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ベリアル 第三戦 その②

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 アリスはその様子を見て確信を抱いた。
 「あいつの能力……弱点がある」
 「なんだい、それは」
 「あの消し去る能力、小さい範囲なら連発できるけど、広範囲を消し去ると連発できないらしい」
 「確かにね」


 ここまでの戦いからそう判断することができた。
 どれぐらいのタイムラグかはわからないが、今あの攻撃を仕掛けてこないことから、まだ攻撃はできないらしい。 だったらこの隙にできるだけ畳みかけておきたいところだった。
 「……頃合いかな」
 アリスはそう呟くと、剣を顕現し、それを振るった。
 すると、穴を横に切り裂くようにして切断が広がっていく。
 それが見えているのかどうかは定かでないが、カナタ回避をしつつ、腕を上げ指を鳴らすとあの消し去る攻撃を仕掛ける。 


 ガオンという音が響き、アリスの頬が半分消える。 消えた部分からお世辞にもきれいとは言えない歯が見える。 下も少し削れており、結構の量の血が流れだす。
 それと同時にカナタの両足も膝から先が切り裂かれる。 回避が甘かったようだ。 重力に引かれて両足が地面に向かって行く。 カナタの顔がひどくゆがむと、口を堅く結ぶ。
 二人とも結構酷い傷を負う。
 それでも止まらない。
 アリスは、カナタに対抗するかのようにスピードを上げるとそのまま接近し、腕を伸ばし、カナタに掴みかかる。
 「カナタをいじめるのっ!?」
 「ハハハハハハハハハ!!! だったらなんのかなぁぁぁ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
 

 二人はそのままもみ合う。 お互いの重力波が干渉しあったせいで減速し、やがてビルの方が先に地面に向かって倒れていった。 ひょっとすると大惨事になるんじゃないかという考えは二人にない。
アリスは張るかのよう腕をつかむと、そのまま逃げられないようにする。 
 カナタの消し去る能力、あれは指を鳴らして初めて成立するらしい。 能力を発動できないカナタは悔しげに顔をゆがめると言い放った。
 「カナタと私の邪魔をしないで!!」
 「え?」
 

 アリスの腕から力が一瞬抜ける。
 カナタと……私?
 つまりこの女の名前は、カナタじゃない……?
 ちょうどその時
 

 ドゴォォォォォォォォンという音が辺りに響き渡った。 
 二人の動きが一瞬止まる。 どうやらさっき切り崩したビルがようやく地面に落ちたようだった。 アスファルトが砕け散る音、ガラスが割れて地面に落ちていき、たたきつけられ、さらに細かく割れていく音
 それにまして人の悲鳴が辺りにこだまする。 女性の金切り声、男性の怒鳴り声に、子供の泣き叫ぶ声。 そして、大けがを負った人たちの呻き声がうっすらと聞こえてくる。 どうやら、もみ合っている家に結構下まで降りていたらしい。
 少しあたりを見てみると、こちらを指さして怒声を上げる人々も見えてくる。 どうやら広い道路に落ちたらしく、周囲の建物に被害は無いようだった。 しかし、道路には多くの人が集まっていたらしい。 
 どうやら二人の戦闘を撮影したり観察したりしていたようだった。
 二人はそのままゆっくりとビルの残骸の上に降り立つ。 
 



 

 辺りは本当に酷い有様だったが、この間の学校よりは惨劇っぷりは薄れていた。 おそらく、死体の多くはビルの下敷きになっているため、死体や内蔵がぶちまけられていない空だろう。
 なんとなくつまらなく感じるも、泣き叫ぶ子供を見ているとなんとなく満たされた気分になる。
 「おかぁさーん!! おかぁさーん!!」というありきたりな鳴き声を上げながら、がれきの前で立ち尽くす。 両手で顔を隠し、流れ続ける涙を必死で拭き続ける。 
アリスはふと「お母さんは死んだんだよ」と言いたかった我慢する。
 そんなことするより、このまま見ていた方が楽しいからだ。
 と、一瞬の隙を突き、カナタ―――本名は違うのだろうが、こう呼称することにする―――がアリスの腕をふりほどき、後ろに飛ぶとアリスから距離をとる。
 「――ッ やばい!!」
 

