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ベリアル 第三戦 その①

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 全身を風が打ち付ける。 重力に引かれる感触が心地よい、うろ覚えだが、こんな話を聞いたことがある。 重力加速度は毎秒九.八mだという。 なるほど、地面があっという間に近づいてくる。 中々面白いものだった。
 しかし、拍子抜けでもあった。
 今、自分は死に向かっているのに、やっぱり怖くない。
 「……変身……」


 黒いオーラを発生させると、魔導麗装を顕現する。 黒いオーラに包まれ、目の前が真っ暗になると同時に魔力がアリスの身体の周囲の集中すると、魔導麗装を顕現する。 独特の質感のする布が全身を覆って行くのを感じる。
 オーラが消えると同時に、魔導麗装から空中浮遊の際に使う重力干渉波が発生し、グングンとスピードが落ちていく。 
 そして飛び降りてから十秒も経たないうちに、アリスはふわりと地面に降り立つ。
 「なんだ!?」
 「空から降って来たぞ」
 「カッコわる」
 「こんな昼間から、馬鹿みたい」
 etc……


 周りからさんざん罵倒されるアリス
 しかし、アリスの視線はまっすぐ前に向けられていた。
 そこには少女がいた。
 憔悴しきった眼、ボロボロの肌、まるではさみで切ったかのような髪に、適当にひっかけただけの服。 透き通るような白い肌、今にも崩れそうな雰囲気。 そして周囲を漂い続ける真っ暗な雰囲気
 間違いない
 魔法少女だ。


 アリスは、剣を両手に生成するとその少女に向かって先を突きつける。
 すると、少女が口を開いた。
 「カナタは……いい子だよ」
 「はぁ?」
 「変身するね」


 カナタと名乗った少女は変身した。
 身にまとった麗装、それは何とも言えない色合いをしていた。 白というには黒く濁っていて、灰色というには透き通りすぎている。 何とも言えず不気味だった。 しかも、どういうわけか装飾がなく、露出度も低いうえでイングドレスのようにも見えた。
 また、どういうわけか武装を持っていなかった。 その代わりと言っては何だが、カナタと名乗る少女の左手の薬指、そこには怪しげな光を放つ指輪がはめられていた。

 敵の少女はまるで何かの拳法の構えのように、両腕を前に出すと、アリスと相対する。
 「……カナタはいい子だから。 あなたにも……苦しみを知ってもらう。 カナタのために」
 「……ハハハハハハ!! 私も苦しませて殺すけどねぇぇ!! ハハハハハハハハハハハハ!!!」
 「豹変してる……」
 アリスの狂気は日に日にひどくなっている気がする。
 クライシスは心配に思いつつも、見守ることにした。

数秒の間、早退し続ける二人
 敵が一向に仕掛けてこないので、アリスはこちらから仕掛けることにした。
 剣を構え、カナタという少女に向かって突っ込もうとする。
 

 


その時、誰かに袖を引っ張られるのを感じた。
 「ねぇ、おねーちゃん、どうしてそんなかっこうしてるの?」
 「……はぁ?」
 アリスは馬鹿にするような声を出しながら、馬鹿にするような目で話しかけてきた女の子を睨み付ける。 年は五から六といったところ、人生が楽しくてしょうがないぐらいの子供だろう。 少し離れたところから母親らしき人が近づいてくるのが見える。
 一瞬、嫌な予感がして顔を上げると、カナタの方を見る。
 すると、カナタは腕を上げた格好のまま固まっている。
 どうやら攻撃を仕掛けるつもりは無いようだった。
 

 アリスは少し安心すると、もう一度子供の方を見る。
 そして言った。
 「……死ね」
 「え?」


 アリスはその女の子を手にしていた剣で切り裂いた。
 右肩から左わき腹までを一瞬で、綺麗に、躊躇なく、見事に。 ずるりという音がして、女の子の体の上部分は地面に落ちる。 その後、血が大量と内臓がぶしゅりという音を立てて少し噴き出す。
 ぼとぼとと小刻みに聞こえる音が心地よい。
 残った下部分も、そのまま重力に引かれて崩れ落ちる。
 「ハハハ、馬鹿みたい」
 アリスは冷たくそう言い放った後、カナタの方を見る。
 すると、小さな声が聞こえてきた。
 「……酷い……」
 「は?」
 「あんな小さな子に、そんなことするなんて…………。 酷い」


