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ベリアル 研究所 その①

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 「起きてください」
 「…………」
 「起きてください!!」
 「うぅ…………」


 アリスの安息の時間は謎の声によって妨げられた。 酷い不快感に襲われつつも、アリスはゆっくりと目を開ける。 すると、そこには黒い服を着た男が五人ほどいた。
 全員がたいがよく、顔にはサングラスをかけている。 こちらに声をかけてきている人は何も持っていなかったが、奥に控えている四人は手に黒光りするものを持っているのが見えた。
 おそらく拳銃だろう。
 アリスはそう判断すると、ゆっくりと起き上がり辺りを見る。
 どうやら少し寝過ごしてしまったらしい。 時刻は不明だが、日の昇り具合から見ると昼間を少し過ぎたぐらいだろう。 朦朧とする頭を抱えながら、アリスは不機嫌そうな声でつぶやく。
 「……誰?」
 「赤城アリス、ですね」
 「…………」
 無言のまま返事をするアリス。 
話しかけてきている黒服はそれを聞いて頷くと話を続けた。
 「お迎えに上がりました」
 「…………」


 もうこれ以上厄介ごとはごめんだった。
 こっそりと腕を上げるといつでも魔導光弾を放てるようにする。
 黒服はその動きを見て警戒する。 周囲の四人も拳銃を持つ腕を上げるとアリスの方に照準を合わせる。そんなものが通用すると思っているのだろうか、もし本当にそうだとするとチャンチャラおかしかった。
 アリスは見せしめに殺そうかと思う。
 が、クライシスがそれを止めた。
 「アリス、やめろ」
 「…………」


 いつもより冷静なクライシスの声
 アリスはそれに違和感を覚え、視線をクライシスの方に動かす。
 すると、黒服が言った。
 「ベヒーモス・クライシスについて聞きたいことがあります。 ついて来ていただけますか?」
 「……?」
 クライシスについて?


 アリスが困惑していると、クライシスがどや顔でいった。
 「彼らは僕に用があるんだ」
 とりあえず、うざかった。
 アリスが虚空に冷たい視線を向けているのを見て、黒服は少し怪訝そうな顔をするが、すぐに気を取り直すと、アリスに向けて手を伸ばしながらこう言った。
 「お車用意してあります。 どうぞ、我々の研究所まで」
 「…………」
 「さぁアリス、行こうじゃないか」







 用意されていた車は黒塗りのリムジンだった。 無駄にでかくて長い、なかなか高級そうな車はこのみすぼらしい通りに不釣り合いで、これに自分が乗るんだと思うと少し気おくれした。
 が、黒服たちは扉を開くと、後ろの席に乗るように促してくる。
 内部は昔々に見た映画にあったような感じだった。


 アリスは汚い靴で中に入ると、席の一番隅に座る。 そして窓から外を見る。 運転席で運転する黒服以外の男たちはアリスを囲むように、しかし、こちらを常に警戒しながら座る。 腰の拳銃に片手を乗せているあたり、なんかむかつく。
 黒服たちを見ていると沸々と殺意が湧いてくるので外の風景を見ることにする。
 いつものアパートだった。
 改めて見てもまったくもって何の面白みもない。 非常につまらないものだった。 それでもほかに見るものなどないのでしょうがなくアパートを眺め続けていると、黒服の一人が尋ねてきた。
 「何かお飲みになりますか?」
 「…………」
 「一通り揃えてありますけど」
 「…………」
 無視


 アリスがひたすら返事をしないので、黒服は諦めたようだった。 取り出していたコップに自分用のワインを入れるとそれを飲み始めた。 そして、隣に座っていた上司と思われる黒服に頭をはたかれていた。
 馬鹿みたいだった。
 ブルンという音がして、車から振動が伝わってくる。 どうやらエンジンがかかったらしい。 その後、一瞬の間があって車が滑るように移動を始める。 それに合わせて窓から見える風景もゆっくりと動いていく。
 見慣れた風景がどんどんと走り去っていく。 何となくそれは面白く見えた。 
 しばらくするとリムジンは大通りに入る。
 すると、制服を着て歩く学校の生徒を見つける。 隣には喪服を着た親が歩いていることから、おそらくクラスメイトの葬式にでも行っていたのだろう。 泣いて真っ赤になった眼をして、とぼとぼと歩いている。
 それを見てアリスは思う。


