「……あ、俺この後約束あるんだった。ごめん、遊ぶのはまた今度でいいかな?」
「なんの約束?」
「えっと、上司に会わなきゃいけなくてね」
「その格好で?」
そう言われて俺は自分が部屋着のままだったことを思い出した。
やるじゃねーか幼女。だがそんな指摘は屁でもねえ。
「いや、もちろん着替えてから行くよ。だから遊ぶのはまた今度でいい?」
「……だめ」
???
なんだ?なんでだめなんだ?
よくわからなくなってきたぞ。幼女はなぜ帰ろうとしない?
家に帰りたくない理由でもあるのか?勉強したくないとか。
公園で読書するような子に限ってそれはないと思うが。
いずれにせよこれ以上長引かせる訳にはいかない。
何も成し遂げずに捕まるのだけは御免だ。
あんまり公園から離れると幼女も帰り道がわからなくなってしまうだろう。
仕方ない。
少し強引に行くか。
「ごめん、本当にもう時間ないから、降りてくんない?ね?」
そう言って俺は車を止めドアを開ける。
しかし幼女は動かない。
しょうがないので幼女の肩を掴んで降ろそうとする。
「ほら、早く降りて。邪魔になっちゃうから」
「ちょっと、さわんないでよ変態!」
グフッ。
いや、ショックを受けている場合じゃない。
こんな所を誰かに見られたらそれこそおしまいだ。
「いいからほら、降りろって!」
「さわんないでって言ってんじゃん!大声出すよ!」
通行人の一人がこちらを見ている。
やばい。通報される。
そう思った俺は素早くドアを閉め、急発進した。
当然幼女も乗っている。俺はあっけなく敗北した。
二人共無言のまましばらく走り続けた。
流石にこのままじゃやばい。何とかして帰ってもらわねば。
「……なんで家帰んないの?」
無視して窓の外を眺めている幼女。
クソッ。誘拐しといてなんだがだんだんイラついてきたぞ。
「ねえ」
「道わかんないから」
「じゃさっきの公園戻るね」
「戻ったら誘拐されたって親に言う」
おいおいおい。
マジでどういうつもりだよ。
もうすぐ日も暮れるし、どうすりゃいいんだ……。
「家帰んないと親が心配するよ?」
「どうでもいい」
「……俺がよくないんだけど」
「あっそ」
………。
へえ。そうですか。ああそうですか。
ったくガキはいいよな。好きなことだけやってても生きてけんだからよ。
「は?」
あ、声に出てた……。
気付いたときはもう遅く、プッツンした幼女は俺の足を思い切り踏みつける。
「ちょ、おい!!」
大きく蛇行する車。
危うく歩道に突っ込むところだったがなんとか立て直す。
「あぶねーなバカ!」
気づけば俺は幼女に怒鳴っていた。
流石に今のはシャレにならん。
何人か轢き殺すとこだったぞ。
「……何も知らないくせに」
キッと俺をにらむ幼女。
先程の言葉はやはりまずかったか。
しかしいきなり足を踏みつけるのはやりすぎだろう。
「さっきはごめん。でもいきなりあんなことしたら事故っちゃうだろ?」
「……別にいいけど」
「君はよくても他の人がよくないんだよ」
「……ふーん」
相変わらず窓の外を眺めている幼女。
だめだ。これ以上コイツを乗せて運転するのが怖い。
後ろに乗せてもいきなり目隠しされたら終わりだ。
どうする。
そんなこんなでいろいろ考えていると、幼女が口を開く。
「ねえお腹すいた」
それこそ俺にとってどうでもいいことだ。
しかしここで拒否したら何されるかわからん。
ここは従うしかないか。
「じゃあコンビニでなんか買ってくるから」
「あそこ行きたい」
幼女が指差した先にはファミレスチェーン店の看板があった。
正直怪しまれるような行動は慎みたい。
しかし今はコイツの機嫌を取るのが第一か。
仕方なく駐車場に車を止め、ファミレスの中に入っていく俺と幼女であった。