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12月10日更新

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俺は、ミチを小型艇まで送り届け、尚且つ番場を捕まえて白状させるための計画を練り上げた。
4日後にせまった日曜日に、丁度、リオン近くにある大きな市民公園で市民自由参加の夏祭りがあるのだ。そこでコスプレイベントを開き、コスプレに乗じて、俺とミチもリオン近くに近づく。部活顧問の番場に、コスプレイベントに俺とミチが参加することをそれとなく伝える。あいつはまた俺の命を狙うために、必ずやってくるはずである。しかし、人前では、派手に俺に対してアクションを起こすのは難しいはず。そこを利用して、奴を捕獲して、兄貴たちの組織に引き渡す……。そして、組織に尋問してもらう(それくらい活躍してもらわないと税金無駄遣いの存在価値のない組織であろう……)。そして、リオンの屋上までミチを送り、ミチは小型艇で母船に帰還。宇宙に帰る……。そう、ミチは帰ってしまうのだ……。いや、今はセンチメンタルになるのはよそう……。
 
取り敢えず俺は、ヒーローサイトでコスプレイベントの告知をしてもらうことにした。しかし、4日後はさすがに急すぎる。人が集まるのかと少し不安になった。ところが思わぬところに強烈な助っ人がいたのである。
 才蔵がメールで矢追のツイッターのアカウントを送ってきた。矢追はコスプレイヤーとして、その界隈では有名なのらしい。1万人近いフォロワーは、ほとんどがコスプレ関係者らしく、矢追のツイッターの告知に参加を表明するコスプレイヤーはどんどん増えていった。
 矢追のドヤ顔が浮かび少し鬱陶しいが、ここは評価しよう。
そして番場先生に、日曜日、ヒーロー研究部主催のコスプレ大会を開くことを知らせ、一応顧問として参加を促す。だがやはり、「おまえたち勝手にやれ!」の一言で、相手にされなかったらしい。そこで才蔵の案で、番場先生の前で、一芝居することになったらしい。
舞台は、番場先生が通りかかる廊下。
「井原先輩! 夏祭りのコスプレ大会、佐藤先輩も来るんですよねー! 菜緒、久々に会えて嬉しー!」
と、そこで、広瀬の口を押えるサイゾー……。
「バ、バカ。そんなことでかい声で言うなよー。あいつは逃亡中なんだからな……!」
学芸会レベルだと想像できるが、番場は食ついてきた。改めて、コスプレイベントの場所と日時を部室にまでワザワザ確認に来て、
「俺も、一応は顧問だ。今回は会場まで行くとしよう」
と、言ったらしい。

 ここまでは、計画通りだった。

第8章 予想外のエンディング
日曜日を翌日に控えた土曜日。ミチが地球を離れるのは明日で、地球に小惑星が衝突するまで残り20日だった。
俺は、ミチと海へ行くことにした。電車で小一時間。天気も良く、波も穏やかだった。海開き前の浜辺は、まだあまり人気もない。
ミチは波打ち際で裸足になって、砂と波の感触を珍しそうに楽しんでいた。

途中で買った麦わら帽子をかぶり、浜辺に座り、俺達は並んで海を見た……。
「……ミチの星にも、昔は綺麗な海がありました……。でも大きな戦争があって、究極的な兵器によって、海は一度干上がり、それからもう元の様な海ではなくなりました。……ミチの星の海には、今はどんな生物もいません。争いの前の、5パーセントに満たない人間がかろうじて生き残り、もう一度、世界を作り直しました……。でも、一度壊してしまえば、二度と元に戻らないものもあります……」
「……」
「地球には、まだ多種多様な生物や植物が生きていて、眩しいくらい命がいっぱいです。……それに、人は他を思う気持ちを持っています。……エゴばかりじゃない。……だからミチはこの星は、人間の文明は、……充分に存続可能だと思います」
「……うん。……ありがとう」
眩しいくらいいっぱいの命。……俺は、それを感じようと、波の音と潮風に、身をゆだねようとした。そうして、深呼吸すると、肺の中が切なくなるような懐かしさに満たされていく。
この星が終わるはずない……。終わらせない! と、俺は、心に静かに誓った……。