 人が死んでから行う葬式にいったい何の意味があるのだろうか。 
 死んでからでは何が起きてもさっぱり分からない。 死んでから泣かれても死人は「あぁ、こんなに泣いてくれて嬉しいな」とは思えない。 だったら葬式を行う意味などあるのだろうか。
 もちろん、死人の冥福を祈る。 死人が無事あの世に送れるようにする。
 そう言った意味もあるのだろうが、アリスはそんなことに意味はないと思っていた。 
 あの世などあるはずがない。
 死んだら何もないのだ。


 もしかすると
 自分が死んだら誰も悲しんでくれないのが、寂しいのだろうか。 
 自分が死んだら葬式を上げてもらえないだろうという予感が、自分を嫉妬へと走らせているのだろうか



 そんなはずはない。
 自分が死んで悲しくない人が悲しんでくれる人がいなくて嫉妬するはずがない。 するはずがないのだ。 だとすると、この気持ちは一体何なのだろう。 アリスは少し悩んでしまう。
 悩んでみるが、答えが出るはずがない。
 もしかすると答えなどないのかもしれない。
 そう考えると考えるのが馬鹿らしくなってきた。 




51, 50

  


 アリスは何も考えず、ひたすら窓の外を見ることにした。 
 ふと気が付くと窓の外の風景が見たこともないものになっていた。 あたりに緑が増えている。 木々が立ち並び、民家が少なくなっていく。 そこらへんにあるはずのコンビニが全く見当たらなくなってくる。
 どうやら近くにいる山に向かっているらしい。 小学校の頃、遠足に行った覚えがある。 遠足について覚えていることと言えば、バスの中で寝ているふりをしていたらそのままみんなから無視されて、ずっとそのままバスで寝てたことしか覚えていない。
 バスの運転手さんが悲しい目でこちらを見ていたことがイラッとした。


 アリスは記憶の底から糸を手繰り寄せるとどれだけの時間をかけて山についたのか思い出そうとする。
 確か、小一時間程度かかったような気がする。
 つまり、すでにそれだけ時間がたったということである。
 見慣れない風景を見続けながらアリスは研究所に到着するまで待った。


 結局到着までは二時間かかった。
 山の中腹まで登ったかと思うと、その途中にある道で隣の山にまで向かって行った。 そんなめんどくさいところしなくても隣山には行けるのにと思ったアリスだが、その疑問の答えはすぐに出ることとなった。
 途中にある道は一本道で、そのまま進んでいくと、やがて山の緑に囲まれた白い建物が見えてきた。


 その研究所は一度見れば忘れることができないような見た目をしていた。 それならば普段から山を見ていれば気づきそうなものだが、周りの木々がうまいこと目立たないようにしていた。
 うまいものだと少し感心するアリス
 やがて道は舗装されたものになっていき、すぐに大きく開いた門が目に飛び込んでくる。 リムジンはそこに滑り込んでいくとそのまま地下駐車場へと降りていく。


 地下駐車場に車は一台も停まっておらず、スカスカだった。
 リムジンは入ってすぐのところで車を停めると、黒服たちがずらずらと降りていき、最後にアリスが降りる。 地下の駐車場は空気は淀んでいるのが普通だと思っていたが、山の中だからなのか、逆に清々しいものだった。
 アリスは少しだけ空気がうまいと感じた。
 が、目の前に黒服が現れて、珍しく感じたその気分がどこかへと吹き飛んでしまう。
 「アリスさん、こちらです」
 「…………」


 そう言って黒服は腕を伸ばすと、奥の方にある自動扉の方に案内しようとする。 アリスは無言のままそれに従うと、ゆっくりと歩を進め、その出入り口へと向かって行く。
 結構距離があって面倒くさい。 こうなるんだったらもっと近くにリムジンを停めればいいのにと思うが、すでになったことは仕方がない。 特に文句を言わず、扉の近くにまで歩くと入っていく。
 すると、クーラーの冷気がどっと押し寄せてくる。 それに、明るい。 リムジンの中と地下の暗さのせいで目が明るさに慣れておらず、一瞬顔をしかめてしまう。 も、すぐに適応すると、辺りを見渡してみる。
 といってもそんなに物があるわけではない。 あるのはちょっと大きめのエレベータだけである。



 先に入っていた黒服は操作盤を操作すると、エレベーターの扉を開く。
 「どうぞアリスさん、五階で所長の小岩井博士が待っております」
 「さぁ、アリス行こうじゃないか!!」
 「…………」


 クライシスのテンションが異常に高いことに違和感を抱きつつも、アリスはエレベーターへと乗り込んだ。
 ゆっくりと上昇していく。
 数秒後、アリスは久しぶりのエレベーターに酔ってしまった。



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