 カナタが言葉を続けようとしたとき、突然金切り声が聞こえてきた。
 どうやらさっき殺した子供の母親らしい。 何か叫んでいるがうまく聞き取れない。 理由は単純だ、周りの人たちもパニックに陥っていたからだ。 アリスの殺人に驚きおののき逃げ出したのだ。
 「人殺しぃぃぃっ!!」
 「警察!! 早く警察呼んで!!」
 「なんでこの子を殺したのぉぉ!?」
 「逃げろ!! この間、出てきた殺人鬼だぞ!!」
 「キャアアアアアアアアア!!!」
 アリスは、この周囲にいる人間を一掃しようかと思う。


 しかし、その前に何かが起きた。
 突然、アリスに向かって叫んでいた母親や、周囲にいる人間が一気に静かになった。 アリスはそれを見て驚いた。 何が起きたのかよく分からないことが起きたのだ。 
 周囲にいた数人の人間の胸や頭部が一瞬の間に消失したのだ。
 穴の開いた部分から血を噴出し、人々が倒れていく。
 カナタは小さく呟いた。
 「カナタと……邪魔しないで」
 「……?」
 一瞬、カナタは小声になってごにょごにょと言った。 そのせいで何を言ったかは聞き取れなかった。 少し気になったが、それより敵の攻撃の方が気になった。
 何が起きたのかさっぱり分からない。
 唯一分かったこと、それは

 やばい

 アリスは能力の学習など忘れることにした。
 すぐ終わらせる。




40, 39

  


 全力で地面を蹴ってカナタに近づく。 アスファルトがめり込み、破片が吹き飛ぶ。 接近しつつアリスは左腕を振るうと剣の先をカナタの首に向け、全力で突き出す。 武器を持っていないカナタはかわすしかない。
 アリスはそう考え、どっちに逃げてもすぐに追い打ちをかけられるよう、敵の動きを集中してみる。
 しかし、アリスの予想は外れた。
 カナタは一歩も動くことなく、じっとアリスの方を見ると、上げていた右手の指を鳴らした。
 その瞬間、アリスの右腕、肘から先が消し飛んだ。
 「え――!?」
 「カナタはいい子なんだよ」
 そう言って今度は左手の指を鳴らす。


 アリスはその直前に飛び上がると急上昇し、カナタの上をとる。 そして、魔力を集中させ、右腕の修復を高速で終わらせると、両腕をカナタの方に向ける。 その手の先に魔導光弾を顕現すると、それを発射する。
 それに気が付いたカナタは顔と両腕を上げると、今度は同時に指を鳴らす。
 すると、ガオンという奇妙な音が鳴って二つの魔導光弾が消失する。
 それと同時に、アリスの両腕も消失した。 指の先から肩まで、綺麗に消えた。
 「――ッ!!」
 「死んでよ、ねぇ、死んでよ」


 同じことをつぶやきながら、もう一度指を鳴らすカナタ
 アリスはそれを避けるように宙を切ると、少し離れたところにあるビルの陰に隠れる。 そして両腕が回復するのを待つ。 二秒も経たないうちに腕が戻ったアリスは、武装を斧状に変化させつつ悪態をつく。
 「クッ……あいつの能力、なんなの?」
 「アリス、あの攻撃を食らった瞬間、どんな感じだったかい?」
 「…………」
 アリスは少し考えてみる。


 感触としては突然消失した、といった感じだった。 痛みや違和感といったものは、消えた後に感じた、剣で切られるのとは違い攻撃の痛みはなかった。 また、腕から肩にかけて順々に消失したというよりは一気に消失した感じだった。
 ここまでは考えつくが、まだ判断材料が足りない。
 アリスはとりあえず、奇襲をかけることにした。 範囲切断を顕現すると、ゆっくりと結界を張っていく。
 ある程度張ったところでビルの影から飛び出し、攻撃を仕掛けようと思った。