海から帰ると、宅急便で矢追薫から矢追氏宛に、小包が届いていた。中身は、例の「メン・イン・ブラック」の様なスーツが二人分。ご丁寧に、サングラスと帽子までついていた。カードが一枚添えられていて、「木を隠すなら森の中」と書かれていた。「成るほど」と感心して、カードの裏を見ると、「ホントは只のわたくしの趣味でしてよ」と書いてあった。俺らは苦笑した。サイズは、俺とミチにほぼピッタリだった。いったい、いつ目測で俺達のサイズを計っていたというのか……。まったく、そら恐ろしい奴である……。


 とうとう、決戦の日曜日を迎えた。
 朝から、晴天で、少し汗ばむくらいの陽気である。俺とミチは矢追氏の車の後部座席に乗せてもらい、普段着姿で天宮市に向かった。検問を突破するまでは、普段着の方が目立たないだろうと思った。橋の上で車が止められて、一台、一台、黒服の男たちが覗き込んで、搭乗者の顔を確認しているようだった。俺達は緊張した。俺は一応、伊達眼鏡を掛け、ミチはジーンズにいつもより男っぽい絵ガラのTシャツの上に、華奢な体の線が目立たないように、柄物のシャツを着せて眼鏡を掛けたうえ、野球帽を目深にかぶりタヌキ寝入りをさせた。余計な質問を避けるには、その方が良いだろうと考えたのだ。

 前の車が通されて、俺達の車の順番が来た。黒服の男が、
「搭乗の方、確認させて下さい……」
と、後部座席の方を、運転席の窓からのぞき込んできた。ミチは俺に寄り掛かって、眠った振りをしている。
「そっちの方、お休み中ですか……」
「あー、彼、昨夜寝てないもんで……」
黒服は、まじまじと俺達二人を見たが、特に問題なしと思ったのか、
「……ご協力ありがとうございましたぁー」
と、言い慣れた口調で言うと、俺たちの車に前に行くように、合図した。
検問を抜けて暫くしたところで、俺達の緊張の糸はキレ、
「は~、よかったー!」
と、笑いあった。
 それから、俺達は夏祭り会場近くに車を止めてもらい、後部座席で黒スーツに着替えた。
 着替え終わると、矢追氏に礼をいい、車を降りた。


夏祭り会場は、思った以上に賑わっていた。通常の夏祭りに、コスプレイベントが重なって、浴衣を着た親子連れや、夏祭り目当ての、中高生のグループに、コスプレイヤーが入り混じってかなり賑わっていた。矢追薫の配慮だったのか、俺達と同じような、「メン・イン・ブラック」風のコスプレイヤーも何人かいた。そして、遠くを見渡せば、街の角っこには本物の黒服もチラホラいるのが見えた。

