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ベリアル 第四戦 その①

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 アリスはまたまたリムジンに乗っていた。
 その間、窓の外を見ながらひたすら不機嫌そうな顔をしていた。 迎えが来るとは聞いていた。 しかしまさか校門にやってきて、問答無用で車に乗せられるとは思っていなかった。 
 周囲の人たちの視線が痛く、それがさらにアリスの不機嫌度を上げていた。
 一方の達也は物思いに耽っていた。 あれを見てからアリスを頭ごなしに否定することが何となく悪いことのように思えてきた。 というかそもそも、彼女はどうして世界を救うために戦っているのだろうか


 そんな疑問が湧いてきた。
 しかし、考えているだけでは何も解決しない。
 達也はアリスに色々と尋ねようとした。
 その頃、車は街中を走っていた。 この間とは違うルートを通って走っている、広い街の中を不釣り合いなリムジンはグングンと進んでいく。 アリスは面白みのない無機質なビルを眺めていた。 窓が日光を反射してキラキラと光る。 あまりにも典型的なところだった。
 まるで湯気を立てているようなアスファルトの上をスーツを着たおっさんが額に汗流しながら歩いている。
 何となく哀愁漂うその姿に、アリスは馬鹿らしく思えてくる。


 その時、クライシスが口を開いた。
 「アリス、いいかい」
 「……何?」
 「敵が来た」
 「――ッ!!」


 アリスは目を見開くと窓の外に目を凝らす。
 しかし、敵の姿は見えない。
 クライシスは言葉を続けた。
 「でもおかしいんだ。 魔力の反応がいくつかある。 町中に十から二十の魔力が点在している」
 「………この目で確かめる」


 アリスはそういうと、運転席に向かって声をかける。
 それと同時に達也が話しかける。
 「アリス……」
 「運転手!! 車を停めて!!」
 「えっ!? あ、はい」


 黒服は驚いたような顔をするもおとなしくそれに従った。
キキィーという音がして車が車道の脇で止まる。 それとほぼ同時にアリスはリムジンのドアを開けると、そこから車道に飛び出した。 達也は「ちょっと!!」と呼び止めた物の、アリスは無視した。
 路上に降りたアリスはあたりを見渡す。
 しかし、それでは何も分からない。 それに敵はもう来ている、いつ攻撃されるのか分からないので、アリスは。 戦闘に備え、変身することにした。 幸い自分に注意を払うような暇人はいなかった。
 「変身……」


 アリスの体から大量の魔力が噴出すると、それが黒いオーラとなりアリスの全身を包み込む。 そしてその中で魔導麗装が生み出されると、それが一気に全身を包み込み、麗装を顕現する。
 変身の際に漏れ出た魔力がキラキラと周囲で怪しい光を放つ粒子となって重力に引かれて落ちていく。
 次に手を伸ばすと、その先に剣を顕現する。 
 一瞬魔導光弾のようなものが形成され、それが姿を変えると剣となる。 
 アリスは戦闘態勢を整えたのち、辺りを見渡してみる。








 その間に、周囲に人間が集まり、それぞれの反応を返し始める。
 「こんな昼間からなんだよ……」
 「これあれじゃないの、この間から出てるコスプレ殺人鬼なんじゃないの?」
 「そんなわけないじゃないか……」
  etc……


アリスは周囲の人間の反応を見て、あることに気が付いた。
 この人たちは自分の目の前に殺人鬼が出てくるなんてこれっぽちも考えてはいない。 根本的なところで解釈を間違っている。 自分たちにそんな不幸が襲い掛かってくるなんて考えてすらいないのだ。
 なんと腹立たしいことか
 こいつらは何の疑問も抱かず、この平和を享受しているというのだ。
 そう考えるとアリスは何となくやるせない気持ちになる。 なので、ちょっとしたデモンストレーションを見せることにした。
 左腕を上げると、その先を一番群衆の集まっている方に向ける。
 「…………」


