
そんな中、隙を見せたのはアリスだった。
「クッ!! 離れてよ!! この糞アマ!!」
「……うるさい!!」
アリスはとどめを刺そうと剣を大きく振るう。
すると敵はそれを銃を使って受けると力任せに上に弾く。 すると、剣が上に弾き飛ばされ、まるで万歳をしているかのような格好になる。
敵はにやりと笑うと、引き金を引くことなく、銃を突き出すとその先でアリスの腹部を殴る。 鈍い衝撃が下腹部を襲う。
「カハッ!!」
アリスは苦しげに息を吐き出すと、そのまま数m後ろに飛ばされる。
しかし、飛んでいる間に何とか姿勢を整えると、見事に着地した。
そして急いで顔を上げる。
するとそこには銃口をこちらに向け、どや顔をする敵がいた。
「勝った!!」
「……っち!!」
アリスは小さく舌打ちすると覚悟を決めた。
敵が引き金を引くまでの一瞬の間、その隙に自らの武装を五つに分けると、そのうちの四つを堅固な盾状に変化させる。 そしてその四つを重ね合わせるように自分の前にかざすと、その裏で両腕をクロスさせ、そこにシールドを集中させる。
これだけで凌ぎ切れるなど思ってもいなかった。
アリスは自らの両腕を捨てるつもりでいた。
「死ね!!」
そう言って引き金を引く敵。
宙を切る光弾、一秒も経たないうちに光弾が命中する。
ドゴンッという腹に響く音が起き、廊下を吹き飛ばすほどの爆発が発生する。 床が崩れ、教室の壁が吹き飛び、アリスのいたところを中心として球状に破壊が広がっていく。
「やった!?」
敵が目をキラキラとさせ、爆煙の中を見る。
爆煙はゆっくりと薄れていく。
すると、敵の少女の顔が苦虫を噛み潰したようなものになっていく。
なぜなら、煙の中に影が見えたからだ。
「しぶとい!!」
「………………」
煙の中からその凄惨な姿を現したアリス、死を免れた代償はそれだけ大きかった。
まず、両腕が失われていた。 爆発でもぎ取られた腕からは折れた骨が顔を覗かせていた。 ドバドバと流れる血はゆっくりと水たまりを作っていた。 また、顔の皮膚が半分焼け落ち、ただれ、まっすぐ見ることができないようなことになっていた。
最後に、右肺のあたりに大穴が開いており、そこから息が漏れていた。 血管や肋骨のようなものが張り付いた皮膚が中途半端にはがれ、ベロリと垂れ下がる。 両足の魔導麗装もずたずたに引き裂かれており、酷いやけどを負っているのが見える。
そんな悲惨な姿なのに周囲に舞う光の粒がどことなく神聖な雰囲気を醸し出していた。 それは、爆発の威力で消失した盾の残骸だった。
そんな状況で
でも、
それでもアリスはぎりぎり生きていた。
肺に少し空いた穴から空気を漏れ出しつつ、ほとんど何もできない状態でも生きていた。
ゆっくりと顔を上げ、鋭い、しかし死んだ魚の目を向けると、焼けただれた皮膚をひきつりつつ持ち上げると言った。
「かっ……た……っ……」
「え?」
アリスの言葉に、敵が目を丸くする。
次の瞬間
ドスッ
そんな音と共に、敵少女の胸から剣が生えた。
「え――っ……」
「ク……ック……ククック………………クク……」
クライシスは驚嘆していた。
アリスは武装を五つに分けた。
そのうちの四つを盾に変化させた、ということは一つがどこに行ったのか。 それは剣状に変化させ、床すれすれに飛ばし爆煙にまぎれるように移動させると、敵少女の背後にまで操作し、貫いたのだ。
最初からそれが狙いだった。
「ゴフッ……」
敵少女はそんな無様な音を口から漏らすと、同時に血液も噴き出す。 腕に力が入らなくなったのか、銃を取り落とすとそのまま膝から崩れ落ち、膝立ちのような格好になる。 顔は天を仰ぐように上を向き、ゆっくりと血と涙を流し続ける。
アリスは右胸部と右腕の修復が終わったのを確認すると、ふらふらとしつつも一歩一歩前に進むと、敵少女に近づいていく。
顔の皮膚の修復も随時進んでいき、ほどなく普通に喋れるようになる。
「……殺す……殺せる……ハハッハ……ハハハ……」
そんなことをぶつぶつ呟きながら、光の粒を右手のひらに集中させると剣に変化させる。
敵少女のそばに立つ。 足を延ばし手元に転がっていた銃を蹴り飛ばすと武器を奪う。 そして、片手で剣を大きく振りあげると宣告する。
「ねぇ…………、死ぬよ……。 殺すよ……どう思う?」
死ぬが確定した人が何を思うのか
アリスはふと疑問に思い、それを訪ねていたのだ。 死ぬ覚悟ができていて、死に対する躊躇がなくても実際に死んだことはない。 その寸前に何を言い残すのか、苦痛に支配され、人に殺される気分はどんなものなのか、聞いてみたかったのだ。
怖いのだろうか
つらいのだろうか
痛いのだろうか
苛立っているのだろうか
それとも
何も考えていないのだろうか
ほんの少し、ほんの少しだけアリスは期待しつつ、少女の口元を見る。
その口がゆっくりと動き出す。 血を吐き、息も絶え絶えな状態で、少女はゆっくりと言葉を紡ぎだす。
「……お………お………」
「お? お、なんなの?」
「…お…お母さん」
「は?」
「お母さ……ん……お母さん…………お母さん!!」
「不愉快」
アリスはそう言い放つと、剣を振り下ろす。
そして少女の首を切り落した。