あちこちで、祭りに来た中高生や子供たちにもせがまれるままに、ポージングをして、スマホやデジカメで、写真を撮りあっているコスプレーヤーたちがいる。
「取り敢えず、寛治たちを見つけるか」
「でも、もし番場先生が一緒にいたら……?」
「これだけ人がいるんだし、滅多なことできないだろう」
「でも勇人、気を付けて。また見つかればどんな方法で狙われるかわからない……」
「わかった!」
そう。このとき、俺の一番の落ち度は番場が狙っているのが、まだ俺だと思い込んでいたことなのだ。俺の兄貴との会話で、奴のターゲットがとっくにミチに移っていたことも知らずに……。
「あー、やっぱり素敵! シンプルな黒スーツ程、素材を生かすのね~!」
俺達の真後ろに、いつの間にか矢追が魔法少女風のコスプレで立っていて、ミチにまたすり寄っている。
「おまえ、本当に神出鬼没だよな。実はホンモノの魔女なんじゃねーの?」
「あら、それ褒め言葉かしら?」
「いや、ちょっと怖いだけ」
「そんなこと言うと、本当に呪文かけちゃいますわよー! &$#%&!」
魔法のステッキを振り回す矢追。
「う、う、くくくるしい!」
俺が、首のしまる振りをすると、
「え! ゆ、ゆうと……!」
とミチが本気で心配する。
「あー、冗談、冗談!」
「なんだ、本気で矢追さん魔法使いかと思った……。ハハ」
「もう、かわいいんだから」
と、そこへ、見覚えのある戦隊モノの格好をした一グループがやってきた。
寛治のブルー、凛のイエロー、才蔵のグリーン、そして見慣れないブラックは祥太郎か?
そして胸のでかいピンクは、いきなり俺に抱きついて来た。
「せんぱーい! 会いたかったです!」
広瀬だ。いやそれはなんともストレートで、戸惑う俺。
「おー、ひさしぶりー」
と、広瀬に、みんなにちょっとぎこちない挨拶になった。
「元気だった? ちょと痩せたんじゃないの?」
凛がお袋みたいな口をきく。
「逃亡中だもんな~」
才蔵がからかうように言う。
「星乃! 皆なんとか協力して、君を無事に返すから!」
寛治が強い口調で言った。
「はい。ありがとうございます」
「星乃先輩、今日でお別れなの、俺、淋しいですよ……」
祥太郎が、しんみりと言った。
「……あー。二人の愛の逃避行も今日で終わりなのね~」
矢追、やめろ~。
「変なこというなよ!」
「あら、ほっぺが赤いわ」
矢追がしつこい。
「ほんとだ。な、なんかあったのかぁ?」
才蔵、調子に乗るなよ。
「おまえ、蹴飛ばすぞ!」
「えー、ほんとに~? 菜緒妬けちゃう!」
冗談とも、本気ともつかない口調の広瀬が俺を睨む。
話題を変えよう!
「そういえば、番場先生は?」
「それが、まだ会場には来ていないようなんだ」
と、寛治がいった。
「そうか。でも、俺が来るのわかってて、来ないはずはない!」
「番場見つけたらどうするの?」
「取り敢えず、兄貴に通報して、兄貴たちの組織に捕まえてもらう。」
「知らなかったよ。環境保全機構って、仕事手広いんだな? 宇宙人の捕獲までやってるなんて」
才蔵が、感心したように呟く。
「あ、それ、一応秘密みたいだから……。内緒にしておいて」
成り行き上、俺が寛治に正直に喋った結果、皆が兄貴の組織について知るところになった……。口止めしないと、後々、こっぴどく兄貴から怒られそうである。
後々という、未来があればの話だけど。……そう、皆には、言っていないこともある。小惑星がこのままだと地球に激突し、人類がもうすぐ滅亡するという事実は、俺は、誰にも言っていない。世の中には、知らない方が幸せなこともあると思うから……。どうにもならないことなら、口にすべきではないんじゃないかと思ったのだ……。
「なあ、みんなで手分けして番場先生を探そう!」
俺がそういうと、
「名付けて! ジョーカーを探せ! 大作戦」
と、才蔵が名づけた。
「見つけたら、近寄らず、遠巻きにして、すぐに位置を俺に知らせてくれ!」
「わかった!」
凛と広瀬、寛治と祥太郎、才蔵と矢追、そして、俺とミチ、二人一組になって会場に散った。

祭り客で賑わう会場は、思った以上の混雑で、きっと番場こと、ジョーカーも俺を血眼になって探しているのかも知れないと思った。
 
そして、それはその通りだったのだ。しかし、番場が一番最初に見つけたのは、才蔵と矢追の二人だった。番場は人ごみの中に二人を見つけると、才蔵たちが気付くより早く二人に近づいて行った。そして、いきなり才蔵の襟首をつかみ、
「おい! 今日、この会場に星乃と佐藤が来ているはずだ! あいつら、どこにいるんだ!」
荒々しく、才蔵にせまった。
「お、俺、知りません!」
「正直言わないと、ただじゃすまないぞ……!」
「せ、先生、何をそんなに焦っておいでですの?」
「あいつを、返すわけにいかないんだよ!」
そういうと興奮して、怖い形相になっていく。
「あいつには、帰還命令が出ているのは、通信を傍受して知ってるんだよ!」
「あ、あなた、やっぱり……!」
矢追が、震えながら後ずさりする。
「あいつが危険をおかしてまでここに来るのは、この近くに帰還用の飛行艇を隠してるからに違いないんだよ!」
怒りと、興奮と共に、段々番場の顔が変容していく……。
「あの、せんせい、随分と面相がお変わりに……」
「ヒトの皮をかぶる必要なんてもうないんだよ。あいつの息の根さえ止めればな!」
「うわ~~~~~っ!」
「きゃーーーっ!」
番場は完全に本来の姿に変容した。
その横を、何事もないかのように女子高生が通りかかる
「すっごー! この、エイリアンのコスプレ超リアルじゃね?」
「ほんとー。めちゃ、迫力あるーっ!」
「触っちゃおう!」
「きゃー触感もリアル!」
「すいませーん! 写真一緒に撮ってもいいですかー?」
両サイドから、女子高生4人に腕を掴まれるエイリアン。振り払うのかと思いきや、そのまま女子高生のスマホのカメラに納まった。
エイリアンも女子高生は嫌いじゃないらしい。
と、その隙に、才蔵と矢追は、全速力で逃げた!