 その瞬間
 ガオンという音が響く。
 アリスの左わき腹が消失する。
 「あがぁぁぁぁぁっ!!!!」
 さすがのアリスも激痛に襲われる。


 とっさに斧を取り落とし、傷跡を両手で抑える。 しかしそれでも血が滝のように流れて、何か腸っぽいものが垂れていく。 アリスは痛みをこらえながらその場から離れる。
 するとあることに気が付いた。
 アリスが隠れていたビル、それに穴が開いているのだ。 それも、一階をまるまる消し去れるぐらいの大きな穴。 どうやらアリスはその穴の縁ギリギリのところにいたらしい。
 つまり、円形に物体を消し去ったのだ。


 「そういうことか!!」
 アリスは悔しげにそう叫ぶと、腹の傷を修復する。
 この間の戦闘の際に気が付いたことだが、傷の修復は予想以上に多くの魔力を消費する。 防戦一方だとあっさりとやられてしまうかもしれない。
 アリスはそのまま大きく迂回するように宙を飛ぶと、カナタを探す。







 すると、ほどなく見つけることができた。
 ビルの向こう側の宙に舞っていた。 どうやらビルから飛び出したアリスに気が付いていないようだった。 その隙をつくことにすると、アリスは自分の周囲に魔力を集中させる。
 すると、どこからともなく発生した魔力の粒が集まり、いくつかの剣を生み出す。
 そして、腕を前に出すと命令を飛ばし、全ての剣をまっすぐカナタの方へ飛ばす。


 一秒も満たないうちに剣がカナタに肉薄する。
 すんでのところで気が付いたカナタは、重力干渉波の出力を一気に上げる。 そして、宙に寝るような不安定な姿勢をとり、ギリギリのところでかわす。
 「逃さない……」
 アリスは意識を集中させ、いったんカナタのことを通り過ぎてしまった剣の方向を転換させると、もう一度串刺しにしようとする。
 しかしその前に姿勢を立て直したカナタは剣に向かって指を連続して鳴らす。
 すると剣が次から次へと消えていく。
 でも、それでいい。 目的はカナタの気を逸らすこと、アリスは自分の周囲に魔力を集中させると、虚空から魔導光弾をいくつか顕現する。 そして、適当に狙いをつけて、それを発射させる。


 高速で宙を切るそれらは光の粒をまき散らしながら流星のごとく迫っていく。
 カナタはそれに気が付くと、その場で一回転し、地面に頭を向けるような格好になると、指を鳴らし、光弾を全て消し去る。
 その隙にアリスは広げた結界の中で剣を斜めに振るう。 すると、カナタではなく、さっきまで隠れていたビルが斜めに切れる。 
 カナタはそれに気が付くと顔を真っ青にする。
 アリスはにやりと笑うと言った。
 「……どうする?」


 ビルが鈍い音をたて始める。 切断面からゆっくりとビルがずれ始めているのだ。 それはゆっくりとカナタの方に向かって行く。 このままでは一分も経たないうちにビルが降ってくるだろう。
 ふと、ビルの方から叫び声が聞こえてくる気がする。
 どうやら仕事中の人々がいたらしい。 だからなんだという話だが
 カナタは一瞬崩れてくるビルに惚けるも、すぐ正気に戻ると逃げ出そうとする。 しかし、もう間に合いそうもない。
 カナタは決意を固めると、両腕を高く上げ、ビルに向かって指を鳴らす。
 すると、直径三mもあろうかという大穴がビルに空く。


 カナタはビルに向かって突っ込んでいくと、そこに空いた穴をすり抜けて向こう側に出る。 向かって行くカナタの脇をビルから人が落ちていくが、気にしない。
 カナタはまっすぐ上を見続け飛んでいく。
 すると、視線の先に何かが現れる。
 「ハハハハハハハハハ!!! かわせるかなぁぁぁ!!!!???」
 「カナタはいい子なのに……どうしてかなぁ?」


 アリスは先回りをして槍を構えると腕を振るい、それを投げつける。 強化されたアリスの筋力は、一流の槍投げ選手を超える速度で槍は宙を切っていく。 カナタはどういうわけか指を鳴らすことなくそれをかわそうとする。
 穴が大きかったため簡単に避けることができた。
 しかし、アリスの攻撃はそれだけで終わらなかった。 魔導光弾を大量に顕現し、それらを全てカナタに向かって発射したのだ。 自分の周囲に発生できるだけの光弾を六に狙いをつけず適当に撃ちだし続ける。
 カナタは一旦その場で動きを止め、光弾をかわし続ける。



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