 この間学習したカナタの能力を試してみようと思ったのだ。
 しかし、それはできなかった。

 アリスから見て右側
 そこにいる群衆の頭の上を一本の矢が飛んでいく。 その速度は通常の弓矢と比べて圧倒的速度を誇っていた。 宙を切り、ヒュオォォォという音をたてながら矢は少しも速度を落とさずアリスに向かって行く。
 その途中、何の前触れもなく矢は方向を変えると、アリスの背後に回ると後頭部を狙って行く。
 群衆たちはそれを見て、「あれは何だ」というような反応を見せる。
 アリスはそれに違和感を感じ、急いで振り向く。


 すると飛んできた矢とばっちり目が合う。
 「――ッ!!」
 それが刺さる直前、アリスは急いで狭い範囲に結界を張り、矢に向かって全力で剣を振るった。
 するとスッパリと矢が切断され、勢いが失われると重力に引かれて落ちていった。
 「……なにこれ……」
 アリスは悪態をつくと、矢を踏みにじる。
 それと同時に、群衆がさらに「おぉぉぉ」という声が聞こえてきた。


 アリスは疑問に思い顔を上げると空を見る。
 「……くそがっ」
 空から迫ってきていたもの
 それは五本の矢だった。


 それらは最初まっすぐアリスに向かって飛んできていたが、ある程度まで近づいたところでそれぞれ方向を変え、アリスを五方向から襲おうとする。
 それが自分に突き刺さる前にアリスは剣をもう一本顕現すると、範囲を一気に広げる。 そして向かってくる矢が結界内に入ったことを察すると両腕を振るい、切断を広げると矢を全て切り裂く。
 寸分たがわず切り裂かれた矢は推力を失い、地面に落ちていく。
 群衆はそれを見てちょっとしたどよめきを上げるが、アリスは気にしない。
 そんなことより気になることがあった。



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「……敵はどこに……」
 敵は一体どこから矢を放っているのだろうか。
 どうやって矢を操作しているかは分かっている。 アリスが自分の生み出した武器を操作できるのと同じ理屈だ。 光弾や自身の持つ武器は意識の及ぶ範囲内であれば自在に操ることができる。
 簡単に言うと、武器がどこにどのようにしてあるのか理解できれば操作することができるのだ。


 つまり、敵はそれを利用しているものと思われる。
 「…………」
 となると敵は飛んでいる矢を見ている。 もしくはどこにあるのか理解しているということになる、そうでなければ障害物などに阻まれて矢を操ることができない。 おまけにここはオフィス街だ、立ち並ぶビルが余計に邪魔になるだろう。
 アリスは仮説を立てる。
 上空から見ているのだろうか。
 「……見てみるか……」
 アリスは両目に魔力を集中させる。 すると目が余計に黒い物に覆われていき、どす黒いものになったかと思うと淡い光を放ち始める。 初戦闘の際にも使った魔力視である。これがあれば魔力が見えるので、敵の位置もわかる。
 顕現が終わってから辺りを見渡してみる。
 すると、アリスはおかしなことに気がついた。
 「……魔力の反応が多すぎる……」


 そういえばクライシスがそんなことを言っていた。
 今、アリスの目には魔力が紫色に見えている。 そして、アリスの目にはその紫色の塊が大量に映っていた。 まず、人ごみの中に十から十二、周囲のビルに十から三十、そして遥か遠方に十から十五
 それだけの数がアリスを取り囲んでいた。
 「……なんのこれは……」



 アリスは静かに悪態をつく。
 その時、アリスは気が付いた。
 クライシスがどこにもいないのだ。


 いつもはアリスのそばでアドバイスをくれたりいろいろしてくれたりするのだが、どういうわけか目の見える場所にいない。 何となく不穏なものを感じつつもうるさい奴がいなくて少し清々するアリスだった。
 とりあえず、この場を離れよう。
 そう判断したアリスは地面を蹴ると宙に飛び出し、オフィス街の中心へと向かって行った。 群衆たちは「おぉ」とどよめくが誰一人として後を追って行こうとはしなかった。その数分後、やってきた警官隊の指示で彼らは避難することとなるのだった。





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