才蔵が息を切らしたまま俺に電話をかけてきた。
「番場が変身した。本来の姿に、エイリアンになってるよ~!」
「なんだってーっ!」
「ミッチーを返さないって言ってる! そんで、この近くに、ミッチーの飛行艇があるはずだって言って、それも探してるふうだった!」
「わかった。……あ、それ、他のみんなにも電話で伝えて!」
「わっかった!」
電話を切ると、ひどく不安そうな目で、ミチが俺を見ていた。
「番場先生が本来の姿に変身したって言ってる! 俺達を探してる。というか、もう、ミチのこと気付いてる! 飛行艇もこのあたりにあるはずだって、捜しているみたいだ!」
「……それでは、もう最初の作戦は通用しないかも。彼が正体を隠さないと言うことは、力も加減しないということです!」
「それって……」
「軍隊でもない、人間が対抗できるレベルじゃありません!」
俺はスマホを握って、少しの間考えた。そして、兄貴の携帯を呼び出した。
ワンコールで、兄貴は電話に出た。
「兄ちゃん! ……俺だけど。今、天宮市の市民公園の夏祭り会場に、番場先生、いや、元番場先生のエイリアンがいる。見ればわかる。完全に変容してる! もう丸腰の兄貴たちが対抗できる相手じゃない! これから何が起こるかわからない。……どうすりゃいい?」
「何言ってる? ……おまえ、今どこにいるんだ?」
「おれも、夏祭り会場にいる」
「星乃君も一緒なのか?」
「兄貴、ミチは返してやって!」
「何言ってる?」
「ミチは、地球を救いたいと思ってくれてるんだよ!」
「……」
「俺を信じてよ!」
「……そこにいろ!」
そう言うと、兄貴は電話を切った。
電話を切ると、ミチが「勇人!」と言って、後ろを指さした、人ごみを掻き分けながら、エイリアンが歩いているのが遠目に見えた。でも、みんなコスプレイヤーの一人だと思っているらしく、造形のホンモノらしさに感心するだけで、逃げだしたりはしていない。あいつも、取り敢えず俺達を見つけない限りは、暴れたりはしないだろう。
俺とミチは祭りの屋台の陰に隠れた。
「ミチ、今は、ミチが危ないんだ! 作戦変更だ! ミチが飛行艇で帰還することを、最優先にしよう!」
「え、でも?」
「……地球は存続可能だって言ったよね。……ミチが、そう信じてくれているんなら、まだ望みがある気がする」
「……勇人」

いきなり、数台の黒いワゴン車が猛スピードでやってきて、夏祭り会場を取り囲み始め、黒いヘリコプターが上空を旋回し始めた。
「ミチ、屋上に、早く!」
ミチは黙ってうなずいた。
俺達は、夏祭り会場を出ようと人ごみを掻き分けリオンに向かい始めた。夏祭り会場の目の前が、道路を挟んでリオンである。ところが、EECの車が思った以上に早く夏祭り会場を封鎖して、既に、会場の出口は検問のように、黒服が立っていた。と、出口に配備された黒服が、新しい黒服が来たところで、軽く互いに敬礼して、互いの配置に着いたのを見た。
「よし、大丈夫。……たぶん」
俺とミチは出口に向かって、まるで警備の人間のように睨みを利かしながら、歩いて出口まで行き、警備の黒服に二人して敬礼した。相手も敬礼を返してきた。そして俺らは、そのまま夏祭り会場を後に、リオンに向かって走り出した。