 アリスがあのかき消す攻撃に備える。
 しかし、カナタはアリスに見向きもせず、まっすぐな泣き叫ぶ子供の方に向かっていく。 飛び上がったりすること無く、一歩一歩ゆっくり近づくと、優しい声で少年に話しかける。
 アリスはあまりにも隙だらけの姿に一瞬罠かと疑うが、どうやら純粋にアリスのことを無視しているだけらしい。
 「ねぇ、君、どうしたの?」
 「ひぐっ……お姉ちゃん……誰ぇ?」
 「私はどうでもいいの……大丈夫?」
 

 カナタはゆっくりと腕を伸ばすと、少年の頭を優しく撫で始める。 その目は慈愛に満ちあふれていて、まるで聖女のようだった。 その姿を見て、アリスの思考が停止する。 一体何が起きているのかさっぱり分からなかった。
 少年は一旦腕を下ろし、しゃくり上げ続けるものの泣き止む。 そして、カナタの方を見る。 それに気づいたカナタはすごくいい笑顔になると、いっそう優しい声で話を始める。
 「どうしたの? 何で泣いてるの?」
 「ひぐっ……お母さんがいなくなったの」
 「どうして?」
 「わかんないの……なんか……突然消えたの……ひぐっ……」
 「そうなの……可哀想」


 そう言って悲しそうな顔をするカナタ。 よりいっそう強く少年の頭を撫でる。
 少年は完全に心を許した。 再び腕で顔を覆うと大泣きを始める。 カナタはその少年をギュッと抱きかかえる。 まるで親子のようなその姿に、アリスは吐き気を感じた。
 なので水を差すことにした。
 ゆっくりと腕を上げ、指を伸ばすと照準をカナタの背中に合わせる。
 そして指を鳴らした。


 カナタは背中から嫌な感覚が襲ってくるのを感じた。 殺気、違う。 これは高密度の魔力が近づいてくる感触。
 身の危険を感じたカナタはとっさに抱きかかえていた少年を突き飛ばす。


 次の瞬間、カナタの胸に穴が開く。
 「ガハッ!!」
 「やっぱり……あなたの能力は指を鳴らした時、その直線上の空間を消去する能力……」
 アリスはそう呟きながらゆっくり近づいていく。
 カナタは胸から大量の血液と、内蔵の端っぽいものを垂れ流しながらゆっくりと前のミリに倒れ込む。 肺に開いた穴から大量の息が漏れていき、あっという間に意識が遠のいていく。 




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 しかしそこは魔法少女、あっさりと死なず、ゆっくりと首を曲げると何かを探し始める。


 突き飛ばされ、九死に一生を得た少年は、突然血を吐き出し、倒れたカナタを見てかたまる。 と、首を回したカナタとばっちり目が合ってしまう。
 「ひぃッ!!」
 「………に……げ………てっ……」
 「あ、うわぁぁっぁぁぁぁっぁぁ!!」
 息も絶え絶えに喋るカナタをよそに、少年は駆け出す。
 当てなど無いが、何か恐怖に襲われ反射的に走り出してしまった。 何が起きたのか分からないが、少年は反射的に生命の危機を感じていたのだ。 自分が出せるだけの力を振り絞って走り続ける。


 しかし、少年に待っていた運命は残酷だった。
 背中に魔導光弾が命中すると淡い光を放って着弾点で爆発を起こす。 爆発に押され、少年の体が裏返るようにめくり上がる。 骨が砕け、内臓が吹き飛ぶと、少年のからだが見るも無惨な姿になる。
 少年の死骸は爆風に飛ばされて数m吹き飛び、ぴくりとも動かなくなった。 まぁ、死体が動くはず無いのだがw
 少年が吹き飛んだのを見て、カナタが顔を真っ青にし、声にならない悲鳴を上げる。
 「あ、あぁ……あがぁ……あああああぁぁ……あああ!!」
 「ハハハハハハハハハハハ!! 何言ってるのかなぁ!? ハハハハハハハハハハ」
 「……あぁ、あの……こ、ども……が……な、んで……」
 「いいじゃん別に」
 アリスは冷たくそう言い放つと、ゆっくりと近づくと剣を構える。


