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天使と愉快な仲間達(前編)

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 ゆかり、天使、薫の3人は相談室に移っていた。
 保健室の横にある、雑談用の部屋である。
 本来はカウンセリングなどを行うためのものらしい。
 やたら綺麗で、豪華なソファが置いてある。
 高級なコーヒーメーカーも備え付けてある。これは天使の趣味だろう。

 ゆかりと天使が旨そうにコーヒーを飲んでいる横で、薫はふー、ふー、と念入りに冷ましている。
「薫って猫舌だったっけ?」
「うん」
「…」
「…」
2人は黙ってコーヒーを飲んでいる。
「薫、ブラックなんだ」
「うん」
「やっぱり女の子なんだからミルク入れないと」
天使が意味不明な突っ込みを入れる。
「天使先生って思い込み激しくないですか?」
「おっとゆかりちゃん、今度は指4本入れられたいのか?」
ゆかりは赤面する。薫には意味が分からない。
「別にブラックでもいいけどさ。女の子がブラック飲んでたら男はミルク入れられないでしょ」
「なるほど、そこでしたか」
「そうそう。別に思い込みじゃないでしょ」
「天使先生って経験豊富そうですもんね」
薫はおずおずと言った。
「そんなに豊富ってほどじゃないよ。必要にして充分という感じ」
「カッコいいです」
「薫ちんは何でモテたいの?」
「バイト先にカッコイイ女性がいて」
「はは~、そこを曲解してさっきの状況ね」
「曲解したんですか?」
「いや、それはいいや。でどんな女性なの」
「すごく仕事が出来て。海外で働いてたのに、男の人に惚れてよくわからない仕事してるんです」

天使は一瞬顔をしかめる。
「…それもしかして立花だったりしない?」
「たしかそんな名前だった気が」
「憧れの人の名前くらい覚えとけよ。いつもジーパン穿いてるやつ」
「そうです」
「へー、知り合いだったんですね!」
2人の顔を交互に見ていたゆかりが言う。
「あいつ、それこそ思い込み激しくてさ。一度これだ!と思ったら突っ走っちゃうんだよね」
「そうかもしれないです」
「大島だったっけ。向こうの上司に一目ぼれして…何か胡散臭い話に乗せられてたな」
天使は胸ポケットからタバコを取り出して、ふっと顔を上げて、またしまった。
「ちょっと、思い出話をしていいか」
目配せをする。2人は神妙に頷く。

……

元々立花と私は高校のテニス部の同級生だったんだよね。
ダブルス組んだりしてた。中々息の合ったコンビで、もしかしてインハイとかいけるんじゃないかって思ってた。
けど3年の夏、最後の大会の前かな。立花が怪我をしたんだ。
自転車に乗ってたところを車に当て逃げされて。足を複雑骨折して、ネジまで入れたんだ。
で、当然大会は棄権。その時からどっかおかしくなっちゃったんだよね。
そう、まさにどっかネジが外れちゃった感じ。
別に勉強はお互い中の上くらいだったんだけど、テニス止めてから鬼のように勉強し始めて。
元々同じ大学に行こうって約束してたのに、あいつだけ東京の大学にトップで入学しちゃった。
私は予定通り地元の短大の看護学科で養護教諭の資格とって。

でもさ、何かもやっとしたんだよね。
私は立花との仲を取り戻したいと思った。
だからそのまま就職せずに、私も東京に行ったのね。
で、びっくりした。修学旅行の時、中学生の時初めて行って以来だったんだけど。
人が本当に溢れてるのね。
まあ2人は見慣れてるかもしれないけど。
なんとなく、町にはコレくらいの人がいるんだって感覚をぶち壊してくる。
そっか、こういうのにアイツは惹かれてったのかな、って。
でしばらく観光したあと、もう頃合だろうと思って、立花に会いに行って。
そしたら何て言ったと思う?今度は海外に行くって。
変わっちゃったなあと思ったよ。
ずっと一緒にいられると思ってたのに、あいつはどんどん先に進んで行ってたんだ。

「ま、これが2人の顛末さ」
聞き入っていたゆかりがはっと顔を起こす。
「それで、その後はどうなったんですか?」
「それは早乙女も知るとおり。覚えてないけど向こうの大企業で大島に会って惚れて日本にカムバックさ」
「なるほど。でも天使先生は立花さんのことを忘れられないわけですね」
「こんにゃろう分かったような口を利いて」
天使はゆかりのおでこをでこぴんする。
「いたっ」
ふんふん、と頷く薫。
「何か、その話聞いてると立花さんも天使先生も似てますね」
「似てる?どこが?」
「立花さんは大島さんを追っかけてて、天使先生は立花さんを追っかけてるんです」
「うーん。なるほど」
「それがモテるってことなんじゃないの?」
ゆかりがくい気味に言う。
「どうかな。じゃあいっちょ大島に会いに行ってみますか」
「会えるんですか?」
「おう。そりゃね。今日の仕事はしまいじゃ」
「随分適当な仕事ですこと」
ゆかりが笑う。
「まあこんなもんよ」
天使がニカッと笑う。
3

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