 店舗に駆け込み、エスカレーターを駆け上がる。そして、エスカレーターホールのエントランスから、屋上に駆けでた。日曜日のショッピングモールは、自家用車でいっぱいである。ミチは、いったいどうやって、こんな人目のあるところにUFOを乗り入れる事が可能だったのか、まったく謎である。
「いったい、どこに?」
ミチは、エスカレータホールにジャンプして飛び乗り、左手首の腕輪の様な物を触ると、一瞬にして屋根の上には、小型車のくらいの大きさの卵型の乗り物が現れた。
「凄い! こんなとこに……」
ミチがこっくりと頷いた。
と、その時屋上に、軽く地響きのような音がした。音のする方を振り返ると、そこにはエイリアン番場が立っていた。人間でいたときほど、表情が定かでないが、まるで薄ら笑いを浮かべているようだった。そして、ゆっくりと、空中に浮き上がった。
「そこに、隠していたんだな! 俺が、見逃すと思ったか?」
異様な現れ方に気付いた屋上の客は、悲鳴をあげながら、皆、蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
 俺は取り敢えず、自分もエスカレーターホールの上にジャンプして上がり、ミチの前に立った。
戦闘力では、かないっこない相手である。が、しかし、出来ることはないのか? そう、少なくとも、俺はこいつに聞きたいことがあったはずだ。
「どうしてミチや、俺を狙う?」
「……俺は、もう教師じゃないぜ。質問に答える義務はない……。が、まあ、冥途の土産に教えてやらんこともない……」
「……」
「おまえを襲ったのは、ただの俺の勘違いだ。おまえの能力のせいで、おまえの方を銀河連合の調査員と思い込んだ。……。誰にでも、間違いはある……」
「……ふざけるな!」
「……だが、今は間違えたからじゃなく、おまえがウザったいから、殺ろす!」
「待てよ! まだ質問は終わっちゃいないんだよ。……なんで、ミチのやっていることを知っていてミチを殺そうとするんだよ」
「……邪魔だからに決まってるだろう。俺達の計画の邪魔なんだよ」
「……計画?」
「……もうすぐ地球は大掃除なんだよ。邪魔な物は一掃する。そして、その後に俺達、偉大なるガルッタの入植地となる」
「ガルッタは惑星連合の一員のはず、どうして?」
「……そおさ。だからおまえの報告も内通者から知ることができた。俺達は、最終意見書からおまえの存在を消したい。そうすれば、地球は連合の救済措置を受けられず、終わる」
「……卑怯な」
「……卑怯? これは生存をより有利に導く為の戦いなんだよ」
「……」
「手段を選ばないものが、最終的に勝者になる!」
「……そうさせないために、惑星間の取り決めがある!」
「……お堅いこと言うな! ……どうせこの星の奴らは、外の世界を知る前に、この小さい星の中で、殺し合ってか、あるいは環境をコントロールできなくてかは知らんが、自滅していくんだよ。さほど利口でもなければ、自制心もない。そうだろ?」
「……」
「だからこの星にちょっと石ころをぶつけて、終わりを早めたところで、それはほんのすこーし時期が早くなったってだけなんだよ……」
「……ぶつける? って、もしかして、あの小惑星は、おまえらが意図的に?」
「おっと、これはうっかり、口がすべった。……と言ったところで、おまえたち以外、誰もそんな話は聞いていない」
「いや! 聞いたぞ!」
声の主を見たら、それは兄貴と数十人の黒服の一団が、見たこともない銃のようなものを構えて立っていた。
「俺達も聞いた!」
そう言いながら、エレベーターホールから、寛治をはじめとするヒーロー研のみんなが出てきた。
「こら! 子供は、すっこんでろ!」
兄貴が、拡声器で怒鳴った! ヒーロー研の皆は、すごすごと後ずさりしながら建物の中に引っ込んだ。
「おまえらが束になってかかってきたところで、痛くも痒くもないんだよ!」
ガルッタ星人はそういうと、駐車場の車を次々に浮き上がらせる。
「射撃!」
兄貴の号令で、一斉にガルッタに合わされた照準にむけ、銃が発砲された!
が、ガルッタは、浮あがらせた車でそれを受けると、そのまま車を、黒服の男たちに向けて、派手に投げ付けた。男たちは何人か避けきれず車の下敷きになった。兄貴の姿も見えない!
上空の黒いヘリコプターの上から、ガルッタにバズーカで照準を合わせた男が見えた。次の瞬間、ガルッタは、ヘリコプターに浮き上がらせた車を思い切りぶつけた。バランスを失った機体は傾いて、そのまま地上に叩きつけられ大破し炎が上がる。地上でも悲鳴があがり、人々が逃げ出し始めた。ガルッタは逃げ惑う人々に、屋上からどんどん車を投げ落として行く。
「やめろ!」
 そう叫んで、俺は考えるよりも早く、そいつに飛びかかっていた。一瞬、隙を突かれたガルッタ星人は、空中から地面に落下した。俺は、ミチからもらった能力を使って、ガルッタに、思いっきりキックをかました。以外と接近戦になると、力は強いが、ヘビー級とライト級位の力の差になる。いくらか俺の繰り出す蹴りや、パンチも効いているようだ。が、やはり、所詮力の差は歴然としていた。俺は、たちまち劣勢になりかけた。すると飛び込んできたミチがきれいな回し蹴りを、ガルッタの顔面にヒットさせた。
「おまえたちごときに、やられる俺様ではない!」
そう叫ぶと、俺を空中に浮き上がらせて、地面に叩きつけた。
「「「勇人!」」」
兄貴や、ミチの叫ぶ声が聞こえたが、俺は立ち上がることができなかった。
