俺は魔王になったはずだった。
この世界のすべてを掌握し、屈服させ、思い通りにできるはずだった。
神様とそう約束したんだ。
神様はいいよって言ってくれて、俺はあらゆる努力、あらゆる気遣い、あらゆる不快感から解放されるはずだった。
誰も彼もが俺にひざまずき、誰一人として俺に逆らったりしない世界。俺の理想郷が手に入るはずだった。そういう約束、そういう契約だった。
だから俺はこんなにも醜く巨大な身体にされたのだ。
牡鹿の角を持ち、猿の顔を得、狼の爪を研ぐ。俺は魔王になったはずだった。
だが見ろこうして今、二千年の眠りから覚めてみれば、人間どもはあまりにも増え、鋼鉄の空船に乗って俺に炎を浴びせかけてくる。
どれほど多くの油を詰め込んだのだろう、俺の灰色の皮膚は紙切れのように焼けていく。
赤いいかづちが俺の角で弾け、俺の自慢の角は一本になってしまった。もう生えてこないのに一本になってしまった。
青い血が、神様と契約してもらったあかしの青い血がどんどんと流れていってしまう。地上を這う人間どもがそれに溺れていくが、それどころじゃない、俺の右腕までいつの間にかなくなってしまった。
やつら手加減というものを知らないのか? どうして俺に対してこんなひどいことができるんだ?
確かに俺は街を踏み潰した。大勢の人間をバラバラにした。
だが、そうしていいという約束だったんだ。支配していいって神様は言ったんだ。
神様から折り紙で包んでもらったこの俺を、お前らどうして殺すんだ?
こんなはずじゃなかった。約束したのに。畜生、数え切れないほどの憎悪の火が俺を包む。俺の折り紙を焼き尽くす。獣の咆哮が硝煙くさい空へと響く。誰か、誰か聴いてくれ。俺は約束したんだ。破られたんだ!