 そして、言い放つ。
 「ハハハハハハハハハハハハハハ!! 殺すよぉ!!! ハハハハハハハハハ!!!」
 「…………」
 ぞっとするほどおぞましい笑顔でそう言い放つアリスと対照的にカナタは黙りこくると、中途半端に修復の終わった体をもぞもぞと動かし、どういうわけか自分のおなかを抱えるような格好になる。
 そして、何かをぶつぶつと呟き始める。
 「カナタ……カナタ……ごめんね………」
 「…………まさか……」
 アリスはある仮説が浮かんできた。
 そして、小さな声で呟いた。
 「カナタって……あなたの子供なの?」
 「……カナタは良い子なんだよ?」
 そう言って顔をこちらに向けるカナタ


 それを見て、アリスはぞっとした。
 あれは母親の顔だ。
 アリスは今までと違うどす黒いものが心の奥底から這い上がってくるのが感じた。 それに心を奪われるのに、何か嫌な予感がしたアリスは、その前にカナタの首にめがけて剣を振り下ろした。







 その直前、カナタが呟いた。
 「世界を滅ぼしたいんなら、好きにしたら?」
 「――っ!!」




 ぐにゃりと肉を裂く感触が伝わってくる。 ブチブチと筋肉を切る音も聞こえる。 そのまま力を込めて振り下ろし続けると少し堅いものにあたる、それでも力を込め続けると、その堅いものにゆっくりと剣がメスを入れていく。
 そして永遠にも思える一瞬のうちに骨が切れ、再び肉を切る感触がしたあと、一気に束縛ガから解放され、剣が軽くなる。
 それと同時にカナタの首が完全に体から切断され、重力に引かれると脳天から地面に落ちていった。
 ゴロリという音がして頭が落ちる。





 アリスは、カナタの発言を聞いた瞬間に腕を止めるつもりでいた。 しかし、止まらなかった。 それは多分、殺したいという心の奥底から聞こえてくるこえにさからうことができ無かったからだろう。
 別に後悔があるわけじゃない。
 だが、気には掛かる。




 世界を滅ぼしたいんなら、好きにしたら?




 どういう意味?


 「クライシス」
 「なんだい?」
 「スパラグモスって何?」
 「さぁ?」
 「じゃあ、オモパギアって何?」
 「教えられないって」
 「……なら、最後に……」
 「何?」
 「人間って何?」
 「世界で最も醜い生き物さ」
 「……そう……」






 アリスは考えるのを止めた。
 どうせクライシスが教えてくれるはずがない。 それに、くよくよ考えるのは自分の性に合わない。 
 警官隊や救急車が来るより先に、さっさと帰ることにした。
 地面を蹴って宙を飛ぶ。 高速で飛び、マリアの眠る病院を眼下にする。 五分も経たないうちに自宅アパートの屋上に到着する。 貯水タンクの上に降り立つと、そこで魔導麗装を解除した。
 すると、膝が崩れるほどの痛みと疲れが襲ってくる。
 「――ッ!!」
 もう三回ほど体験したがまだ慣れない。
 攻撃を食らったあとがひどく痛む。 つまり両腕と頬、そこに中心的に痛みが走る。 アリスは貯水タンクにもたれかかり、そのままゆっくりと座り込む。 そしてそのまま小さなうめき声をあげる。
 「うぅ……」


 五分
 五分もあれば元に戻る。
 アリスはその間、そのまま休むことにした。 心地よい風がアリスの頬を撫でていく。 曇り空が晴れて日の光がその隙間から差し込んでくる。 それはまっすぐアリスの体を照らし始める。
 正直鬱陶しいが、動けないのでやめることにした。
 一分後、アリスはうとうととし始めた。
 眠気が襲ってきたのだ。 アリスはゆっくりと目を閉じるとそのまま静かな寝息を立て始めた。





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