ガルッタは車を一台持ち上げると、俺に向かって投げつけてきた。終わると思った、次の瞬間、俺の目の前にはミチが立っていて、精一杯の力で、空中でそれを止めていた。
それは、おそらくミチの力の限度を超えているのが、立っているミチの消耗していく様子でわかった。車がようやく地面に落下したと同時にミチは、その場にくずれた。
「さあて、そろそろお仕舞にするかな?」
ガルッタ星人はそう言うと、ミチの卵型の飛行艇を浮き上がらせると、屋上の地面に叩きつけた。飛行艇は壊れて、屋上の床にめり込んだ。
「さあ、これでもうおまえの帰還は不可能になった。ここで、死ぬがいい」
そう言うと、ガルッタはミチを思いっきり高く空中に持ち上げた。
「やめろーーっ!」
そのとき、銃声がして、ガルッタが背中に衝撃を受けたのがわかった。力が抜けたのかそのままミチは地上に落下して行った。俺は、スライディングして走り込み、なんとかミチを受け止めた。銃を撃ったのは、足を引きずり、頭から血を流した兄貴だった。
「地球人なめんなよ!」
ガルッタは被弾して、背中から腹に貫通した銃痕に動揺を隠せない様子だった。
「所詮お前たちはこのまま滅びるのだ。おまえも、この星と共に、滅びればいい」
そう、ミチに向かって指さし、笑ってるのか、怒っているのかよくわからない顔を向けた。
と、驚いたことに、リオンの屋上をそのまま覆わんばかりの、宇宙船がいきなり空に現れた。
「へへへ、俺様の母艦がお迎えだ。去り際にここを吹っ飛ばしてやるさ!」
そういうと、宇宙船から照射されたビームに乗って、ガルッタ星人は母艦の中に吸い込まれて行った。あまりのことに、ヒーロー研の皆も屋上にわらわらと飛び出し、その圧倒的な大きさの宇宙船を、絶望的な眼差しで見つめた。
「なんなんだよ、これ……」
兄貴や、俺、そしてミチの目にも絶望が浮かぶ……。
と、いきなり、
「ギョエーーーーッ!」
「グワッ!」
「ギャーッ!」
宇宙船の中から、ガルッタ星人ののた打ち回るような奇声が聞こえて来た。
そして、大きく透明なシリンダーの様なものに詰め込まれたガルッタ星人が、まるで吐き出されるように飛び出してきた。
次の瞬間、宇宙船だと思ったものがでっかいおっさんみたいな顔になり、今度は、いきなり人間サイズの中年のおじさんになって屋上の床にドスンと着地した。
みんな、唖然とした、
「#$%&*+@……」
わけのわからない、宇宙語を言ったと思ったら、人差し指をたて、ちょっと待ってねみたいなジェスチャーをした。そして、喉仏辺りを2・3回さすり……
「はい、ワタクシ銀河惑星連合の幼児惑星群担当、幼児……ねえ、この翻訳で正しい?」
とミチに聞くが、ミチはちょっと困った風に首を傾げた、
「あー、もう一度言うね。ワタクシ銀河惑星連合の幼児惑星群担当のシュビダボッィテバです。
この度、貴殿の星に対して、ガルッタ星人――」
ここで、捕えたガルッタ星人を見るシュビなんとか……
「このガルッタ星人がいたしました行為は、数々の惑星間条約に違反し、尚且つ、先ほど本人の言説にありましたように、ガルッタ星人のテロリストにより、貴殿の星に意図的に小惑星が向けられたことは、宇宙憲章に違反する行為であります……」
「あの、先ほどの言説って、聞いてたんですか?」
ミチが、ちょっと不満そうな顔をした。
「ちょっと、裏取りに行ってたんだよ。ガルッタ星人の母艦まで……。そしたら、はい、速やかに釈明入りましたと。地球に向けての隕石軌道の意図的な改変も、当ガルッタ星の一部の異分子のしでかしたことであり、当方は一切預かり際らぬとこであります……。と、早いねー返答が。あらかじめ準備してたんじゃないの? そんで、母艦はさっさと帰ちゃったから、ちょっと擬態して、ビックリさせてやろうかなって……」
「ビックリさせすぎです」
ミチが怒った顔をする。ミチを暫く椅子恐怖症にさせた上官とは、この人に違いない。
「そして、地球の皆さん、地球にぶつかる予定の小惑星は、宇宙憲章に基づき、こちらの方で、処理しておきます。」
「ほんとうですか?」
「よかった!」
兄貴と俺は、歓喜した! ミチも嬉しそうにそれを見ている。
「……請求書は、あとで送りますねー。……って、冗談、冗談だよー」
「……ははは」
「うちの部下の調査官があてにならないから、途中から君らの近辺に潜入してたんだけど……」
「潜入って?」
シュビ氏は次の瞬間、あの縞虎の変顔の猫に変身した。
「「「あーーーっ! おっさんネコ!」」」
ヒーロー研の皆が、驚いた。そしてまた、猫は人間の姿に戻った。
「全然気付かなかった?」
と、ミチに聞くシュビ氏、
「だから、びっくりさせすぎです」
「それにしても、なかなかいいところだよね地球も。そのうちに、宇宙世紀を無事に迎え、我が惑星連合に参加されることを、心よりお待ち申し上げております」
そういうと、俺達に、微笑んだ。
「じゃあ、帰ろうか!」
とミチに言ったが、ミチはちょっと俯いて……。
「あの、飛行艇が壊れてしまって……」
「知ってる。……だから、母艦で来ました」
そういうと、ポケットから車のリモコンキーでも出すように、カード状のものを出して空に向けて、ポチっと押す。さっきの円盤より、直径が二倍くらいある宇宙船が、いきなり姿を現した。
「すごーーい!」
みんなが、さっきの絶望感とは違う感慨でその宇宙船を見上げた。
俺達の文明もいつか、宇宙に当たり前の様に乗り出していくのだろうか? ……そこにたどり着けるんだろうか? そんなことが頭をかすめた。

