橋の上で
「おはよう」
「おはよう」
輪墓の川に渡されている橋の上で私と彼は顔を合わせる。
と言っても特筆するほどの出来事ではない。毎日、私と彼は顔を突き合わせ、こうして挨拶をしている。雨の日も晴れの日も、風邪をひいた日も欠かさずこうして挨拶を交わしている。いわゆる日課という奴だ。
彼は両手に持っていた缶コーヒーの内、一本を私に向かって突き出してきた。
それを受け取り、プルタブを開けると私は口に運ぶ
苦い
ブラックは苦手なのだ。
それでも彼は毎日ブラックコーヒーを持ってくる。
「どう? 調子は」
「普通」
「学校は?」
「留年するかしないかの瀬戸際」
「勉強しろよ」
「別に……」
「まぁ、唯奈のやりたいようにすればいいと思うよ」
「…………生意気」
「ハハハハハ、その憎まれ口も久しぶりだな」
「…………」
その言葉を聞いて、私は非常に悲しい気持ちになる。
彼の中では、私は一年ぶりに出会う懐かしい幼馴染のままなのだ。
私は何度も噎せ返りそうなのを我慢しながらコーヒーを飲み干す。
空になった缶を適当に放る。
するとそれは橋の上から、眼下を流れる川へと落ちていく。だが、いつまでたっても水が跳ねるポチャンという音が聞こえて来ない。それもいつものことだ。あの虚しさで心が締め付けられていた頃が懐かしい。
彼は橋の下を見ながらこう言った。
「あのさ、何でポイ捨てするの?」
「いいじゃない」
「よくないと思うけどなぁ」
「……」
悲しい
私はもうこの場にいることが苦痛でしょうがなくなってきた。
「ごめん、行かなきゃ」
「ん、もうそんな時間? 俺も行かなきゃ」
そう言って彼は私の背を向ける。
そして橋の向こう側へと向かって行った。
「……………」
これは後悔だ。
あのとき、私が彼のことを呼び止めていれば、こんなことにはならなかったのだ。
目から涙がこぼれる。
次の瞬間
視界が全てまばゆい光に包まれて―――――――――
私は目覚める。
ベッドの上で
体を起こし、ちらりと横を見る。
するとそこには彼の写真が置かれている。
私はそこに向かって優しく呟いた。
「おはよう」