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 弓香が病院のベットに寝て目をつむった。すると真っ暗な瞼の裏が弓香を迎える代わりに、目をつむる前と同じ病室の景色がある。しかしその景色はまるで水中のように歪んでおり、ぼんやりとしている。

 窓に足を掛けけり出すと、弓香は空高く飛んだ。景色は弓香の街と変わりは無いが、人っ子一人居ない。その代わりに、異形の怪物たちがいる。人一人ぐらいの大きさの、甲高い奇声を上げる人間の唇。脚だけが沢山生えた、住宅街を駆け回る脚のお化け。その集団の中で、ひと際大きな白い布の塊が、弓香を襲った。

 白い布の塊は意志を持ち、弓香を襲い、包み込んで絞め殺そうとする。弓香は強く念じ、その追いかけてくる白い布から逃げた。
 この世界では足をつかって駆けるより、念じて移動した方が速く動ける。弓香は手から刀を現出させると、布を引き裂く。しかし苦労の甲斐虚しく、布につかまり、道路の真ん中に叩きつけられた。
 黒いチェーンソーのような刺々しい塊が弓香の足の方向から迫ってくる。羽虫がすぐ耳元にいるようなブーンという音が聞こえる。
 弓香は口の中に血の味を感じた。衝撃で切れてしまったらしい。むせ返るような血の匂いが鼻孔にいっぱいになった。

「やめ……て。」

 人間の唇のお化けや、脚のおばけが布に締め付けられる弓香に近づいた。まるで弓香を食べようとしているかのようだ。弓香は黒いチェーンソーが足のすぐそこまでに来ていることを感じた。

 弓香が目を開けると、そこには変わらない病室があった。体中汗びっしょりだ。自分の手足がちゃんとあることを確認する。ほっと溜息をつき、弓香はナースコールを押した。
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