 少し放心状態の俺に、ミチが近づいてきた。そして、ゆっくりと俺を見上げた。
「勇人、もう、行かなくちゃ……」
「……うん」
「……なんて言えばいいのかわかんないや」
「うん、俺もだ……」
暫く、俺達は、無言でいた。
「じゃあ……」
とミチが、一歩下がった、
「ミチ……!」
と、俺はミチの腕を引いて、手繰り寄せると抱きしめた。
ミチは少し驚いた顔をして、でもそのまま、俺の肩に顔をうずめていた。
「……ミチ、ありがとう」
「うん、勇人にも感謝してる……」
それから、ミチはゆっくり皆の方に向き直り、
「さようなら……」
と言った。みんな、それぞれに惜別の言葉を掛けた。
そして、ミチは上官のシュビ氏と共に、巨大な母艦に吸い込まれるように消えていった。
それから、宇宙船はゆっくりと回転すると、何かの合図の様に何色かの光を放ちながら上昇していった。
 

いつか、兄貴が言ったように、大人になるってことは、分かったような気になって見ていた世界は、実は小さな卵の殻の中でしかなかったってことに気付いていくことなら、その17才のほんの数か月が、俺にとっての、それだったんだろう、と思う。
 そして、この星も卵の殻を破る様に、いつしか外の世界に目覚めていく時がやがて、訪れる……。未知なる出会いに心ときめかせながら……。

                                      終わり
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